従妹にちゃんと優しくしなさい
アレック殿下は可愛いロザリーと共に過ごしたがった。二人がくっつき、戯れあっている光景が、このところよく目撃されるようになっていた。
魅力たっぷりのロザリーは、アレック殿下ばかりでなく、同年代の貴族子息たちをも魅了し始めた。よって女性一人を大勢の若い青年が取り囲み、じゃれ合うという、ありえないことが起こっていた。
聖泉礼拝に向かおうとしていたパトリシアは、前方に彼らの姿を発見した。見つからないうちに脇道に逸れて回避しようとしたのだが、対処が遅かったようだ。
「パトリシアお姉様!」
ロザリーに元気いっぱいな声で叫ばれ、パトリシアは覚悟を決めた。俯きがちにそちらに向かう。
聖泉礼拝の儀式は時間通りに始めなければならないので、挨拶だけして、すぐに辞去するつもりだった。
しかし……
「聞いてください、パトリシアお姉様! 殿下ったら、ひどいんですのよ! わたくしを子供扱いなさって――」
愛らしく頬を膨らませて訴えてくるロザリーを眺め、長くなりそうだと思った。それで仕方なく、パトリシアはロザリーの言葉を遮った。
「聖泉礼拝の儀式があるから、ごめんなさい」
ロザリーの取り巻きである騎士のマックスが、苦虫を嚙み潰したような顔をこちらに向けてきた。彼は伯爵家の嫡男である。少し野性味のある顔立ちをしているのだが、騎士服を纏うことでその雰囲気が良い具合に緩和され、女性たちからとても人気があった。
「従妹に対して、ずいぶん冷たいのですね。冷たいというより、底意地が悪く感じられる。妬みが強いようだが、大人なのだから、自分を抑えられないのですか? 思い遣りを持ち、ロザリーにちゃんと優しくすべきでは?」
パトリシアはこの物言いに驚いてしまった。同年代ではあるが、彼は家格も下であるから、本来このような言動は許されない。マックスはパトリシアを目下のように扱おうとしている。
さすがにこれは流すことができなかった。
「元々会う約束をしていたならおつき合いしますが、今は時間を取れないのです。ではお訊きしますが、こういうケースではどうすればよいのです?」
食ってかかっているように思われても嫌なので、冷静に対話しようと努力はした。
「だから、そういうところですよ」
「あの……?」
彼の言いたいことがよく分からない。――こちらに嫌悪感があり、凹ませてやろうと考えているらしいのは、ひしひしと伝わってくるのだ。けれどパトリシアとしては、通りすがりの人間を無理矢理呼び止めて、談話につき合わないから意地悪で思い遣りがないのだと責める行為は、道理を欠いているように感じられた。こちらにもやむをえない事情があるのに、問答無用で悪く解釈されるのは困る。