2.ゴブリン襲来!
「ゴブリンが来たぞ!」
ケヴィンはそう叫ぶないなや、背中の盾――ゴーレムに殴られてベッコリ凹んでるけど、まだ使える――を外して構える。
その激しく揺れる肩の上で、器用に弓に矢をつがえるミン婆。
「よし、さっそくスキルを使ってみる!」
魔力紋の位置は事前に首の正面にあるって聞いていた。
けれどもゴブリンの姿がよく見えてくると、スキルを使う自信が無くなる。
ゴブリンはミン婆よりちょっと大きいくらいで、俺のへそくらいまでしか身長がない。
ほとんど毛がない頭に尖った耳。
ぎょろりとした目は狂気を感じさせるし、大きな犬歯を見せて笑う口からは、真っ赤な舌がべろりと垂れ下がる。
おまけに肌は灰と土が混ざったような気色の悪さ。
どこが雑魚だよ、メチャクチャ恐いんだけど!
そして身体は小さいくせに全身にしなやかな筋肉がついていて、跳びはねるようにすごい速さで走ってくる。
しかも三匹まとめて。
一匹は片手剣、もう一匹は斧、そして最後の一匹は槍を持っていた。
「やばい、速すぎるって! どうやってスキルを使えばっ……」
「とりあえず、俺が一匹ぶっ倒す!」
ケヴィンは頼もしくもそう言い、盾を左手で構えて右手で杖を抜く。
そして三匹のうち、真ん中の片手剣の一匹をはじき飛ばした。
でも残りの二匹は素早く左右に別れ、一匹はライを、もう一匹は俺を狙って飛びかかってくる。
右手にボロボロの斧を振りかぶったゴブリンが、狂気の瞳に俺を映した。
「うわああっ!」
ボーガンを構える隙もない。
俺は咄嗟にリュックを抱えて、せめてもとイリスの前に立ちふさがった。
し、死ぬ……!
リュックを頭の上に持ち上げて衝撃に備えるも、代わりに聞こえてきたのは「ぐえっ」という蛙が潰れたような声だった。
恐る恐る目を開ければ、俺のすぐ目の前に、ゴブリンが喉に矢を突き立てられて仰向けに倒れている。
「ミ、ミン婆!」
「そやつはまだかろうじて生きとるぞ、今のうちにスキルを使うんじゃ」
そう言ってる間に、ケヴィンがさっき吹っ飛ばしたゴブリンにファイアボールを命中させる。
ファイアボール自体は攻撃力は低いものの、見事に頭にぶち当たり、ゴブリンはもんどりうって床の上をゴロゴロと転がった。
そして最後のゴブリンはライの左肩に槍を突き刺したものの、ほぼ同時にライのあのナイフがその喉元に突き立っていた。
スキルを発動したんだろう。
みんなすごい……。
それならミン婆の言うとおり、今度は俺の番だ。
目の前に倒れているゴブリンの横に膝を突く。
あの狂気を宿した瞳は急速に光を失って行くところだった。
俺は急いで、ミン婆の矢が突き刺さったすぐ下、魔力紋を見つめてスキルを唱えた。
「<コードインスペクション!>」
急激に陰っていく視界。
いつもはここで急いで行動処理を見てしまうけど、今日は違う。
なんせもう倒す寸前だからな。
俺は落ち着いて、まずは上へとソースコードをスクロールさせた。
「おぉ……」
まずはステータスが目に入る。
ゴブリンは体力と知能と力は低いけど、素早さと器用さが高かった。
そして気になっていたレベルは13だ。
なるほどね、俺より8も上か。
それならレベル8まではスキルが効くってことか?
あ、もしかして俺も、みんなにスキルを使ったことでレベルアップしてるかもだけど……それは後で確認しよう。
そんでもってこのゴブリンのスキルは<夜目>らしい。
暗いところでも目が見えるってことかな。
ついでに得意、不得意も載っていて、ゴブリンは視力と聴力が優れてた。あと繁殖力ね。
苦手なのは火傷、感電、凍結……これは魔法耐性が低いってことかな?
どおりでケヴィンのファイアボールが効果的なわけだ。
人間の得手不得手となんか違う感じだけど、弱点だって考えれば分かりやすいな。
俺は続いて行動処理の方に戻った。
読み進めて行くうちに処理の多さにうんざりしつつも、薄ら寒い思いが湧き起こってくる。
ゴブリンは残虐な生き物だっていうけど、本当だな……。
分かったことをざっと羅列するとこんな感じだった。
・ゴブリンは自分の群れ以外の生き物を敵と見なして攻撃する。ただし同一ダンジョン内に生息するモンスターは除く。また、群れの個体が同一の敵に五匹以上殺された場合は、攻撃を中断して逃げる。
・相手が女の場合は致命傷を与えずにさらう。それ以外の場合は相手を殺すまで攻撃する。
・攻撃は頭または首を狙うが、届かない場合は先に足を攻撃する。
・高価な武器や防具、財宝などの宝物を見つけた場合は巣に持ち帰る。
・逃走時以外は群れのボスの指示に従う。
・群れのボスは、オーク、ボスゴブリン、自分より身体の大きい個体の優先順で決める。
・ボスが殺された場合はボスを殺した敵から逃げる。
処理はまだ続いたけど、なかなか読み切れない。
人型のモンスターだからか処理が細かいし多くって……。
でも普段の行動すべてが載ってるわけじゃないと思う。多分。
それでもボリュームがすごくて読み切れなかった。
視界がクリアになり、視線の先に横たわるゴブリンは、その目から光が失われてる。もう死んだんだな。
もしかして……カウンターを見てなかったけど、カウンターがゼロになるより先にゴブリンが死んだからスキルが途切れたのかも?
「どうでしたか?」
ゴブリンが恐いのか、少し離れたところからイリスが尋ねる。
それでも髪を耳にかけ、身体をかがめてゴブリンをのぞき込んでいた。
「レベルは13だったからか、問題なく見えたよ。ただ……う~ん、ゴブリンは今までの敵より知能が高いからか、処理が多すぎて読み切れなかったんだ」
「そうですか……なにか戦いの役に立ちそうな情報はありましたか?」
「そうだなぁ、とりあえず一人でゴブリンを五匹倒せば、他のゴブリンは逃げるみたいなんだ。これは使えそうだろ? あと群れのボスが倒されても逃げるらしい」
ボスを倒すってのはあまり現実的じゃないな。
なんせ、ボスと戦う時は子分のゴブリンたちがわんさかいるってことだろうし。
それなら五匹倒せば他は逃げる、って方が断然やりやすい。
「そういや、宝物を見つけたらそれを持ち帰るのを優先するらしくてね。ライの場合は剣を盗られたけど、剣がなかったら殺されてたろうなぁ」
剣を盗られたばっかりにこんなことになってるわけだけど、逆にライの剣がそこらにある初心者向けの安物だったら……ある意味、盗られるだけで済んで良かったってわけだ。
って、そういえばライはどこだ?
周りを見渡してから通路に倒れているのを見つけてビックリした。
さっき倒したゴブリンとそのままもつれるようにして倒れ込んだみたいだ。




