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2.こっそりゴーレム超接近


「ぼ、僕が行く……もともと、一人でも行くつもり、で……」


 そうだった。

 ライは一人でも剣を取り戻しに行くつもりだったんだ。

 もしそうしていたら、あのゴーレムとも一人で向かい合ったってわけ?


「ナ、ナイフを、刺してみる……」

「それこそ危険だって! 落ち着くんだ、ライ、それは最終手段にしとこう。だってライは力がなくて剣が全然使えないって言ってたよな? それなら上手くいく可能性は低そうだし」


 やっぱりここは俺が行くしかない。

 うわ、なんか膝が震えてる気がする……冒険者は前衛職じゃなくても、こんな危険なことをするもんなんだなぁ。

 やっぱすごいよ、子どもの憧れ冒険者!


「よし、じゃあこうしよう。ケヴィン、ついてきてくれ」

「おう、壁役なら任せとけ」


 さすが逞しい男、ケヴィン。

 渋ることなくそう請け負ってくれる。


「頼もしいなぁ、でもケヴィンが壁になるのは非常時な。基本は背後から見つからないように行きたいんだ。で、もしゴーレムに気づかれて攻撃されたら、守って欲しい」

「いいぜ、俺が盾になってやる。ゴーレムなら相手に不足はねえ」


 ははっ、【魔法使い】のセリフとは思えないんですけど。

 とりあえずこれで一発で殺される心配は薄れたな。


「で、見つかった場合も戦うのは無しで、できれば逃げたい。ゴーレムって足が遅いんだろ? 走って逃げ切れないかな?」


 俺はこの場で一番ゴーレムに詳しいであろう、ミン婆に聞いてみる。


「そうさなぁ、ゴーレムは『ダンジョンの番人』と呼ばれとるくらいじゃ。それぞれ見まわる領域が決まっておるようでな、そこを大きく離れてまで追っては来ぬよ」

「そんなら多少は後戻りしちゃうだろうけど、逃げられそうだな。よし、上手くいきそうな気がしてきた」

「そうですか……でも、どうか無理はしないでくださいね?」


 イリスはまだ心配顔だけど、止めるのは諦めたようだ。

 これだけ心配してくれてるんなら、イリスの奇跡のお世話になるわけにはいかないな。


「ミン婆の言うとおりなら、ゴーレムは自分のテリトリーを見まわってるってことだよな? それなら同じ場所をウロウロしてるってことか。今ゴーレムはこっちに背を向けてるから、今がチャンスかもしれない」


 俺はケヴィンと位置を交代して、ゴーレムの背中を見る。

 するとゴーレムの姿が消えた。角を曲がったようだ。


「まずはあの角まで行ってみるか」


 それを受け、ケヴィンは「じゃあ婆ちゃん、逃げることになったら俺がまた担ぐからよ」と、ミン婆を足元に下ろした。


「じゃあ、行ってくる」

「はい、頑張ってください!」


 祈るようなイリスの激励に「ありがと」と返していると、ライがおずおずと近寄ってきた。


「こ、これ……持ってって……」


 手にはあの高級な香りぷんぷんの、大ぶりなナイフがあった。


「えっ、いやいいって! 俺、ナイフなんて使ったことないし」

「でも……念の、ため……」


 ライは手を引っ込めない。

 俺はこれ以上断るのも申し訳ない気がして、受け取ることにした。

 俺たちがライの家宝を探すのを手伝ってるから、気にしてるのかな。


「ありがとな、使わないで済むよう頑張るよ」


 俺がナイフを受け取ってベルトに差すと、最後はミン婆が声をかけてきた。


「慎重に行くんじゃぞ。ケヴィンがやられたら、わしの帰りの足がなくなるでなぁ、ふぉっふぉっふぉ。ま、ゴーレムの足音に紛れて動けばまず見つからんじゃろうて」

「なるほどね、わかった、やってみる」


 そうして俺とケヴィンは足音をなるべく立てないように進みだした。


 ◇ ◇ ◇


 ゴーレムが姿を消した角までいくと、十メートルほど先をこちらに背を向けてのっしのっしと歩いている。

 もう少し近づけば魔力紋が見えそうだ。

 俺はケヴィンに合図して、さらに進む。

 俺が先で、そのすぐ後ろにあの大盾を構えたケヴィンが続く。


 近づくに連れ、ゴーレムの身体が噂どおり土でできているんだと納得する。

 身体の表面は土にうっすらこけが生えた感じで、カビのような湿った土のにおいが漂う。

 ミン婆の言うとおり、ゴーレムが足を踏み下ろすたびにズシンという重低音と振動が伝わってきて、俺たちはその振動に合わせて歩みを進めた。

 

 俺は息を潜めながら、ゴーレムの首に焦点をあわせた。

 ゴーレムは頭が山頂、肩が山の麓みたいになだらかにつながっていて、ミン婆の言うとおり、そのうなじら辺に赤黒い物が見えるような気がする。


 あとちょっとだ。

 頼むから、振り返らないでくれよ……。


 手に汗握りながら足音を殺して進むこと、しばし。

 ゴーレムまであと五メートルってところまで来たとき、ついにその太すぎるうなじに赤い魔力紋が見えた。


「ケヴィン、止まってくれ。スキルを使ってみる」


 ケヴィンにそう小声で告げて、俺はゴーレムの魔力紋を見つめる。

 そして、ゴーレムに気づかれないよう小声でささやいた。


「<コードインスペクション>……!」


 どうか、いい弱点がありますように!


 ……。

 …………あ、あれ?

 何も起きないな……声がちっさすぎたか?


 もう一度スキルを唱えてみる。今度はゴーレムの足音に紛れさせて、気持ちボリュームを上げて。


 だがしかし。

 今回も結果は同じだった。

 いつもの耳鳴りと視界が薄暗くなるやつが来ない。


 ちょっと待って、スキルが発動しないってどゆこと!?


「おい、どうだった?」


 じれたようにケヴィンが声を潜めて聞いてきた。


「なんかダメだ。ゴーレムには効かないのかな……」

「遠すぎるんじゃねえか?」

「そうなのかな? う~ん、じゃあちょっと近づいてもう一回やってみるから、ここで待ってて」


 もう怖いなんて言っていられない。

 俺はケヴィンを置いて、すすす~っとゴーレムとの距離を詰めた。

 強くなる土のにおいに恐怖が膨らみ、俺の胸全体が鼓動してるみたいだ。


 一歩足を踏み出すごとに、ゆらゆらと揺れるゴーレムの太い腕。

 その丸太のような腕の先には手指がない代わりか、やや太く丸くなっている。

 こんなのに一発でも殴られたら、俺はぐちゃって潰れちゃうよなぁ……。

 なんて考えちゃだめだ、今はスキルを使うことだけ考えろ!

 よし、二メートルくらいまで近づいたぞ。

 これなら……あ、やばい。


 俺はゴーレムの魔力紋を見上げようとして、ある問題に気づく。

 ゴーレムは首を前に突き出した猪首っぽいスタイルなもんだから、斜め下からだと丸い背中に遮られてうなじが見えない……。

 え、そしたらどうやってスキルを使えばいいんだ!?


 俺の困惑が伝わったのか、背後からケヴィンが追いついてきた。

 どうしよう、ケヴィン……あっ、そうだ!


「どうした?」

「ケヴィン、うなじが見えないんだ。俺のこと、肩車してくんない?」

「おう、任せろ」


 ケヴィンは大盾をすぐ横の壁に立てかけ、俺の足元にしゃがみ込む。

 俺はいそいそとケヴィンの太い首をまたいで……。


 ガッキィィィンッ!


 すくみ上がるような馬鹿デカい音が響き渡った。

 音の発生源を見れば、ケヴィンがさっき立てかけた大盾が床に倒れている。


 俺とケヴィンは瞬時にゴーレムへと目を向けた。

 ここまで俺たちの小声の会話にも気づかなかった鈍感そうなゴーレムが、ついに足を止めている。

 そして、ゆっくりと振り返ろうとしていた。


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