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第一話

《》←技名だったり称号だったりはこのかっこを使います。

破壊と争い、血の象徴とされ、夜空に赤黒く輝く紅月。想像と平和、魂の象徴とされ、夜空に青白く輝く蒼月。この二つの月を飾るように夜空には点々と星々が輝く。その二つの月に照らされながら、この世界の生物は生を謳歌している。


「今日の夜空も綺麗だね」


切り立った崖の縁に座りながら空を見上げる少女は、よく通る綺麗な声で少呟いた。

少女はただ美しかった。見るもの全てを魅了する黒髪は短くカットされている。星を見る目は吸い込まれるほどに綺麗な青。楚々とした顔付きだが、まだ12歳の彼女は年相応の幼さが見てとれる。彼女の名は、ネル・デュカリオス・ニフリラード。闇の寵愛を受ける少女だ。


「お嬢様。またお見合いを断ったのですか?」


ネルの隣に座る少女、エミリナ•エルマ•アバロンは鷹揚とした少女で、二つ下のネルとはまた違った美しさを持っていた。腰まであるブラウンの髪に、同色のアーモンド型の綺麗な目。彼女は少し変わったところのある少女であるネルの、1番の親友だ。


「うん。たぶん政略結婚だもん。それに、私の夢はこの国を作った大英雄と同じくらいの英雄になることだもん」


「お嬢様もまだまだ子供ですね。それも男の子みたいな」


どこか遠い目で星を見るエミリナの横顔を見て、ネルは、少しだけ不思議なものを感じた。ネルはその正体が何なのか、そしてどこから来るものなのか、皆目検討もつかなかった。


「エミリナ、最近何かあったの?」


ネルは、こてん、と首を傾げてエミリナに疑問の目を向ける。


「……どうしてわかったのですか?」


漠然としたその質問に、エミリナは少し驚いたように隣に座る少女を見る。そこで2人のブルーとブラウンの目が向かい合う。


「さぁ?」


まるで何か企んでいるかのようにネルは笑う。花が咲いたような笑みに釣られ、茶髪の少女も笑う。


「お嬢様、その顔、まさか勘で聞きました?」


少しの間、2人で笑い合い銀髪の少女は黒い髪の少女にそう聞き返した。


「バレたか」


ネルは、小さく舌を出しておどけてみせる。


「……少し、皇国の方に手を貸しにいくことになりました」


エミリナが少し間を置いて口を開いた。紡ぎ出すように重みのある言葉だ。


「皇国に?でも、確か皇国は今、結構大きな戦争中だよね?」


ネルが疑問を抱きながらそう聞いた。

ネルの家は、ネル達の住むラストライン侯国は王政を敷いているが、実際は王家と三つの公爵家が権力を所持している。

そしてその三つの公爵家を三大貴族といい、ネルはその三大貴族の一つ、ニフリラード公爵家現の長女であり、ニフリラード公爵家は主に軍事を担当する家門だ。

ネルは12歳とはいえ、軍事のトップの家の子だ。当然ながら国の状況を少なからず知っている。

現在、隣国のバンバルク皇国は、そのまた隣国のジラノストログ帝国と戦争中だ。

バンバルク皇国は、ネルたちのラストライン侯国とはとても親密な関係の国で、皇国はラストライン侯国が属するこの大陸の中央寄りに位置し、侯国の西の隣国である。皇国と侯国には、《東方四国同盟》と呼ばれる国家間の同盟がある。

《極東の食糧庫》ラストライン侯国。

国土のほとんどが険しい山々であり、侯国の北に位置する《狩人の国》トラクラ獣国。

大陸で絶大な影響力や軍事力などを誇る《四大国》が一つ《皇竜の国》バンバルク皇国。

そしてその三国の中間に位置する浮遊する大地で、大陸でも珍しい龍種が日常にいる国、《龍の住む天空国家》エシャノン龍国。

この四国による東方四国同盟には、有事の際に人的資源や物資の補給を約束する内容も含まれている。


「皇国と帝国の戦争は知ってたけど、ならなんで私の家じゃなくてエミリナなの?」


ネルは一番の疑問をエミリナに投げかける。皇国が侯国に助けを求めたのなら、一個人ではなく、正式に軍を出すはずだ。ならば、軍事を統括するニフリラード辺境伯家に、侯国王家から要請が来るはず。


「皇国の直接の要請だそうです。あまりお嬢様に暗い話はしたくなかったのですが、皇国の《鬼神》グラン様きってのお願いらしいので。それにそろそろ侯国軍にも援軍要請が来るはずです」


グラン・ルフォルス。ネルは頭の中で数瞬の時間を要し、その名前と業績を思いだす。

《鬼神》の二つ名を持つ皇国の騎士で、皇国の主力騎士団である《皇龍騎士団》の副団長を務め、皇国の武の要である《皇龍五桀》の1人でもある。


「……そうなんだ。なら、エミリナとはしばらく会えないのかぁ」


「……しばらく…ですか。はい、しばらくの間は会えそうにないですね」


そう言ってエミリナはにっこり笑う。


「なら踊ろ。今日は夜が明けるまで」


ネルは立ち上がった後、親友に手を差し伸べてそう言った。

2人の間で《踊り》とは、剣も魔法も、深刻な怪我や死を伴うもの以外は何でもありの練習試合を表す。

2人が今宵、この地で集まったのも、本来は世間話をするためではない。


「はい。お嬢様。踊り明かしましょう」


エミリナはそう答えて左腕の袖を肘までまくる。手首に、濁った半透明の石を使ったビーズブレスレッドがあらわになる。

ネルは腰の剣を抜いて構える。

静寂。最初に動いたのはネルだ。

グッと足に力を込め、大地を蹴り飛ばす。足に魔力を込め、超人的な瞬発力でエミリナとの間合いを詰める。

エミリナは、ネルの放った魔力を込めた剣を魔法障壁で受ける。剣と魔法障壁が打つかり合い、激しく火花を散らす。

エミリナはその隙に上空に魔法陣を描く。八に及ぶ魔法の砲門。それぞれから、大人ほどの大きさの岩が莫大な魔力を纏い、その姿を覗かせる。


「《超重岩(ダズ・ガルボラ)》」


超重岩(ダズ・ガルボラ)》。第三魔法岩石系中級上位。

魔法の等級はすなわち、魔法の威力を表す。

中級…それは、殆どの魔法使いの頭打ちである等級だ。それをいとも容易く、そして、8門も展開してみせるエミリナの技量には恐れ入る。さらにはエミリナの並外れた魔力を糧に顕現した岩。それは一般的に天才や秀才と呼ばれる、上級魔法士の上級魔法(それ)を遥かに上回る破壊力を秘めていた。

エミリナは、そんな代物をネルに向かって放つ。


「《斬夜(ルセン)》」


斬光(ルセン)。第五魔法暗黒系下級上位。暗黒系魔法。それは適性者が少なく、基本スペックが高い第五魔法の中でも、最も壊すことに特化した系統。故に、下級上位といえど、魔法を一点に集中させれば容易く並み居る魔法を切ることができる。

ネルは、エミリナの放った《超重岩(ダズ・ガルボラ)》を冷静に捌く。《斬夜(ルセン)》を纏った刃は、その岩をなんの抵抗もなく切る。


「お強くなられましたね。お嬢様」


ネルが最後の《超重岩(ダズ・ガルボラ)》を両断したその時、エミリナの声が聞こえた。

超重岩(ダズ・ガルボラ)》の岩の影に隠れて、ネルに接近していたのだ。

ネルは構わず《斬夜(ルセン)》の闇を纏った剣を、エミリナに振る。

エミリナはその剣の軌道を、魔力を込めた左手で逸らし、右手に魔力を込め、ネルの腹を殴る。

ネルの体が宙を舞う。


「まだ続きます」


エミリナはそう言って加速した。

衝撃で宙を舞っているネルに、追い討ちの蹴りを放つ。上段から振り下ろすような強烈な蹴りがネルを襲う。

ネルはギリギリのところで、剣の腹でその蹴りをガードする。

正面のダメージは抑えたものも、ネルの体が下方に加速し、地面に激突する。

エミリナは追撃とばかりに、上空に巨大な魔法陣を描く。


「《岩王墜(テンダラム・ドイン)》」


岩王墜(テンダラム・ドイン)》。第三魔法岩石系上級下位。先程の《超重岩(ダズ・ガルボラ)》よりも上位の魔法だ。巨大な魔法陣から、その巨岩が少しだけ姿を現す。途端に、《岩王墜(テンダラム・ドイン)》に秘められた魔力が大気を揺らす。


「エミリナ。私は今、楽しいよ」


ネルは、地に倒れたまま呟く。それとほぼ同時に、二つの月に照らされている夜を、暗黒が一閃した。

それは、エミリナの《岩王墜(テンダラム・ドイン)》を魔法陣ごと切り裂いた。


「珍しいですね。お嬢様が中級魔法を使うなんて」


エミリナは心底嬉しそうにそう言った。


「うん。しばらくは一緒に踊れないんだもんね。せめて今日の踊りは後悔したくないじゃん」


ネルが、黒い蒸気を立ち上らせながら立ち上がる。剣は《斬夜(ルセン)》の闇を纏いつつ、その刀身の輪郭を隠してしまうほどに黒い魔力に包まれている。その姿は、まさに悪魔そのものだった。


「お嬢様のその姿を見るのは暫くぶりですね」


エミリナは余裕の表情を浮かべながら魔法陣を描く。その数はゆうに100を超える。

その魔法の等級は殆どが中級上位。中には上級の魔法が散見される。さらには、エミリナが魔力を地面に走らせる。すると、今まで岩を全て魔力で補完していた岩石魔法とは打って変わり、自然界に存在する岩を触媒に、魔力で強化、操作する方法に切り替え始めた。

あたりには地響きが鳴り響き、地が上空に浮かび始める。その光景は神秘の一言に尽きる。

2人の魔力が極限まで研ぎ澄まされていく。今度は2人同時に動いた。

先程までの攻防が児戯に思えるほどの剣と魔法と体術の攻防は、最初の宣誓通り、夜が明けるまで続いた。


しばらくして…


2人の夜通しの戦いのせいで、跡形もなく消し飛んだ地形。もうそこに2人はいなかった。

それもそうだ。もう日は真上に昇っている。既に2人は家に着いているだろう。

しかし、その壮絶な戦いを物語る場所の真ん中に、2人の男女が立っている。1人はフードを被っていてよく顔は見えないなが、ネルと同じ年頃の少女で、もう1人はマントを羽織った高身の騎士だ。その騎士のマントには赤色の三日月の紋が施されている。


「……あ……セディ」


少女が思い出したかのように、セディと呼ばれた男に話しかける。


「ここの戦いをした人は、どんな人だかわかる?」


「……そうですね。おそらくはニフリラード家の方々、もしくはアバロン家の長女だと思われます」


セディこと、セドリック・マルキース・シンスティーはそう答えた。


「アバロン家?」


少女はそう聞き返した。ニフリラード家は、侯国の人間なら知らない者はまず居ない位の知名度だが、アバロン家は初めて聞いた。


「はい。6年前、東方四国同盟主催の国際魔法大会でわずか11歳で全体5位、この国に限れば1位だった神童ですよ」


セドリックは淡々と話した。だが、その逸話は少女のエミリナに対する興味を駆り立てた。


「面白そう。そのくらい強い人ならこれも納得だね。でも少し気になる」


抉れた大地を眺めながら、少女は無気力にそう言った。


「何がでしょう?」


「この戦場に本気の闘気を感じない。もっと上の次元の戦いをできたはず」


少女は首を傾げながらいった。


「これ以上の?」


セドリックは表情こそ落ち着いているようだが、かなり驚いている。


「面白そうでしょ」


少女がセドリックに振り返る。その顔は新しいおもちゃを見つけた子供そのものだった。


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


それから三年の月日が流れた…


立派な本邸と手入れされた庭を持つ、ラストライン侯国西部一の豪邸。そこは侯国の軍事の柱であるニフリラード辺境伯の屋敷だ。

その屋敷の一室で、ネルは夢の中だ。

そんなネルに、ドタバタと足音を響かせながら誰かが近づいてくる。そして、勢いよくネルの部屋の扉が開かれる。

その扉を開けたのはネル…によく似た少女だった。髪の色も青い目の綺麗さも。

しかし、髪型だけはネルよりも長く、腰まである。名前はミア・デュカリオス・ニフリラード。ミアの実の妹だ。


「おはようございます!お姉様!!」


元気なミアの声がネルを眠りから覚ます。


「ん…ミア。おはよ」


ネルはまだ少しぼやけている目を擦りながら体を起こす。


「ミア。水持ってきてくれない?」


「はい!」


元気よく返事をしてミアは、またドタバタと廊下を走り、水をとりに行く。


(またあの夢か…エミリナ…会いたいな)


ネルは、エミリナとの最後の踊りの夢を見た余韻にしばし浸る。その余韻を吹き飛ばすようにミアの足音が近づいてくる。


「おねーちゃーん!!取ってきたぞーー!!」


元気すぎる妹に、ネルは少し苦笑する。


「はいはい」


まだ廊下を走っているミアには届かないだろうが、ネルはそう返事をした。


「おねーちゃん!!水!!」


もう少し落ち着きな。と、妹にアドバイスをしてネルは顔を洗う。


「あぅぅ…っふぅ。目が覚めた」


顔を洗い、伸びをしたネルはベッドから立ち上がる。


「お姉ちゃんお姉ちゃん!!手紙、手紙きたよ!!」


ミアはネルの手を取ると、ネルを引きずる勢いで食堂まで連れて行く。


「おはようネル」


神妙な顔つきでネルを出迎えたのは、当代ニフリラード辺境伯家当主にして、ネルの父親。ラストライン侯国において国王に次ぐ軍事の権限を持つ大将軍、ルノー・アロンヴァロアール・ニフリラードその人だ。ネルとミアと同じ髪色だが、目の色はその髪色と同じ黒だ。真っ黒な髪を短く切り、大貴族の風格を漂わせる厳かな面構え。だが、ルノーのからはひしひしと疲れが見て取れる。

現在侯国は三年に及ぶ対帝国戦の真っ最中だが、なぜ侯国の大将軍たるルノーがここにいるのか。それはルノーが侯国に起きた緊急事態に対応せざるを得なかったからだ。


「学園からの封筒が来たぞ」


ルノーがそう言うと、食堂の隅に待機していた使用人が、銀のトレーに乗せて大きめの封筒を持ってくる。

そして、封蝋を施された厳かな封筒がネルに差し出される。

学園…ここでは東方四国同盟共同学園のことで、エシャノン龍国の首都ライロシャにある、通称ライロシャ学園。

大陸三大学園の一つにも数えられ、豊富な施設に充実した教師陣、果ては過去の現在の魔法技術で解明できない謎が詰まった迷宮までも存在する、殊教育、研究に関しては東方四国同盟だけでなく、大陸各地から生徒が集まってくるほどだ。

ライロシャ学園は、6歳(小等部)、12歳(中等部)15歳(高等部)18歳以上(研究部)と、四つの区切りがあり、高等部まではエスカレーター形式で上がっていき、編入も可能だ。ネルは15歳からの入学で、ライロシャ学園では珍しい部類だ。

(高等部の生徒の割合は、小等部からの生徒が4割、中等部からの生徒は5割。残った1割が高等部、又は高等部への編入)


「開けても?」


「無論だ」


父の許可を取り、ネルはペーパーナイフを使い、封筒を開ける。

ネルの胸のうちは、絶対に受かるという自信と、少しの不安を胸に、合否判定の分かる手紙を見た。


「結果は?」


ルノーは、ネルの隣で手紙を覗き込んでいるミアの反応を見て答えはわかっているはいるものも、本人の口から聞きたいのかそう尋ねた。


「合格です」


そう答えると、ネルは「合格」と文字が書かれた紙を父親に見せる。


「ふむ。それでこそ俺の娘だ。今日の朝食で母さんに伝えるとしよう」


そう言うとルノーは部屋を出て行く。側から見ると少し冷たい父親のように見えるが。扉が閉まる直前にたしかにネルとミア、そして使用人たちは見た。すこぶる嬉しそうにガッツポーズをするルノーの姿を。


「やったねお姉ちゃん!!」


「ん。ありがとうミア。ライロシャ学園(むこう)では先輩って呼ばなきゃいけないかな?」


ネルは少しおどけてそう言った。と言うのも、ミアは小等部からライロシャ学園に通う、歴とした優等生だ。


「えぇ!?だめ!!」


「あはは。冗談だよ。」


妹のすこし焦ったような姿を見て、ネルは笑う。


「でも、お姉ちゃんが学園に来てくれるのはすごい嬉しい!今みたいに長期休暇の時にしかお姉ちゃんに会えないから、これからは毎日会えるよ!」


「そうだね」


高等部と中等部ってそんなに毎日会えるものなのか?と、ネルは心の中で疑問に思ったが、口には出さなかった。

その後の朝食で、いつも通り平然を装ったルノーが、ネルの母に合格を告げ、朝食はどんちゃん騒ぎで終わった。

朝食の後、ネルは日課の修行のために、


「ふっ!」


短い吐息と共にネルが剣を振る。構えて、切る。構えて、切る。この繰り返しがネルの修行だ。


「いい太刀筋だ」


しばらく剣を振っていたネルに、そう声がかけられる。


「父上」


ネルは、声の方を振り向きながら声の主の名前を呼ぶ。


「久しぶりに試合、やるか?」


ルノーは訓練用の剣をネルに見せるように構えた。ネルも応じるように構える


「ルールはいつも通り。魔力なし。肉弾戦のみだ…始め!」


ルノーの掛け声。ネルが先に動く。


ほぼ地面と並行の体勢から、ルノーの脛を切り裂くように水平に剣を薙ぐ。


「前よりもさらに速くなったな」


娘の成長を感じたのか、ルノーは少し楽しそうに口元を緩める。


「だが、直線的だ」


ルノーが最小限の動きでネルの刃を踏みつける。


(刀が動かない!?)


「早く手を離して拳で戦うべきだ」


ルノーが蹴りがネルの顔スレスレで止まる。


「一本…で、いいか?」


ニヤリとルノーが笑う。


「もう一本よろしくお願いします」


ネルはもう一度剣を構える。


しばらくして…


「ふぅ…もう随分前から勝ち越せなくなって、嬉しいやら悲しいやら…」


脱いだ上着をもう一度着て、ルノーは屋敷に帰っていた。


「29戦16勝12敗1引き分け」


それが今のネルとルノーの肉弾戦の実力差だった。


「学園から帰ったら父上にはもう負けません」


ネルが父の背中にそう語りかける。ルノーは振り返らずに、手を適当に振り返す。


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


二日後。その日はネルとミアが学園に向かう日だ。


「いってきまーーす!!」


送り出してくれている家族や使用人に、ミアが元気よく手を振る。


「ネル、少しいいか」


そんなミアを尻目にネルがぼんやりとこれからの学園生活を想像していると、ルノーが声をかけた。


「もし学園で何か不穏なことがあったら母さんに連絡しなさい。俺は動けないが、母さんが何とかしてくれるはずだ」


「はい。特に帝国軍には注意をはらっておきます」


「うむ。だが、敵は帝国だけとは限らないぞ」


「はい。心経ています」


そうネルが答えると、ルノーは満足そうに頷いた。


「では、行って参ります」


「うむ。とは言っても途中までは一緒だがな」


ルノーも戦場に向かうため、ネル達と途中まで同行することになっている。

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