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6.止められないライ


「イリス……」

「ああ、良かったです、もう駄目かと……」

「ありがと、もう少しで死ぬところだったよ」


 微笑みかけたいけど、死にかけたショックと背中から落下したショックで顔が引きつる。

 しかも恐怖の名残か震えてしまって、手を突いて立ち上がることもできやしない。


「ごめんイリス、俺の右ポケットにナイフが入ってるから、取り出して遠くに投げてくれない?」

「……え? 遠くに?」

「武器を持ってなけりゃ、オークに攻撃されないんだ」


 一瞬わけが分からないという顔をしたが、さすがイリス、察しがいい。

 すぐさま俺のポケットを探り、ナイフを見つけて投げ捨ててくれた。

 そしてイリス自身は、ゴブリンにここに連れてこられたときに杖を取り上げられたんだろう。既に丸腰だ。

 これで俺たちは襲われないはず。


「ケヴィーン! オークは光に弱い、顔を集中して狙うんだ!」


 オークは既にファイアボールを食らった衝撃から立ち直っていた。

 若干頬に黒いすすがついているけどノーダメージに見える。

 ファイアボールでは倒せない。

 でも目くらましにはなる。


 そしてオークは狙いどおり、あのダークレッドの目を一度は俺に向けたものの、すぐにふいっと視線をそらす。

 そのままケヴィンの方へとズシンズシンと歩いていった。


「それと……ライ! ライもナイフや剣を捨てるんだ! 武器を持ってなけりゃ攻撃されないから!」


 叫びながら周囲を見渡す。

 ミン婆を肩に乗せたケヴィンは、ホールの中央付近にいる。

 ライはまだ通路に隠れてるのか?


「ア、アタル……僕も、た、戦う……!」


 その声はすぐ後ろからだった。

 振り返れば、ライがすらりと長い長剣を手に立っていた。

 刀身が淡いブルーに光る、美しい細身の剣だ。

 シルバーの柄には、キラキラと輝く透き通った大きな宝石が一つ。

 そうか、これがライの剣か!


「剣、見つけたのか、良かったじゃないか! ……でも武器を持ってるとオークに攻撃されるんだ、すぐ投げ捨てないと!」


 でもライはあのピンクの唇をキュッと噛みしめ、そのままオークの方へ走っていこうとする。

 ライも戦いたいんだ。

 止められそうもない。


 それならば――。

 俺はライの腕をつかんで止め、ポケットに入れていたこぶし大の物をライの手に握らせる。


「ライ、これを持っていくんだ! オークはさっきの俺にしたみたいに、手でつかんで食べようとしてくる。もし避けられなかったら、腕をホールドされないように上げて、これを口の中にぶち撒けろ。それでもダメだったら……オークの牙は鋭いから、もしかしたら食べられる前にライのスキルが使えるかもしれない」


 ライはこくりと頷いた……ように見えた。

 そのままあっという間に駆けていく。

 ライは力は弱いといいつつ、走る姿は長身なだけあってさまになる。

 そしてこんな時だけは、あの重度の猫背もピンと伸びていた。


「ライさま、大丈夫でしょうか?」

「分からないけど……そうだ、イリスはここで待ってて。ホールの入り口にリュックを置いて来たんだ。ゴブリンはもうみんな逃げたよな? よし」


 俺はイリスを置いて、ホールの入り口へと向かう。

 でもオークの方も気になって、視線を送ると、ちょうどケヴィンがオークの手を避けてその顔に何発目かのファイアボールをぶち当てたところだった。


 ファイアボールはサッカーボールほどの大きさの炎の塊だ。

 巨大なオークにとっちゃ、熱い何かが顔に当たった程度で大して痛くもないだろう。

 でもさすがに炎が目の前に迫るとまぶしいのか、苛ついたようにうなり声を上げ、顔を両手でこすっている。


 よし、ファイアボールは効いてるな。

 もちろんそれだけじゃ倒せない。

 トドメを刺すとすれば……ミン婆の矢はあれだけデカいオーク相手には威力不足だ。

 となると、剣を持ったライだけが頼りなのか?


 俺は通路に投げ出していたリュックのところまで戻って、目当ての物を探る。

 あと使えそうなのはこれと、これくらいか……なんとかなるか?

 いや、何とかするしかないんだ。

 二つはいっぺんに持てないから、片方を腰にくくりつけ、急いで立ち上がって踵を返す。


 でも走ろうと一歩踏み出して、ガクンと膝が抜けた。


「くっそ〜……」


 俺の身体はもう限界だった。

 全速力で走って、ゴブリンと戦って、そしてオークに食われかけて。

 めちゃくちゃしんどい!

 でも、こんなに一生懸命になったのは人生で初めてだ。

 人生……そう、プログラマーになって毎日クタクタになるまで働いた、あの前世も含めて。


「ライさま!」


 イリスの声に顔を上げれば、恐れていたとおり、ライがオークにわしづかみにされて持ち上げられていた。

 さっきまでの俺とまったく同じだ。


 いや、違う……ライは俺の言うとおり、両手を頭の上に掲げてる。しかも右手には剣を、左手には俺が渡したある物を持って。


「ライ、それを口のなかに投げ入れろ!」


 俺の叫びとほぼ同時に、ライは言う通りに俺が渡した物……お清めの塩を投げた。

 ちゃんと封を開けてたみたいで、白い塩が霧のように飛び散りながらオークの口の中に消えていく。


 お清めの塩は母さんに持たされた、死霊系モンスター向けのアイテムだった。

 けれど塩には違いない……しかもぶっかける用だから量もたっぷり。


 すると俺の狙い通り、オークの太い鼻にギュッとしわが寄ったかと思うと、怒りのような唸り声が上がった。


「グアアッ! ガー!」


 ペッペと慌てたように唾をはくも、なぜかライのことは離さない。


 くそっ! どうしたらいい!? 

 パクッと頭を囓られちゃえば、スキルが発動するかどうかってタイミングでライは死んでしまう。

 やっぱり俺と同じように、食べられる直前に隙を作るしかない。


「ケヴィン、ライが食べられそうになったら、さっきみたいにファイアボールを顔に当ててくれ!」


 叫びながらオークの方へと急ぐ。

 でも返ってきたケヴィンの返事を聞いて、思わず足が止まった。


「すまん、転んじまって杖が折れた! もうファイアボールは打てねえ!」


 声の元を探れば、ケヴィンはオークの足に向かって走って行くところで、そのまましがみついて押し倒そうとしていた。

 そうか、ケヴィンの杖が折れたからオークは狙いをライに切り替えたのか!

 きっとケヴィンは折れた杖をさっさと捨てたんだろう。

 にしても、さすがのケヴィンでも素手でオークは倒せないよ……だから俺はあれを持ってきたわけで。


 それに俺の考えてる作戦でオークを倒すためにはライが必要だけど、その前に肝心のライが死にそうだ。

 俺とオークの距離はまだ十メートルはある。

 この距離じゃ俺には何も……。


 途方に暮れる俺の目の前で、ライが食べられそうになっていた。

 でもさっきの俺とは違う。

 ライは剣を持つ手が自由だから、その剣をメチャクチャに振り回してオークの顔を切りつけていた。

 すると岩のようなオークの皮膚に、赤い線のような傷痕がいくつも走る。


 まだ猶予があると察した俺は、再び走り出した。

 目指すはホールの中央の柱だ。


 そしてたどり着いた柱に、さっきリュックから持ってきたロープを巻き付ける。

 これは最初の初心者用ダンジョンから、こっちのダンジョンに下りてくる時に使ったやつだ。

 ちゃんと回収しといて良かった!


 俺は結びつけたロープの反対の端を握って、今度はオークの方へと急いだ。


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