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龍と姫の協奏曲~銀の剣は天空を舞う~  作者: 佐倉松寿
第一章 帰国、そして再会
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1-2.本家への報告

 祖父の家までは歩いていける距離である。道中、伯怜はこの2年間を振り返りながら、このことをどう説明すればいいかを頭の中で思考を巡らせていた。


「おじい様、僕たちを見てなんて言うんだろう?」

「おじいちゃん、お小遣いくれるかな?」

 伯怜の不安をよそに、怜嗣と美怜は非常に気楽である。


「あんまり期待しない方がいいぞ。今日は正月じゃないんだから」

 期待をしている美怜に対して、伯怜は美怜の肩に触れ、優しく語りかけた。

「でも、そろそろ私の誕生日だもん!」

 美怜は突然言葉を強くする。よほど何かを期待しているのだろうか。

「そういえばそうだったな、その時はちゃんとお祝いするから、今日の所は我慢するんだよ」

 そう言うと伯怜は、穏やかな表情で美怜を軽く抱きしめた。これに対し美怜は驚くというよりも、むしろ喜びを見せ、「うん!」と返事をするのだった。

「兄さん、さすがに道端で……」

 一部始終を見ていた怜嗣は、伯怜を諫めるも、

「別にここら辺は人通りが多いわけでもないし、見られたからってそこまで気にすることじゃないさ」

 と、怜嗣の心配を一蹴するのであった。




 一行は立派な門が構えている家の前に到着した。門の内側は見えないが、とても立派な屋敷であることは容易に想像できる。

「二人とも、ここからは姫宮家の本家にあたる厳粛な場だ。くれぐれも変な態度をとらないように」

 伯怜は弟妹に対して威厳をもってそう伝えるが、今までの態度から、

「兄さんが一番心配なんだけど……」

 と、怜嗣に言われる始末だった。




  『姫宮家(ひめみやけ)

 現在の白龍王国が建国される前、国土が戦乱に覆われていた中、白龍王国の建国者に従って戦乱を鎮めた英雄の一人、『姫宮天龍(ひめみやてんりゅう)』の子孫の家系であり、現在でも軍において絶大な発言力を持つ。姫宮天龍の時代から代々男子が家督を継ぎ、現在でも男系を維持している。伯怜たちはこの姫宮本家の血を引く名族であり、特に長男の伯怜は将来的には家督を継ぐ身である。




 伯怜は早速門の入り口にあるインターホンを鳴らす。すると若い女性が、

「はい、どちら様でしょうか?」

 と応答した。伯怜はそれを聞き、

「姫宮家現当主の孫の伯怜です。祖父殿にご挨拶に参りました」

 と、今までの態度が嘘であったかのように急に真面目な言葉遣いで返答した。


「まあ、伯怜様。帰ってきていらっしゃったのですね。ご当主様にお伝えするので、しばらくお待ちください」

 女性は驚きと慌てた様子で会話を止め、インターホンを切った。

 伯怜のこの一連の対応に、思わず

「兄さん、なんていうか、疑ってごめん」

「お兄ちゃん、かっこいい!」

 と、弟妹たちは驚きと称賛を隠せない様子だった。

「まぁ、俺も考えあって行動しているんだ。ここで悪態をついてもマイナスになるだけだし」

 この時の伯怜の様子は、正に姫宮家当主になるという意志の強さを感じられた。


 インターホンのやり取りから3分程で、応対した若い女性が門を開き、

「伯怜様、怜嗣様、美怜様、おまたせしました。用意が整いましたので、ご当主様の元へご案内いたします」

 と、和装をした使用人と思われる女性が、丁重に挨拶をして伯怜たちを出迎えた。

「そこまでかしこまらなくても大丈夫ですよ。俺、いや僕たちはまだ子どもなので」

 伯怜もいくらか謙遜している。一人称を変えるまでに。




 門が示した通り、屋敷のみならず、庭園まで完備されている。幼い頃何度も訪れたはずなのに、三人は隅々まで管理された庭園を見て感心するばかりだった。


「たくさん花があって綺麗。どうやって世話をしてるの?」

 美怜が思わず口に出す。

「花木は奥様の趣向に合わせて我々使用人が管理しております」

 使用人は美怜にも丁寧に接する。


 長い庭園を歩いた一行は屋敷に着き、これまた立派な玄関から屋敷に入る。この時は伯怜のみならず怜嗣、美怜も丁寧に靴をそろえてから玄関を上がる。三人の育ちの良さがうかがえる瞬間である。




「ご当主様、奥様、お三方をお連れしました」

 いかにも厳格な雰囲気が漂う部屋の前に着くと、使用人が戸を叩いて報告する。

「うむ、入るがいい」

 部屋の中からはこちらも威厳を感じる老人の声がした。

「それではお三方、ごゆっくりと」

 そう言うと、使用人は三人を残して奥へと下がった。恐らく茶や菓子を用意するのだろう。


「失礼します」


 伯怜はそう言い、部屋の中に入り、あらかじめ用意されていた座布団に正座し、怜嗣、美怜もそれに従った。部屋の上座には伯怜たちの祖父と祖母が座っていた。


「お久しぶりです。おじい様、おばあ様。姫宮伯怜、ならびに怜嗣、美怜、2年間に及ぶ修行を終え、本日帰国いたしましたことをご報告に上がりました」

 まるで主従関係のような伯怜の態度に、思わず祖母は

「そんなにかしこまらなくてもいいのよ。長旅で疲れたでしょう、脚も崩していいから、もっと気楽に話しましょ」

 と、優しく声をかけた。

「そうですか。それでは失礼して」

伯怜たちはお互いの顔を見合い、軽くうなずいて脚を崩し、楽な姿勢をとった。


「伯怜、怜嗣、美怜、長いことご苦労だった。わしからの提案だったとはいえ、辛いこともあっただろう。よくやり遂げた。ほめてやろう」

 祖父は威厳を示しながらも、どこか優し目な雰囲気で、三人をねぎらった。


「いえ、おじい様のおかげで様々なことを学ぶことが出来ました。その点は感謝しています」

 伯怜もいくらか態度を軟化させ、祖父の言葉に対して返答する。あれだけ反抗していたが、目上の者にはしっかりと敬意を払う。14歳ながら出来過ぎた子どもだ。


「いくつか引っかかる点はあるが、その様子だと大分成長したようだな。具体的に何を学んできたのだ?」

 すかさず祖父は伯怜に質問を投げかける。

「剣術、魔術の技術、軍人、及び冒険者としての心構え、といったところです」

「何、軍人だけでなく冒険者にも興味があるのか?」

「はい。というより、実際に冒険者として各地を旅しました」

「なんと、あいつ、ずいぶん余計なことを吹き込んで……」

「いえ、大叔父上は悪くありません。むしろ自分から頭を突っ込んだんです。それを大叔父上はサポートしてくれたんです」

「む、そうか。そんなことがあっても無事に帰ってこられたとは、あいつに感謝しないとな」


伯怜と祖父の会話が続いたが、途中で美怜の表情が曇る場面があった。それに気付いた祖母は、

「美怜ちゃん、何かあったの?」

 と質問をする。

「えっと、あの、その……」

 美怜は激しく動揺し、顔を背け、それ以上の言葉を発することは出来なかった。

「すみません。そのことについては触れないでください」

 そこに伯怜が割って入り、話を途切れさせた。祖母は気になっていたが、伯怜の言葉を聞き、それ以上追及することを止めた。


 丁度そこへ先程の使用人が部屋に入り、各人にお茶と菓子を提供した。これをうけた美怜は多少安心した様子で、伯怜の許可を得たうえで、菓子を口にした。こわばった顔も、これにより普段通りの美怜の顔に戻った。


「修行のことは分かった。詳しいことはあいつに直接聞くとしよう。それで、今後はどうするつもりなのだ?」

 今度は祖父が質問をする。

「学校に戻り、勉学、剣術、魔術、遅れた分をしっかり勉強し、卒業後は軍に入るつもりです」

 軽くお茶をすすった後、伯怜はしっかりとした口調でそう答えた。

「うむ、白帝軍に入るのはお前の宿命だからな。だからと言ってわしが直接人事に介入することは無いぞ。分かっているな?」

「はい。自分の実力で白帝軍人として生きていくつもりです」

 伯怜の目は既に将来を見据えており、意志の固さがうかがえる。


「分かった。疲れただろう、家に帰ってゆっくるするといい」

「今日はともかく、今後ゆっくりできる時間があればいいんですけどね……」

 何かを感じ取ったのだろうか、伯怜は冷めた表情でそう口にした。


「……」

 伯怜と祖父のやり取りを見ていた怜嗣と美怜は、どこか落ち着かず、そわそわしていた。

「ああ、せっかく来たんだから、渡す者はちゃんと渡さないとね」

 二人の表情を見た祖母は、おもむろに三人のところへ近寄ると、

「三人とも、2年間、お疲れ様」

 と言い、三人に封筒を渡した。中身は見えなかったが、封筒のデザインからしたら、中身は現金、つまりは小遣いだろう。

「ありがとうございます。大切に使います」

「ありがとう、おばあ様」

「ありがとう、おばあちゃん!」

 三人はそれぞれ祖母に礼を言う。




「それじゃあ、気をつけて帰るのよ、寄り道はしないようにね」

 わざわざ玄関まで見送りに来た祖父と祖母。少々堅苦しかったが、久しぶりに孫と会話できたことがうれしかったようだ。

「次会うのはいつでしょうか?」

「先祖の墓参りには来るように」

 軽く会話した後、三人は深々と頭を下げ、屋敷を後にした。


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