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9.瀕死男の事情


「あ、あの、僕……か、帰れない……」

「へ? なんで? そんなに重傷なのか? それならイリスを呼んでくるから治してもらおう。彼女ならすぐに治してくれるから」

「ち、違う……大切な剣を……ゴブリンに、とられて……」


 剣をとられた……?

 俺が良く分からないまま固まってると、横に突っ立ってあくびをしていたミン婆が会話に入ってきた。


「ゴブリンは頭の程度は弱いがの、金目の物といい女はめざとく見つけて住処に持ち帰るんじゃ。つまり、この婆も危ないということじゃな、ふぉっふぉっふぉ」

「ってことは、君の剣も?」

「そう……僕のうちの、家宝……」

「家宝!? そんな大事なもんなのか? そ、そりゃ……高価なやつなんだろうなぁ」


 そんな大切なもん、ダンジョンにもってきちゃダメだろ!?

 そう思ったが、口には出さないでおく。


「それを取り返したいってわけか。でもなぁ、ゴブリンが相手なのはまだいいとして、このダンジョンは……俺たちは初心者パーティーなんだよ。ミン婆、どう思う?」

「そうさな。ギルドに盗品として登録しておけば、誰か他の者が手に入れれば戻ってくるが……お主はダンジョン荒らしじゃからの、盗まれた経緯を説明できんぞ。お主、他に武器は持っとるのか?」


 ミン婆が問うと、その男はおどおどと、さっき俺に向けた大ぶりのナイフを見せる。刀身は鏡のように輝き、柄には葡萄の蔓や実の細工が彫られていて、真っ赤な宝石が一つ嵌まっている。これまた高級品の香りがプンプンだ。

 ブーツといい、剣といい、こいつ、もしかして良いところのお坊ちゃんなのかな?

 その割に髪の毛は伸ばしっぱなしでボサボサだけど。


「ふうむ、そのナイフだけか。ゴブリンは何匹いたんじゃ?」

「えと、僕……骸骨戦士(スケルトン)二体と、戦ってて……床が、崩れて……」


 骸骨戦士(スケルトン)と一人で戦ってたってのか!?

 しかも二体同時に?

 見かけによらず強いんだなぁ。


「それで、き、気づいたら、ゴブリンが……三匹? 僕の剣を……持ってって」

「ほほう、運が良かったのぅ。剣を盗るのを優先したか、お主が死んでると思われたんじゃな。でなければトドメを刺されてたじゃろうよ」

「トドメ!? こわっ……って、え、スケルトン二体は?」

「一体は床が崩れる、前に……倒した……もう一体は……たぶん、下敷き……」


 うわ、じゃあさっき俺たちが下りた崩れた岩盤のところに、骸骨戦士(スケルトン)二体が埋まってるってことかぁ。

 スケルトンは頭や手足を折られても、すぐに復活するけど、魔力紋があるところを破壊されると死んでしまうらしい。だからもしかしたらその二体もまだ生きていて、単純に動けないだけだったりして。

 そう思うと怖いなぁ。

 今すぐ上に戻って町に帰りたいよ……。


 でもなぁ。

 俺は目の前の、貧相な男を見る。

 年齢は……顔が見えなさすぎて良く分からないけど、細い顎と女みたいなピンクの唇の張りからして、同じくらいの歳だと思う。

 服や持ってる物は高そうだけど、肩幅も狭いしなんか猫背だし、顎や手は痩せ細ってるし、全然強そうに見えない。

 それなのに不思議と強い意志を感じるんだよな。

 もし俺とミン婆が町に帰るって言っても、こいつはここに残るって言い張りそうな感じの。


「そのゴブリン三匹というのは単なる見回りじゃな。それなら巣には二十匹以上はおるぞ」

「にじゅっ……!?」


 やばい、やばすぎる。

 いや、ゴブリンを見たことすらないけども!

 ゴブリンはミン婆の言うとおり、あまり頭は良くないけど、群れで行動してて仲間内で意思疎通できる程度には知能が高いらしい。

 残虐で、怖い物知らずだから町や村の近くにも出てくることがあって、人の被害の多いモンスターだ。


「そりゃ厳しいな……」


 俺がそうつぶやくと、男は呻きながら、ゆっくりと立ち上がろうとする。

 ようやく諦めてくれたか。

 安堵と共に手を貸そうとすると、男はそのまま壁に手をついて、俺たちが来た方とは逆方向に身体を向けた。


「ちょっと! まさか、一人で行く気か!?」

「け……剣を無くしたら……村に、帰れない、か……ら」


 ささやくような低い声には、決意の響きがある。

 こいつ、マジか。

 ゴブリンニ十匹以上だぞ?

 ナイフしか持ってないのに、死ぬに決まってんじゃん!


 愕然とする俺の目の前で、男は今にも倒れそうになりながらも一歩一歩進んで行く。

 その遠ざかっていく痩せた背を見て、俺は思わず叫んだ。


「分かった! 分かったから! とりあえず、俺の仲間と合流して、君の怪我を治してもらおう。そんで、どうするか相談するってのでどう?」

「ほぅ、アタル、それは剣を取り返す手伝いをするということかの?」


 ミン婆の面白がってるような声に、俺は唸る。

 いやあ、無理だと思うんだけど……でもさぁ、こいつを放っておけないじゃんかぁ。

 俺は急いで男に追いつき、腕に手を伸ばす。


「手伝いたい気持ちはあるんだけど、あとの二人がなんて言うか分からないからさ。でもそんな怪我じゃどっちにしろすぐ死んじゃうだろ。だからほら、とりあえずその肩の……うわっ、腕も怪我してんのか!?」


 掴んだ右腕がべっちょりと濡れている。

 マントが濡れていた肩だけかと思いきや、右腕もかなりの深手を負ってるみたいだ。


 いや、それだけじゃない。

 嫌な予感がして、立ち止まったそいつのマントをめくると、胸元や脇腹、太ももと、あちこちに切り傷や動物に噛みつかれたような傷があった。


「なんだよこれ……瀕死じゃんか!」

「えと……骸骨戦士(スケルトン)と……その前に化けキノコとも……」

「そんなんで、ナイフ一本でゴブリンと戦えるわけないだろっ!」


 無謀にもほどがありすぎる!

 俺は呆れながらも、そいつの無事な方の左腕をとって肩にかけ、強引に通路を戻り始めた。


「仲間にさ、【聖女】の女の子がいるんだ。君の怪我も全部治せると思うから。まあ、その……副作用があるんだけどね。死ぬよりは全然マシだよ」

「せ、【聖女】? ……くっ、うぅ……」


 男はゆっくり歩くだけでかなり息が上がっていて、副作用については何も聞いてこない。

 まあ、それは後で教えればいいか。

 死ぬことに比べたら、数日間味がしないくらいどうってことないさ。


 にしてもなぁ。

 俺たちだけでゴブリンの巣をどうにかできるもんかね?

 そういえばこいつがナイフを俺に向けたとき、ミン婆の射った矢が跳ね返してくれたわけだけど……偶然じゃないよな? 良く当たったなぁ。

 ミン婆の弓、本人が言うようにけっこう頼りになるのかもしんない。

 あとは頼りになるとすれば、ケヴィンの盾とファイアボールか。

 それにこいつがイリスに怪我を治してもらえば、あのナイフで少しは戦えるのかも?


 そう考えれば、まったくもって無謀なことでもないかもしれない。

 それになにより、俺のスキルがある。

 ゴブリンにも人に知られていない弱点とか、上手い攻略方法があるかもしれないよな?


 なんて、少しばかり希望を感じ始めた時、急に足元から振動が伝わってきた。


「え……?」


 振動が一気に大きくなったかと思うと、轟音とともに砂っぽい強風が吹き付けてくる。


「うわっ……!」


 俺は立っていられなくて、肩を貸してた男とともにしゃがみ込む。

 そして揺れが収まり、顔を上げると、周囲には湿ったにおいが充満して土埃が舞っていた。

「ふうむ、まずいことが起こったようじゃな」


 ミン婆はいつの間にか俺の後ろに隠れていたらしい。ひょこっと出てきて、杖で前方を指す。


「え? ……ちょっと見てくる!」


 俺はミン婆と瀕死男を置いて、走りだした。


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