1-7.伯怜と愛理
愛理との再会後、二人はそれぞれ帰路につく。お互い、久々に触れ合った感触が残っており、その感覚を思い出しつつ、かなり浮足立った様子だった。
(愛理、あまり大きくなってはいなかったけど、なんだかこう、やわらかいというような、いいにおいがしたというか……)
(伯怜、大きくなって、たくましかった。なんだかこう、心が落ち着くというか……)
はっきり言って、二人とも完全にのろけている状態である。
家に着いた伯怜は、玄関に上がるなり、母から
「愛理ちゃんとは会えた? ちゃんとお話しできた?」
と、伯怜が愛理と会ったことを確信しているような勢いで質問を投げかけた。
「……うん」
伯怜はあえて深く突っ込まず、軽く返事をするにとどめた。
「そう、よかったわ。愛理ちゃん、伯怜がいない間も、ちょくちょく家に遊びに来てたから」
「そんなことがあったのかよ……」
伯怜は愛理の意外な行動に少しばかり驚いたが、愛理の性格を考えれば、そりゃそうだなと心の内で納得し、内容について言及することはしなかった。
部屋に戻ると、伯怜はすぐさまベッドの上にうつぶせになり、愛理との再会の瞬間を思い出す。
(愛理、まだ子どもっぽいけど、やっぱり昔とは違うな……。なんていうか、色気はまだ無いけど、少し大人っぽくなったというか……)
14歳の少年にしては、ずいぶんと深いところまで考えている。これは思春期特有の感覚、というものなのだろうか。とにかくのろけが止まらない。
「いかんいかん、愛理とはこれからも仲良くやっていきたいんだ。あんまり変なことは考えないようにしないと!」
そう伯怜は意気込むも、愛理との仲の良さは普通ではないのは明らかだ。
一方の愛理はというと、家に着くやいなや、家族や側使えに何も言わずに、自室にこもる。伯怜と同じようにベッドの上に体を預けるやいなや、すぐさま枕を抱きしめ、伯怜と再会できた喜びを抑えられず、悶絶していた。
「きゃー、伯怜。あんなこと言うなんて……。でも私のことを想ってくれてたし、あー、もう、伯怜ー!」
こちらはこちらで、のろけを完全に通り超えて言葉にしつくせないような感情を爆発させていた。体のほうも正直なようで、体を激しくうねらせたり、足をばたつかせたりしている。まだ14歳の少女、思春期真っ只中であり、恋に憧れるのは当然であるが、愛理の言動は完全にそれを通り超えている。側使えも不審、というか奇怪に思っていたが、いつものことだということで、触れることはなかった。
伯怜と愛理の付き合いは、幼い頃から、というより赤ん坊のころからの付き合いだ。元々双方の両親が古くからの親友であり、よく伯怜側が愛理の家に行くことが多かったのである。
やがて幼稚舎に通い始めるようになると、普段はお互い同性の友達と過ごすことがほとんどだったが、何かあった時は愛理の方から伯怜に駆け寄るということが多かった。生まれた時からの本能、というものだろうか。愛理にとって伯怜はどこか安心できる存在だったのである。
小学校に入っても、愛理の行動は大して変わらなかったが、同性の友達と遊ぶことが多かったため、幼稚舎の頃に比べれば接点はいくらか減ったかのように思えた、が、愛理がいじめられるようなことがあったら、すぐさま伯怜が駆けつけ、「愛理をいじめるな!」と言って自分が傷つくのを恐れずに相手に向かっていった。少々やんちゃだが、愛理にとって伯怜はヒーローだったのである。
中学校に進学すると、やや雰囲気が変わり、お互い異性として関わるようになる。と言っても、仲の良さが変わったわけではない。お互い仲良しであり、周囲からもあの二人は付き合っていると認識されるようになる。伯怜も愛理もその点を指摘されても、特に慌てた反応はせず、逆に茶化した方が後悔するといった感じであった。そして12歳、中学三年生の最期、3月になり伯怜の留学、もとい武者修行が決まると、愛理は深く落ち込んだが、伯怜との『約束』もあったため、それを心にとどめ続け、今日に至るのである。
この二人の関係は双方の両親もしっかり把握しており、お互い親の公認を受けた身であり、年齢にあった関係であれば、付き合っていても全然かまわないという態度である。さらに言うと、中学生の時点でもう将来の話をするようになっていた。それはつまり、ゆくゆくは結婚のことも考えている、ということだ。
ところで、愛理が家に帰った際、側使えの存在が明らかになったが、これが意味することは何だろうか?伯怜も愛理も名字がそれぞれ『姫宮』、『皇龍』と、あまり見かけないものである。この点に関しても、後々明らかになるだろう。
付け加えると、この国の成人になる条件は、高校を卒業すること。厳密には異なるが、15歳になればもう大人の仲間入りである。つまり、先述したように、高校を卒業すれば結婚もできるということだ。
さらに付け加えると、この国の国民は、中学生のころからというかなり若いうちから恋愛思考や結婚願望が強いという国民性であり、高校を卒業してすぐ結婚という、10代で結婚するケースも少なくない。中には高校で出会いを求めるという事例もある。もちろん、経済的な余裕や子どものことを考えれば大学を卒業してからということでも全く問題ない。
地方に行けば、幼い頃の口約束や幼馴染同士、親同士が決めた相手との結婚というのは決して珍しくない。伯怜と愛理は都会暮らしだが、どうも普通の国民とは違う身分のように見受けられる。果たして、伯怜と愛理は将来をどのように考えているのだろうか?
ついでに記載することとして、この国では15歳未満及び未成年の性交は法律で禁じられている。更には12歳未満への性交は問答無用で強姦罪となる。
もちろん、ほとんどの高校は不純異性交遊なんて認めていない。それでも、中には高校生という身分ながら肉体関係を持つという男女が存在するのも確かである。このようなことがあるため、性教育に関しては中学校の頃から行われるが、親子で話し合って性に関する知識や避妊の重要さを学ぶ家庭が多い。無論、伯怜たちもこのような教育を受けている。
伯怜と愛理は上記の通りとても仲が良いが、お互い清い体でいることが望ましいと考えているため、抱き着いたりキスをしたりすることはあるようだが肉体関係を持つつもりは現時点では考えていないようだ。伯怜と美怜もやや危ない関係であるものの、伯怜は「妹を傷つけるなんて言語道断」と考えているため、やや強めのスキンシップでとどまっている。
自分で書いておきながら気持ち悪いと感じています。性交同意年齢等の問題もありますが、この世界は現代日本ではないので。