9.5人の遥かなる目的
みんながみんな、沈黙していた。
やっぱりビックリするよね……。
「【剣聖】オベリオによって魔王は姿を消したって言われてるけど、死んだわけじゃないよな。それなら各地の強いモンスターを倒していけば、いつかは魔王にたどり着けるんじゃないかなって思ったんだ」
今の平和な時代では、冒険者の職業に転職した者はギルドに登録して、依頼を受けて生活するのが普通だ。
危険を冒すっていっても、せいぜい難易度の高い依頼に挑戦するくらい。
それが当たり前だから、だれも魔王を倒そうとか、魔王に会いに行くなんて本気で考えないんだと思う。
つまり、本気で考えれば、魔王に会いにいけるはず。
「む、無理かな? でも何とかなるんじゃないかと思うんだよ。どんなに強いモンスターにも俺のスキルが使えるんならさ。それにイリスの何でも治しちゃう奇跡がある。ケヴィンはもう少し魔法を覚えろよ? ライも村に戻るために剣の腕を鍛えるんだ。そうすればきっと……」
口にしていくと、本当に何とかなるような気がしてくるから不思議だ。
俺たちは伸びしろがある。
これでもかってくらいにね。
「そうすればきっと、魔王にたどり着くことができる」
甘すぎるかな?
甘すぎるかもしれない。
俺の願望がたっぷりだ。
パーティーの要は戦闘職だってのに、ケヴィンはファイアボールしか使えないし、ライは剣が苦手だって言う。
でも、この二人にだって、今は分からないだけで何かすごい能力があると思うんだ。
女神さまが二人の職業を決めたんだから、きっとそれには意味があるはず。
俺の熱い思いと裏腹に、気まずい沈黙が流れる。
俺は祈る気持ちでみんなの顔を順に見ていく。
すると、一人だけ顔が見えないライが、ポツリとつぶやいた。
「無事にここを出ることが、できたらって……なんか……死亡、フラグ」
死亡……?
死亡フラグ!?
「ちょっ、人が真剣に話してる時に、縁起悪いこと言うなよ!」
「がはははっ、ライ、面白いこと言うじゃねえか!」
「ふふっ、ふふふふふ」
ケヴィンもイリスも笑うもんだから、なんだか俺までおかしくなってくる。
そうやってひとしきり笑ったら、急にイリスが背筋を伸ばしてこっちを見てきた。
「私、アタルさまについていきます。魔王を倒すだなんて、私には途方もない大きなことですけど……私のこれまでの冒険者としての生活は、みじめな思いと周りへの申し訳ない気持ちでいっぱいだったんです、アタルさまに出会うまでは。こんな風にパーティーのみなさんと笑いあって楽しく冒険できる日が来るなんて、私は……」
イリスはいつの間にか、あの淡いパープルの瞳にうっすらと涙を浮かべていた。
ああ、イリス……そんな風に思ってくれてたのか。
俺の脳裏に、初めて見たときの悲しみが染みついた彼女の姿が浮かぶ。
「だから、えっと、すみません……ぐすっ……とにかく、みなさんと行けるところまでいってみたいんです」
「イリス、ありがとな。助けられたのは俺もだよ」
イリスの涙にあてられて、俺の胸まで熱くなってくる。
俺だってそうだったんだ。
この一年間、どれだけみじめな思いをしたことか。
そんな風に反芻していたら、ケヴィンも「俺だってそうさ」と声を上げた。
「俺は壁役としていろんなパーティーに呼ばれたが、ろくに魔法が使えねえとか、食費がかかりすぎるとか、文句ばっかでよぉ。俺のことを見下すやつらばっかだったなぁ」
ケヴィンは歯を見せて苦笑しながら、なんてことないように言う。
おおらかなケヴィンだから悲壮感なく聞こえるけど、想像するとなかなかに辛い。
「でもよ、アタルは違うんだよな。見下すどころか俺のことを頼ってくれるっつーか、ちゃんと仲間として認めてくれるっつーか」
「当たり前じゃないか! そりゃ俺だってファイアボール以外も覚えろよって思ってるけどさ、ケヴィンは今のままでも頼りになるんだもん」
「がははははっ、やめろよ、照れるじゃねえか! とにかく、アタルと一緒だと居心地いいからな、一緒に行ってやるよ。魔法の方はその……そのうちな、そのうち」
ケヴィンが照れてるのが分かる。
そうか、居心地がいい、か。
なんだか嬉しいなぁ。
「ぼ、僕も……行く……一緒に……」
「えっ、ライ……」
今度は死亡フラグ発言以降、黙り込んでいたライだ。
「ぼ、僕、こんなだから……村に友だち、いなくて……パーティーも、すぐ、クビ……」
友達がいない、か……。
きっと超内気で人としゃべるのが苦手なんだろうな、ライは。
でも今はいつもより大きな声で、一生懸命話してるのが伝わってくる。
「アタルは……僕のこと、馬鹿にしない……し、それに僕の……命の、恩人」
「命の恩人!? なんだよそれ、大げさだって! ……いや、そうでもないか?」
「そうですよ、アタルさま。あのとき、アタルさまが下のダンジョンに行くとおっしゃらなければ、ライさまはきっと……」
「がははははっ、確かにそうだなぁ! まあアタルは冒険者にしちゃ甘っちょろいが、俺は好きだぜ、そういうところ」
「もうやめろよ、今度は俺が照れるっつーの!」
もう青春ドラマみたいになってるじゃんか! この流れ、照れるからやめようぜ!
照れるし胸が苦しいし、たまらないってーの。
な~んて照れながら、ふと、こんな時に一番に笑うミン婆がまだ黙り込んでることに気がついた。
しかも真剣な顔で視線を下に落とし、考え込んでいる。
あ、そうか……そうだよな。
ミン婆はかなりのお年だもんな。
その年で町を出て冒険なんて、無理っつーか、厳しいっつーか。
盛り上がっていた俺の心が、一気に萎む。
できればこの五人で行きたい。
でもミン婆が無理だってなら、他に誰か【シーフ】を……。
「ふむ、いけるかもしれんの」
「……え?」
「お主のスキルじゃ。アタルのそのスキルがあれば、魔王を倒すことができるやもしれぬ」
いつになく真面目なミン婆の声に、俺は咄嗟に言葉がでない。
すると、代わりにケヴィンが口を開いた。
「おっ、婆さんもそう思うか? ならみんなで行こうぜ、婆さんだって隠居して死ぬにはまだ早いからな」
「そうじゃなぁ、死ぬ前にもう一度、壮大な冒険でも楽しんでみるとしようかのぅ。ふぉっふぉっふぉ」
そう答えたミン婆はニヤリと笑って、いつものお茶目なお婆ちゃんだ。
ミン婆にとって町を出るなんて、一大決心だろうに……。
「よし、これで五人で行けるな! そんなら死亡フラグなんてへし折って、さっさとライの剣を取り返さないと」
「そうですね、出発しましょう!」
というわけで。
俺たち訳ありパーティーには大きな目標ができた。
魔王討伐だなんてデカすぎる夢、我ながら笑っちゃうよなぁ。
でも俺のメタスキルがあれば何とかなるような気がするんだ、マジで。
その目標のためにも、まずはゴブリンからライの剣を取り返すぞ!




