3.次なるパーティーメンバー探し
「婆ちゃん、本当にここでいいのか? 気をつけて帰れよ」
ギルド前についたから、ケヴィンは肩からひょいとお婆ちゃんを下ろした。
「十分じゃよ、親切にどうもな。わしがあと三十ほど若けりゃ、お主に惚れておったところじゃわい、ふぉっふぉっふぉ」
「がははははっ」
お婆ちゃんの歩みじゃ家までまだ時間がかかるだろうけど、町の中だしもう安全だろう。
お婆ちゃんに別れを告げ、俺たちはギルドに入る。
ケヴィンは噛みつきウサギの丸焼きを報酬に変えるために受付へ。それを待つ俺とイリスは、入り口のすぐ前にある依頼用の掲示板を眺めていた。
夕飯時だからかギルド内は人が少なく空いている。
「あんな小さなお婆ちゃんでも噛みつきウサギを仕留められるんだもんなぁ……俺もがんばらないと」
「練習あるのみですね! せっかくなので、ボーガンでも戦える敵の方がいいですよね。そうなると先ほどケヴィンさまが提案されたゴブリン狩りか……ですがゴブリンは数が多いと危険ですし……あら、珍しく初心者向けのCランクのダンジョンがいくつか出てますね」
見ればここからそう遠くない森の中のダンジョンだった。
ダンジョンっていうのは洞窟や地下神殿がメインで、高価な物が入っている宝箱があるけどモンスターが巣くっていることがほとんどだ。
それら全部、魔王が作ってるって言われてるけど……魔王は【剣聖】オベリオに倒されて隠居したはずなのにな。隠居してダンジョン作りに精を出してるってわけ?
まあ、魔王なのかは分からないけど、誰かが作ってるのは確かだ。
なんせ中のモンスターを一掃しても、少し経つと再びモンスターが湧いてくるからだ。
同じく中にある宝箱も一定時間で再び出現するらしい。
ただ問題はダンジョン内には罠があるってことだった。やっかいな事にこの罠も、誰かが解除しても一定時間で復活してしまう。
「ダンジョンは【シーフ】が必須なんだろ? 【戦士】より【シーフ】を先に探したほうがいいかな」
「確かにそうですね……報酬の高さで行くとダンジョンが一番効率がいいらしいです。依頼の報酬の他に、宝箱など高価なものが手に入りますし」
「じゃあ、いい人がいないかチラッと見てこよう」
俺は宝箱という言葉に心が躍る。
やっぱり冒険者と言えばダンジョンだからな。
初心者向けのダンジョンだし大したもんはないかもしれないけど、宝箱は冒険者にとってのロマンだよ。
俺たちはいそいそと、【シーフ】がパーティーを探していないか見に行く。
「あれ? 【シーフ】って少ないんだな」
「【シーフ】はダンジョンには必須の職業ですが、【戦士】や【魔法使い】より人口が少ないらしいですよ。大人数のパーティーになると戦闘職は人数が多くなりますが【シーフ】は一人か二人で事足りるそうですし」
イリスの言うとおり、【戦士】や【魔法使い】の募集用紙は四、五枚あるのに、【シーフ】は二枚しかない。
「これは……罠解除の練習中って書いてある。あっ、スキルが<忍び足>だって。こっちのは初心者で、スキルは<鍵開け>かぁ」
「【シーフ】は手先が器用で警戒心が強いかたが多いらしく、<罠解除>や<罠探知>というスキルがなくても、練習すればある程度できるそうです。そもそも<罠探知>はかなり希少なものらしいですし、持っている方は滅多にいないでしょうね」
「レアスキルってわけね。じゃあこの二人の【シーフ】も多少は罠を見つけられるんかな?」
「そうですねぇ、しかしこの初心者のかたがダンジョンに行くのが始めてであれば、さすがに心配ですね」
「それならまずは<忍び足>の【シーフ】に会ってみるようか。ダメなら<鍵開け>の初心者で」
「あっ、この<忍び足>のシーフはヨーゼフさまです!」
「知ってるの?」
「えっと、その……昨日まで、一緒のパーティーでした……」
「あの大柄で小太りのやつか!」
一昨日見た、イリスを引き留めていたキモオタパーティーの一員だ。
敏捷な身のこなしで有名な【シーフ】らしからぬ体型だったっけ。しかもしゃべり方も……こう言っちゃなんだけど、あまり賢そうでなかったような?
「なんだあいつ、パーティーをクビになったのかな?」
「もしかしたら私が抜けたので……」
「あっ、イリスがいなくなったら、やってられなくなるって言ってたっけ」
「はい……」
イリスは切なそうに目を伏せ、長いまつげが影を落とす。
あのさえないキモオタパーティーに、イリスの代わりに貴重な回復の奇跡が使える【神官】が加入するとは思えない。
なんせ募集掲示板にも【神官】の募集用紙はほとんどなく、たまにあっても解毒とか麻痺消しのスキルしかない外れスキルの人だった。
まずいな。
イリスが自責の念を感じで凹んでしまった。
だからって、あのヨーゼフを仲間にするのはなぁ。
「ヨーゼフって、罠はある程度みつけられるの? 罠解除は練習中ってあるけど」
「それが……たまに罠を見つけることもありましたが、気がつかずにパーティーのどなたかが犠牲になることの方が多かったです」
「たまに見つけるって、未熟な【シーフ】はそんなもんなのかなぁ……」
そんなヨーゼフを仲間にして役に立つのかどうか……。
俺が悩んでいたら、受付カウンターの方からケヴィンのバカでかい声が聞こえた。
ケヴィンはナリもデカいが声もデカい。
「なんだ、ちっこいのがいると思ったら、婆さんもギルドに用があったのかよ!」
「ふぉっふぉっふぉ」
え、婆さんって……。
カウンター前に立つケヴィンの巨躯の横に、あのちんまりしたお婆ちゃんがいた。
そして背負っていた麻袋を下ろすと、丸まった背中を精一杯伸ばし、つま先立ちでプルプルしながらカウンターに乗せ、杖で押している。
あれって、噛みつきウサギが入ってた袋だよな?
それを受付のカウンターに乗せるってことは……。
「まさか、お婆ちゃんって冒険者なのか?」
「あのお婆さまが……?」
驚く俺とイリスが見守る中、はたしてカウンターの中にいた受付のお姉さんは笑顔でその袋を受け取り、中を検めた。
「いつもありがとうございます。ミンお婆さんの噛みつきウサギは胴体に傷がないから、依頼主が喜ぶんですよ」
「そりゃ良かったわい」
「ではこちら、報酬の銀貨三枚です」
なんてこった!
お婆ちゃんがあの噛みつきウサギを食べるのかと思ってた……でもそりゃそうか。食料としてより、毛皮の方が高く売れるんだもんなぁ。
でもさぁ、普通はあのしわくちゃでちんまりしたお婆ちゃんが、冒険者だなんて思わないよな!?
「ケヴィンさまは噛みつきウサギの肉ですね。こちら報酬の銅貨三枚です」
銅貨十枚で銀貨一枚の価値がある。
あの二人の身体のサイズとは、まったく真逆の報酬額だ。
「いやぁ、お婆ちゃん、冒険者だったんだね。ビックリしたよ」
俺はちょこちょこと、あの超スローな歩みで出口へと向かうお婆ちゃんに声をかけた。
するとお婆ちゃんは得意げに「ふぉっふぉっふぉ」と声を上げて笑う。
「なあに、今はたま~に噛みつきウサギを狩ってるだけの隠居ババじゃよ」
「あれ? でも、【狩人】や【シーフ】じゃないって言ってたよな? あっ、弓を使う職は【弓士】ってのもいたっけ。王都の方にしかいないし、普通は兵士になる職業だったと思うけど」
「ふぉっふぉっふぉ、まだわしの職が分からんのか?」
「え~、だって他に弓が上手い職業って思いつかないし……」
「仕方がないのう、町まで送ってくれたお礼に特別に教えてあげるかのぉ」
降参ぎみの俺に、お婆ちゃんは面白そうにニヤニヤする。
「わしはの、【ローグ】じゃよ」
そうか、ロー……。
「えっ……え~~!?」
俺の突然の大声に、ギルド内にいた冒険者達の視線が一気に集まる。
あまりの注目度に俺はカーッと顔が熱くなり、あわてて声をひそめた。
「【ローグ】って、たしか【シーフ】の上級職だろ!?」
「そうじゃとも。知り合いの【シーフ】のなかで上級職に転職したのはわしだけじゃ。すごいじゃろ?」
総人口の約二割が成人後にさらに転職して上級職につくって言われてる。
冒険者でもそういう人はいるけど、もれなくエリートだ。
Sランクの冒険者でも生涯【戦士】のまま、なんてことも多いのに。
「お婆さま、すごいんですねぇ……」
イリスの感嘆の声に、お婆ちゃんは得意げに鼻をふふふーんと鳴らす。
「婆さん、そんなら俺たちと一緒にダンジョンに行こうぜ!」
「なっ……ケヴィン!?」
いつの間にか側に来ていたケヴィンが、なんて事ないようにお婆ちゃんにそう言った。
いやいやいや、このお婆ちゃん、どう見ても九十歳近いだろ?
そんなご老体に鞭打って……ていうか、こんな歳じゃあ罠解除とか無理だって!
「ふうむ、ダンジョンかぁ。懐かしいのぅ」
「お婆さまも昔は良くダンジョンに行かれたんですか?」
「そりゃあ行きまくったもんじゃ! 今はこんな婆でも、昔はモテモテの美少女でな、一日で五十人以上からパーティーに誘われたこともあるぞ。そんで一番しんどかった冒険はドラゴンが出た地下神殿でなぁ」
「ドラゴン!? そんなの今も実在すんの? 俺、【剣聖】オベリオの伝記でしか聞いたことないんだけど……」
年寄りの自慢話は話半分に聞けっていうから、さすがに話を盛ってると思うけど……上級職の【ローグ】が行くダンジョンは間違いなく上級者向けだよな。
すごいなぁという感嘆とともに、お婆ちゃんが若い頃に会えてたらなぁなんて思ったり。
「でも、さすがにもう罠を探したり解除したりは大変でしょ?」
俺がさりげなくそう聞くと、お婆ちゃんは少しの間だけ黙り込むと「はて?」と小首を傾げた。
「たまにな、近所のもんが農場に仕掛けたイノシシ用の罠の場所が分からなくなったとか、金庫の鍵を無くしたとか、このわしに頼みに来るでな。そのくらいの罠探しや鍵開けなら今でも朝飯前じゃ」
「え、じゃあ今もダンジョンで罠を探したり解除したり、宝箱の鍵開けもできちゃったりするわけ?」
「そうさなぁ……それよりのぅ、わしは腹が減ったわい」
お婆ちゃんはもったいぶった感じでそう言い、わざとらしくお腹をサスサスする。
話の続きは食事の後でってこと?
いやでもさ、普通に考えてダンジョンは無理でしょ~?
「よし、じゃあ、飯を食いながら話そうぜ! 俺がいい店に連れてってやるからよ」
「ちょ、ケヴィン!?」
マジか。
この小さなお婆ちゃんをパーティーに入れる?
あんなにリクガメ並の速度でしか歩けないお婆ちゃんを、ダンジョンに連れてくなんて……。
超心配な俺をよそに、ノリノリのケヴィンは再びお婆ちゃんを肩に乗せて歩き出していた。




