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ロザリー、クロード殿下に突撃①


 ロザリーが聖泉礼拝のことで四苦八苦する日々を送る中、良い息抜きになりそうなイベントが舞い込んできた。――なんとパトリシアの縁談相手である、隣国の第四王子がやって来るというのだ。


 どんなに残念な男か、この目で確認してやろうじゃないの。


 ロザリーは朝から上機嫌だった。こちらは目いっぱい着飾り、パトリシアに格の違いを見せつけてやるつもりだ。あの女に『負けた』と惨めな気分を味わわせてやれば、この鬱々とした気分も一気に吹き飛ばせるはず。


 その第四王子とやらが、婚約者であるパトリシアにではなく、ロザリーにぽうっと熱を上げてしまうという展開になっても面白いかもしれない。


 ――アレック殿下曰く、クロード殿下とやらは、大層気色の悪い王子とのことである。けれどロザリーとしては、第四王子が滞在しているあいだだけ我慢すればよい話なので、一方的に熱を上げられたとしても、特に困ることもないように思われた。


 ようはパトリシアにダメージを与えられれば、それで良いのだ。そんな下らない男にすら相手にされなかったとなれば、パトリシアにとっては、かなり屈辱なのではないだろうか。


 ところがロザリーは、第四王子を迎える場に同席することを禁じられてしまった。納得がいかない。


 話を聞いてみると、これもグレース王太后殿下の差し金だという。――忌々しいくたばり損ないめ、とロザリーは心の中で悪態をついた。


 けれどロザリーは誰かに禁じられたくらいで諦めるような女ではない。彼女は廊下の柱の陰に隠れて、第四王子が通りかかるのを待ち伏せしていた。


 足音が響いて来たので、チラリと顔を出して窺うと、警護の人間が先導する集団が近づいて来るのが確認できた。――腐っても王子なので、精鋭の護衛がついているのね、とロザリーは感心してしまった。護衛の動作はキビキビしていて無駄がない。


 けれど可愛らしいロザリーが近寄って声をかければ、彼らは恐れ多く感じて、自然と道を開けるはずである。――そしてクロード殿下はロザリーに目を奪われ、心惹かれて足を止めることだろう。


 足音がすぐ近くまで迫って来たので、ロザリーは性急に通路に飛び出した。バタバタとみっともない音を立てながら。


「――クロード殿下! 殿下ぁ!」


 ロザリーは何が起こったのかよく分からなかった。彼女は警備の人間に野ネズミのように弾かれ、通路の端に追いやられていた。苛立ちを覚え、無理にまた近づこうとしたら、今度こそ、しっかりと拘束されてしまう。これに不意を突かれたロザリーは思わず床に膝をついていた。


 視線を上げると、すぐそばをクロード殿下が通りすぎた。


 彼は優雅にこちらを流し見て、


「――お嬢さん、足元には気をつけて」


 と声をかけてきた。彼の身のこなしは鮮やかだった。吹き抜ける風のように掴み所がないようでいて、それでいて対峙した者を圧倒するような何かがあった。


 端正で生真面目そうに見えるのに、瞳に浮かんだ悪戯な色は、なんとなく一筋縄ではいかない気配もある。


 ロザリーは呆気に取られ、へなへなと床に腰を落としていた。……聞いていたのと、全然違う……。


 あれのどこが……パッとしない男なの? 確かに派手な美形ではないけれど、でも……。ロザリーとしては、少し癖のあるアレック殿下よりも、今見たクロード殿下のほうがよほど好みのタイプである。


 それにクロード殿下の素敵な声といったら! アレック殿下の感情的な話し方と比べると、とても知的に感じられる。


 ロザリーは口をポカンと開けたまま、去り行くクロード殿下の一団を眺めていた。



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