8.もしかしてメタスキル?
「えっと……どうしよ」
なんて言えばいいんだ?
そもそもみんなには、俺のスキルはモンスターの行動や習性が分かるもんだって、大雑把な説明しかしてない。
だってプログラミングの話なんてできないし。
「どうかしましたか?」
「えっ、とぉ~……」
イリスの純粋無垢な澄んだ瞳で見つめられ、言いよどむ。
黙っておくべきかな?
変に説明したら混乱させるかもしれないし、俺の頭がおかしいと思われるかもしれないし。
……いや。
短い時間だけど、俺はイリスやケヴィン、そしてミン婆や出会ったばかりのライも、大切な仲間だと思ってる。
嘘はつきたくないし、この中で俺の頭がおかしいなんて思うやつはいないはず。
「驚かないで聞いてくれる? 俺のスキル、俺自身にも使えたんだ」
「えっ? それは、どういう……」
「お前のスキルって、モンスターがどうやって行動するか分かるやつじゃねえのか?」
「俺もそう思ってたんだけどさ」
「ふむ、詳しく話してみい」
落ち着いたミン婆の一言で、俺も腹をくくる。
「まず俺のスキルについて話すね。実はモンスターがどういう時にどう行動するっていう行動原理は、誰かが決めて文章みたいなもんにしてるんだ。で、俺はその文章を読めるってわけ」
「へえ、その誰かってのはつまり、魔王なのか?」
「そうだな、俺もそうじゃないかと思ってるんだ。でも……あ、そうだ。俺が分かるのはモンスターの行動だけじゃなくて、モンスターの強さなんてのも分かる。体力がどのくらいとか、素早さがどのくらいとかね。つまり、行動原理だけじゃなくて、モンスターの情報そのものを見れるんだ、俺のスキルは」
意味が伝わっているかと四人の顔を見れば、イリスは不思議そうな顔で、ケヴィンは腕を組んで眉をひそめ真面目な顔で、それぞれ俺を見てる。
そしてミン婆はしわくちゃの指で顎をつまんで「ふむふむ」とつぶやき、ライはうっすらと口を開けて……まあ、髪で見えないからどんな顔をしてるか分かんないけど、俺の話を聞いてくれてはいる。
「でな、どういう基準か分からないんだけど、その見れる情報は相手によってちょっとずつ違ってて、俺もまだその基準が分からない。でも、俺の職紋にスキルを使ったら……俺の職業とかスキルとかレベルとかステータスとか、そういう情報が見れたんだ」
「でもアタルさまはモンスターではないのに……ではその情報はどなたが定めているんでしょうか? 女神さまでしょうか」
「そう、それなんだ。モンスターは魔王だと思うんだけど……」
なんで魔王がモンスターをプログラミングするのと同じ仕組みで、俺の情報が書かれてるんだろう?
でもその違和感をみんなに上手く伝えられるかどうか。
「あのな、俺が読んでる情報が書かれた文章ってのは、プログラミング言語っていう特殊な言葉なんだ。それなのに、モンスターも俺も、同じ仕組みで書かれてる……これってどういうことだと思う?」
俺の問いかけに、四人ともしばし沈黙する。
最初に沈黙を破ったのはケヴィンだ。
「そいつぁもしかしたら、最初に女神さまが人間を作って、その作り方を魔王が真似してモンスターを作ったんじゃねえか?」
「あっ、なるほど……」
そうか、そういうことなのか。
いやでもさ、そうなると人間は女神さまがプログラミングで作ってるってわけ?
そんなの嫌だよ! それじゃまるで、すべての人間はみんなAIってことになるだろ?
「う~ん、そうかもしれないけど……そうだとしたら、俺は女神さまに色々聞きたいなぁ」
俺のつぶやきに、一拍おいてイリスが「ぷっ」と吹き出した。
「え、なに?」
「すみません、つい……女神さまに聞きたいだなんて、大胆だなと思いまして、ふふっ」
「ふぉっふぉっふぉ、アタルは面白いのぅ」
「なんで!? だっておかしいだろ? 俺の得意分野とか不得意分野なんてのも定義されてるんだぜ? それぞれどういう意図があるのか聞きたいし、俺の中のどこまでを女神さまが決めたものなのか知りたいんだ」
「どういう意味って、得意なのと苦手なのって意味じゃねえか」
「あーもうっ、そうじゃなくって!」
自分の情報がプログラミングされてるって違和感を、上手く伝えられない。
まあそれはいい。
この世界は女神さまが絶対神で、魔王が絶対悪だから。
女神さまが自分のあれやこれを勝手に決めてるって分かっても、ほとんどの人は違和感なんて感じないんだろうな。
だから俺がいくら自分の情報がプログラミングされてるんだって言っても、この世界の人間は理解できないのかもしれない。
あれ、これってなんて言うんだっけ……。
そうそう、メタ発言っていうんだ。
ほら、ゲームの中のキャラクターがゲームのシステムについて発言したり、ゲームを遊んでる人に向かって声をかけてくるやつ。
まあ、この世界にはゲームっていってもカードゲームやボードゲームくらいしかないから、これまたみんなには伝わらないんだろうけど。
「そもそも俺のスキルがメタいスキルなんだよなぁ」
略してメタスキル。
う~ん、いい呼び名だけど、この世界の誰にも理解してもらえないんだろうな。
そういやさ、俺のスキルで職業名もスキル名も見えたわけだけど、実は【司祭】さまの使う<鑑定眼>もメタスキルの一種なんじゃないか?
ほら、ソースコードの情報を一部分だけ見れるんじゃないかなって。
そうなると俺のスキルは<鑑定眼>の上位互換ってことになる。
なんか我ながらすごいなぁ。
「メタ……なんですか?」
「あ、いや、それはいいや。とにかくさ、ミン婆以外の、イリスもケヴィンもライも、本当は女神さまにひとこと言いたいんじゃないの? イリスは奇跡のデメリットとか、ケヴィンとライは職業のアンマッチとかさぁ」
「それは、まあ……そうですねぇ」
「がはははっ、そりゃな! なんで俺を【魔法使い】にしたのかは気になるわな」
「ぼ、僕も……」
「それじゃさ、このダンジョンを無事に出ることができたら、みんなで町を出て冒険に出発しないか?」
一瞬で訪れる沈黙。
なんかすごい恥ずかしいこと言ってしまった気がする。
町を出て冒険って!
俺は頬がどんどん熱くなっていくのを感じ、いたたまれなくなって俯いた。
俺が本当に言いたいことはまだこの先だってのに……。
「ふぉっふぉっふぉ、冒険とは心躍る言葉じゃのぅ!」
ミン婆が一番最初に反応して笑ってくれた。
でもそれはバカにしてる感じじゃなくて、どこか嬉しそうだ。
「がははっ、冒険だと? これが最初のダンジョンだってのに、ずいぶんでかいこと言うじゃねえか、楽しそうだぜ」
「はい、私も楽しくなってきました!」
「ぼ、僕も、かな……」
「でもどこに冒険に行くというんじゃ?」
ミン婆の質問に、俺はサッと顔を上げて一つ深呼吸する。
これを言っても、みんなはドン引きせずに賛成してくれるかな?
ちょっとした恐怖と、ワクワク。
「俺は本当は女神さまに会いに行って、色々聞きたいし、一つや二つ、文句も言いたい。でもさ、女神さまってどこに行けば会えるのか分からないだろ? そもそも会いに行ける場所にいるのかどうかもさ」
そう、本当の目的は女神さまだ。
なんで俺を異世界転生させて、忘れたままでいたかった【プログラマー】なんて職に転職させたんだ?
そんでモンスターだけでなく、俺たち人間の情報まで見られるようにしちゃってさ。
「だからさ、先に魔王に会いに行こう。そんで魔王を倒しちゃったりしたらさ、女神さまもさすがに姿を現すと思うんだよね」
「ま、ま、魔王っ!?」
イリスは驚きの声を上げ、ケヴィンとライは口をポカンと開けて絶句してる。
そしてミン婆は普段はシワに埋もれてる目を力一杯見開いて、俺を見つめていた。




