5.ゴーレムを止めろ!
「こいつは戦闘モードになれば、動いてるものを攻撃するだけなんだ。だからどんだけ音を立てても、攻撃しても、こいつに見られてなければ問題ないから!」
俺はケヴィンに叫ぶ。
そこまでは分かった。
じゃあ、それを利用してどうすればいい?
ゴーレムが巡回モードに切り替わる前に俺は下に下りて、やり過ごす。
そしてイリスたちを連れて、ゴーレムの前では動きを止めて、音も立てずに通り過ぎるのを待つか……?
う~ん、もしそこにゴブリンが来たらどうするよ。
ていうか、そうか、ゴブリンはそうやってゴーレムから身を守りながらダンジョンを移動してるんじゃないか?
だってゴーレムの攻撃対象の判定には、モンスターか人かなんて区別はなかったし。
それならなおのこと、ゴブリンはゴーレムを恐れちゃいないってことだ。
ゴブリンとの戦いの邪魔になる可能性があるのなら、ゴーレムは今、排除しないと。
でも俺たちの攻撃手段は……ケヴィンはファイアボールだけだしなぁ。
ファイアボールじゃ……ん? 待てよ。
「ケヴィン、ゴーレムがそっちを見てない隙に、杖を抜いて詠唱を始めてくれ! そんで、ファイアボールを片方の足の同じ場所に集中して撃つんだ。できる間は何度でも!」
細かい作戦を話す余裕はない。
俺は登ってきたときと同様、ライのナイフとボーガンの矢を頼りに滑り下りていく。
そして下りきったら、床に投げ捨てていたボーガンを拾った。
良かった……まだ矢が三本だけ残ってる。
頼むから足りてくれよ。
そうしている間に、既にケヴィンがファイアボールを一発撃っていた。
ゴーレムはケヴィンに対して横を向いていて、まったく気づいていない。
よし、こらならいけるぞ。
俺はゴーレムの動きに合わせて常に背後になるよう、ゆっくり移動する。
その間にも、ケヴィンは俺の指示どおりファイアボールをコツコツ当てる。
右足の、ちょうど膝当たりだ。
後ろから見てる限り、一発目、二発目と、何の変化もなかった。でも三発目当たりから、なんとなく足の色が明るくなったような気がした。
この作戦のヒントは、ミン婆の言葉だ。
ミン婆が、火で乾燥すれば土はもろくなるけど、ファイアボールくらいの火力だとせいぜい手足を崩す程度だって言ってた。
そう、手足。
ゴーレムを倒すには胸の奥にあるコアを破壊する必要があるけど、倒す必要はないんだ。無効化するだけなら、ファイアボールで十分なはず。
何発目か。
もう少しでゴーレムが一周まわって再びケヴィンを正面に捉えようって時、最後のファイアボールがボフッとゴーレムの膝にぶち当たる。
ゴーレムの右足は膝を中心にすっかり白茶になって表面がひび割れていた。
これならいけるかもしれない。
「ケヴィン、ストップ! もういいよ!」
俺はゴーレムの背後になるべく近づいて、ボーガンを構える。
ゴーレムは敵を排除したと判断したみたいで、さっきまでの猛攻は嘘のように、またゆったりとした速度で歩きだした。
戦闘モードが終わって、巡回モードにきり変わったんだ。
よし、今がチャンスだ。
俺はゴーレムの白茶けた足に狙いを定めた。
シュパッ!
矢が深々と突き刺さったところから、蜘蛛の巣みたいなひびが走っていく。
でもこれじゃ足りない。
しかも最悪なことに、ボーガンの音を感知してゴーレムが足を止めた。
俺は急いで、今度は一番大きなひびを狙ってトリガーを引く。
シュパッ!
矢は深々と刺さったものの、ゴーレムはさっきの戦闘モード同様、素早くこちらを振り返った。
や、やばい……。
俺が動かないよう息も止めて固まる中、何かの悲鳴のような、甲高い音が聞こえてくる。
ミシミシミシッ!
二本目の矢が刺さった、ゴーレムの足だ!
ひびが稲妻みたいにジグザグに走り、驚くスピードで広がっていく。
そしてそこからポロポロと小さな砂がこぼれたと思った次の瞬間、グシャっと膝が潰れて、ゴーレムの巨体が傾いだ。
「や、やった!」
ゴーレムは壁に手をつき立ち上がろうとするも、この巨体だと足一本じゃ立ち上がれない。
ついにゴーレムは諦めて、ピタッと動きを停止する。
「予想どおりだ……良かった……」
何が起きたか簡単に説明するとこんな感じだ。
ゴーレムは戦闘処理の周囲を見渡すってやつをやっている最中だった。
そこで不測の事態が起きて動けなくなる。
この世界のプログラミング言語によく似たJAVAで説明すると、そういう場合はなんたらexceptionっていうエラー処理が走ってその処理を抜けるんだ。
戦闘処理を抜けると、巡回処理に戻る。
そして……。
そう、巡回モードの処理を繰り返す条件は「足が動いて歩ける間」だった。
つまり足が動かず歩くことができなければ、巡回モードは終了するってこと。
「終わったああああぁ、死ぬかと思ったぁ~」
俺は安堵のあまり膝がカクンときて、その場に崩れ落ちる。
そして思わず涙ぐみそうになったけど、大事なことを忘れてた。
「そうだ! ケヴィン、大丈夫か!? やったぞ、ゴーレムが止まった!」
俺は急いで立ち上がって、ケヴィンに駆け寄る。
それで俺の姿がゴーレムの視界に入ったけど、ゴーレムは無反応だ。
あの赤い石の瞳が、相変わらず暗く輝いているのが不気味だけど。
「ケヴィン、殴られたのか? どこか怪我は……」
「ああ、問題ねえ。パンチを避けようとして倒れただけだからな」
「そうなの!? なんだ、良かったぁ。いやあ、ゴーレムの上からケヴィンの苦しそうな声が聞こえたときは、死んじゃったのかと思ったよ」
「縁起わりぃこと言うなって、がははははっ!」
ケヴィンのいつもどおりの元気な笑い声を聞いて、俺は安堵する。
ああ良かった、本当に……それにしてもあのゴーレムの攻撃を全部避けるとはねぇ、ケヴィンって実はすごいやつなのかもしれん。
「それより、ゴーレムはどうなってんだ?」
「ああ、ゴーレムは歩けなくなったら巡回モードが終わるんだ。多分もう、動かないはず」
「さっきまであんなにメチャクチャに殴ってきてたってのにか?」
「そういう作りになってるんだよ。ちなみにゴーレムは巡回モードで歩き回ってる時と戦闘モードで戦ってる時で素早さが変わるから、パンチがすごかったってわけ」
「素早さが変わる? へえ、やっかいな敵じゃねえか。アタルのスキルでそんなことが分かるとはなぁ」
「スキルが効かなかったらヤバかったね。さあ、みんなのところに戻ろう」
俺はケヴィンに手を貸して立ち上がらせると、リュックから治療薬を一本出して渡した。
ケヴィンは盾で攻撃を受けたときの打撲と軽い擦り傷だけみたいだけど、ファイアボールを打ちまくったから疲れたかなと思って。
ていうか、あのゴーレムの戦闘モードと接近戦でやり合って打撲と擦り傷で済むって、すごい【魔法使い】だよな……。
そうして俺たちはヘロヘロになりながら、三人の元へと戻ったのだった。




