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龍と姫の協奏曲~銀の剣は天空を舞う~  作者: 佐倉松寿
第一章 帰国、そして再会
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1-4.伯怜と美怜

 父との会話も終わり、リビングでくつろぐ伯怜。今までも大変な生活をしてきたけど、これからの生活もベクトルは違えど大変なのだろうと考えると、気が重くなった。それでも、うまくやっていけるだろうという自信はあった、何故なら……。




「三人とも、順番にお風呂に入ってきたら?」

 伯怜の考えを遮るように母が声をかける。伯怜にとっても一人でリフレッシュしたいと思っていたので、丁度いいと思い、着替えを用意して風呂場に向かおうとした、その時、

「ねえお兄ちゃん、一緒に入らない?」

 と、いきなり美怜が伯怜の前に現れ、とんでもないことを言った。


「何馬鹿なこと言ってるんだ!」

 伯怜は思わず大声を上げた。それを聞いた母がやってきて、伯怜は事の経緯を説明する。伯怜の説明を聞いた母は美怜に対し、

「美怜、仲が良いのはいいけどやっていいことと悪いことがあるくらいちゃんと理解しなさい!」

 と、美怜を叱責する。

「えー、でも……」

 美怜は何かを言いたそうだったが、

「でも、じゃありません! 美怜は女の子なんだから、お兄ちゃんでも裸を見られるのは嫌でしょ! 女の子なんだから自分の体を大切にしなさい!」

 母は美怜の反論を押し切り、純潔の重要性を説いた。これには美怜も「うん」とうなずくことしかできなかった。美怜はその場から引き上げるが、

「別にお兄ちゃんにだったら見られても平気なのに……」

 と、誰にも聞かれないように小声でぼやいていた。




「はぁ、家でもあんなことを言うなんて。やっぱり美怜はまだ……」

 湯船につかりながら伯怜は考えを巡らせていた。この2年間で、美怜には大きな変化があったからだ。それを癒すためなら伯怜は美怜に対してどんなことでもしてやろうと思っていたが、

「いや、妹に手を出すことはあってはならないことだ。そんなことしたら兄失格だ!」

 と、あらぬことを考えてしまった。美怜の体はまだ幼いが、今後成長すれば妹に対して欲情してしまう恐れもある。伯怜はそんなことは絶対にしてたまるものかと心に刻み、風呂から上がり、着替えて風呂場を後にした。




 伯怜は2年ぶりとなる自室に入る。誰も生活していなかったはずなのに、部屋には埃一つない。きっと母が定期的に掃除をしてくれたのだろうと考えつつ、母に感謝しながら、ベッドに体を預ける。だが、明日からは本格的にここでの生活が始まるのだから、最低限のものは無いと困ると感じ、ベッドから起き上がり、スーツケースを開き、荷物の整理を始めた。


「服は、別にあっちで着ていたのを着てもいいけど、少しは新調した方がいいな」

 などと考えていながら荷物を整理していたが、あるものが目に付く。それは木でできた短い杖。

「ここではまだ魔術は使えないけど、学校で訓練するし、これからも長くお世話になるものだ。大切にメンテナンスしておかないとな」


 この世界には『魔術』というものが存在する。『魔法』と呼んでもいい。特にこの国の国民は魔術の適性が高く、伯怜も魔術の訓練をかねて修行していたのである。魔術についてはまたいずれ説明するとしよう。学校でも習うことだし。




「そういえば、これもあったな」


 そうつぶやくと伯怜は何もない空間から『あるもの』を取り出した。これも立派な魔術であるが、この程度の魔術は黙認されている。

 それは重厚な雰囲気ととても強い力が込められた刀である。向こうの国を出る際、師匠から託された名刀である。師匠曰く、この刀を抜くには相当な実力と覚悟が求められ、中途半端な心構えでは刀にのまれてしまう、とのことだ。幸い、この国ではまだ刀を求められることはないので、現在の伯怜にとっては必要ないどころか災いの元になる恐れがある代物である。

「こいつは、下手に持ち歩いてると厄介なことになりそうだから、今はまだ部屋に飾っておくとしよう」

 そう言うと、伯怜はその刀を部屋の隅に丁重に飾った。




「さすがに疲れた。今日はもう寝るとしよう」

 時刻は午後10時、荷物の整理も一通り済んだため、休むことにした。他のことは明日以降やればいいと考えながら。

 すると突然、部屋の扉が開き、何者かが部屋に入ってきた。


「お兄ちゃん……」

 正体は美怜だった。寝間着姿で、何やら不安そうな顔をしている。

「どうしたんだ? 美怜」

 風呂場での出来事からそっけない態度をとると思われた伯怜だが、口調は非常に優しい。

 すると美鈴は突然、伯怜に抱きついた。


「今日、いろんなことがあり過ぎて、それで、頭の中がぐちゃぐちゃで……、怖いよ……」

 美怜は半泣きの状態で、伯怜に訴えかけた。

「そうだな、人ごみは辛かっただろうし、ジジイにも父さんにもいろいろ聞かれたからな」

 伯怜は美怜を片手で抱きしめ、もう片方の手で頭をなでながら、とても優しい口調で語りかけた。


「私、これからうまくやっていけるのかな?」

 それでも美怜の不安は収まらない様子である。

「大丈夫、俺だって不安に思ってるさ。美怜だけじゃない。辛いことがあったら俺のところに来ればいい。そうすればこうやってやるさ」

「本当?それじゃあ、いつもの、して」

 そう言うと美怜は目を閉じ、顔を少し上にあげた。伯怜はこの行動の意味を理解している。伯怜はそっと、美怜の唇に軽くキスをした。『とある出来事』から、美怜の心を落ち着かせるためにしているいつもの行為だ。


「ねえお兄ちゃん、今日も一緒に寝ていい?」

 一連の行為を終えた美怜は伯怜に対し、これまたいつものように言った。

「前にも言ったけど、毎日はダメだ。だけど、今日はいいよ」

 伯怜の口調は優しいままだ。

「……うん、ありがとう」

 そう美怜は言い、二人の抱擁はもうしばらく続いた。




 風呂場での考えの通り、伯怜は美怜に身体的に欲情することは無い。それでも、伯怜の美怜に対する想いは特別だ。兄妹愛を超えてはいるが、それ以上には至らない。




 シスコンの兄とブラコンの妹、この二人のこれからの運命はいかなるものなのだろうか……。


 ジャンルはファンタジーですが、しばらくはこのような展開が続きます。魔法や剣といった要素も準備してあるのでお付き合いください。

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