友達論ー番外編ー内科にてー
僕には、友達がひとりもいない。孤独で独りぼっちで、常に独りきりだ。携帯を見る。誰ともLINEもメールも出来ない。僕には、どうしたら、友達が、できるのであろうか。い、痛い。胃が痛い。僕は、二階の自分の部屋から階段を降り、リビングへ保険証を取りに行く。すると、父さんがビール片手に言うのだ。口癖のように。
「友達はいいぞ。お前にも、必ず、真の友達ができるさ。何事もあきらめずにやるんだぞ。どうした、顔色が悪いな。どこか、悪いのか」
「胃、胃が痛くて」
「そうか。友達はいいぞ。お前にも、必ず、真の友達ができるさ。お前に言わなければならないことがある。胃が痛いのなら、公園の前にある、内科へ行くんだ。看護師や受付、医者とも友達になるんだぞ」
「わ、わかった」
友達が出来るチャンスが到来した。この僕に。僕は、玄関でブーツを履いて、ポケットの中の保険証を確認して、公園方向へと歩いた。寒いなか、父さんの言葉を思い出して、病院で友達作りだ。胃が、胃が痛い。すると、公園の前に、あった、あった、内科だ。僕は時計を見る。朝の九時十七分だ。僕は内科の自動ドアをくぐり、受付のおばちゃんに保険証を手渡した。おばちゃんは、僕を見て、言うのだ。
「今日は、どうされましたか」
「胃が痛いのと友達が欲しくて。おばちゃん、僕と友達になってください」
おばちゃんは、一瞬、笑い、僕を睨み、言うのである。
「誰におばちゃん呼ばわりしてるんですか。私、おばちゃんじゃないし、あなたの言動、おかしいですよ。友達を作りたいんなら、合コンでもしなさい。まあ一応、ウチ、内科なんで胃は診ます。座ってお待ちください」
なんなんだ。このクソばばあ。見るからにおばちゃんじゃねえかよ。僕はご立腹。人が親切に友達になりたいと優しく言ったのに。クソ。僕は待合室の青いソファーに腰掛ける。この病院、僕以外、患者がいない。すると、目がクリっとした、美人の看護師さんが僕に、「お熱だけお願いします」と体温計を手渡す。優しそうな美人だ。よし。今度こそ、この看護師さんと、友達になれるのかもしれない。勇気を出して、言ってみた。
「看護師さん。僕と友達になってください」
「はっ。ナンパしてるんですか」
「いえ、ナンパではありません。友達作りです。僕と友達にならないと後悔しますよ」
看護師さんは、難しい顔をして僕に言った。
「診察室にお入りください」
「だから、友達になりましょうよ」
「診察室へお入りください」
看護師さんは、こう言い残し、僕に背を向けて、トイレへ消えた。僕には、やはり、友達が出来ないのか。いや、勘違いはよせ。先生と友達になるんだ。僕は、自分に言い聞かせ、診察室へと入った。お相撲さん並みに太っている、眼鏡をかけた、先生がいた。
「どうされましたか」
「胃が痛くて。友達が欲しくて」
「はあ。友達って何」
そう言いながら、先生は僕の胸に聴診器を当てる。苦笑いをしながら。
「友達が欲しいんです。先生、僕と友達になってください」
「友達ね。医者と患者が友達になると、ややこしいからね。胃痙攣だね。一週間分のお薬、出しておきます」
「だから、友達になってください」
「あの、次の患者さん、診なくちゃいけないんで、君と友達になれないね。じゃ、帰って、ゆっくり、休んでください」
僕は、僕には友達が、一生、できないのか。診察室を出る。待合室には、みかんをほじくる、おじいちゃんがいた。何度も咳を繰り返す、おじいちゃん。僕は名前を受付のばばあに呼ばれ、無言でお薬をもらい、保険証を返された。僕は、独りきり、家へと虚しさいっぱいで帰る。
僕には友達ができないのか。さっきのおじいちゃんにも、友達になりたいと、伝えるべきだった。
家に帰ると、母さんがトイレから出てきて、いつものように、こう言い残す。
「何か、あったら友達を想いなさい」
何故だ。僕が悪いことでもしたと云うのか。何故、僕には友達が出来たことが一度もないのであろうか。僕は台所で、お薬を飲み、今日という日の虚しさを想い、自分の部屋へと階段を上った。ため息ばかりの日々。僕は。僕は。僕には友達が出来ないのか。僕は、布団に潜り込み、虚しさに泣いた。胃は、もう、痛まないけれど。
「友達。友達。友達が欲しいよ」
と、大声で叫んでみた。今日の虚しさを僕は忘れない。そうだ。真の友達は待っているんだ。父さんの言うように。ポジティブに考えよう。僕は、枕を抱いて眠りに就いた。友達が出来ますように。