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ロザリー劇場


 儀式に集中しなければならないのに、パトリシアは頭痛がしてきた。――自分は一体何を聞かされているのだろうか? これはなんの罰なのだ? と思ってしまい、やるせなくなってくる。


 しかしロザリーの勢いは止まることを知らない。


 彼女は先程『パトリシアお姉様に対する意地悪はだめ!』と主張して、アレック殿下をわざと少し凹ませてみたようだが、今度は思い切り持ち上げて、ご機嫌を取り始めた。


『殿下は素晴らしい方なのですから、だめな人を見たら、指導してあげたらいいと思います! そうすれば、教わった人も成長できるし、皆ハッピーです! 教えなきゃいけない殿下は面倒だろうし、ちょっと大変でしょうけれど、できる人は、そういったことをしていくのも、大事なことです! どうしようもないやつだと嘲笑ってしまうと、だめな人がかわいそうですもの。――私なんかは、まだ至らない点が多いですが、それでも自分より至らない人を見ると、まず『かわいそうに』って思うようにしています。怒ったら、負けだな、って』


『誰も損をしない、素晴らしい考え方だ。優しいロザリーらしいな』


『でも父様にはよく注意されるんです』


『なぜ? 卿は君を褒めるべきだ。厳しすぎる』


『人に心を開きすぎるな、許しすぎるな、と言われます』


『君が純真すぎて、心配なのだな』


『もう、私、子供じゃないのに!』


 ははは、とアレック殿下が笑う声。


『ちょっと、殿下? 私を笑ってもいいですけれど、パトリシアお姉様のことは、笑っちゃだめですからね? なんていうか、洒落になる場合と、ならない場合があると思います! ――本当にできない、だめな人を前にしても、これからは長い目で見てあげて欲しいんです』


『はいはい。ロザリーには勝てないな。天使のようだ』


『そんなことないです! フ・ツ・ウ、ですから!』


『だけど普通のことをできない人が多いんだよ、ロザリー』


『もう、私を褒めるの禁止です!』


『じゃあ何を話すんだ』


『見てください! 木にリスさんがいますよ? 可愛いですね! なんか儀式は微妙だけど、私、やっぱり来て良かった! リスさん、とっても可愛いです!』


 とっても可愛いリスさんが会話に登場したあたりで、パトリシアの表情筋が完全に死滅した。


 というか先程から騎士のマックスが黙りこくっているようだが、どうしたのだろう。ロザリーのファンシーぶりにノックアウトされて悶絶し、声も出ないのか……あるいは若干引いているのか……。


 いえ、引いている訳もないか、とパトリシアは思い直し、小さく息を吐く。このくらいで引いてしまうようなら、現状、ロザリーの取り巻き一番手を務めてはいないでしょうし。


 ロザリーは個性があまりに強いので、誰が相手であろうが、初対面時からもう全力で『私がロザリー!』というのをアピールする。だから生理的に無理な人は、初見で距離を置くようになるのだ。つまりロザリー劇場に耐えうる神経の人のみが、彼女のファンとして残っていく仕組みなのである。


 そしてロザリーは国の実力者たちに気に入られているので、『ちょっと合わないな』と思った人は、賢く口を閉ざすことにしているようだ。ロザリーの悪口をわざわざ言いふらして、得になることは一つもない。それゆえロザリーはマイナス評価を受けることがなく、いつまでたっても『皆の人気者』として君臨することができるのだった。


 それで先程から黙りこくっているマックスであるが、彼は意外に腹黒そうなので、アレック殿下の前では、ロザリーに馴れ馴れしくしないよう気をつけているのかもしれなかった。――もちろん、好きは好きだと思う。演技であそこまでロザリーに媚びるのは無理だ。けれどアレック殿下を立てる意味で、ロザリーにあからさまにアプローチするのは控えているのだろうか。


 ……まぁどうでもいいけれど……


 パトリシアはなんだか疲れてしまったので、雑音を意識して締め出し、儀式に集中することにした。


 覚悟を決め、泉のほとりに両手を突き、パトリシアは上半身をぐっと前に押し出した。



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― 新着の感想 ―
[一言] ロザリーみたいなタイプは1番苦手ですねぇ〜
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