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龍と姫の協奏曲~銀の剣は天空を舞う~  作者: 佐倉松寿
第一章 帰国、そして再会
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1-1.帰国

 少女との約束から2年が経った。




 少年は紆余曲折あったが無事修行をやり遂げ、国に帰ってきた。

「あれから2年か。長かったような短かったような……」

 3月上旬、空港にて、久々に降り立った母国の雰囲気が、どこか懐かしく感じた。




 ここは『白龍王国(はくりゅうおうこく)』。世界に5つある主要大陸の内、一番大きな大陸の東に存在する。長い歴史を持ち、農業、工業、商業といった近代産業が発展しており、更には二種類の屈強な軍隊を有する先進国なのだが、いまだにどこか近世的というか、現代化が進んでいない地域もある非常に広大な国家である。




 少年の名は姫宮伯怜(ひめみやはくれい)。スラっとした体格で、顔もイケメンと言っていい程の容姿端麗だが、何よりも誰が見てもうっとりしてしまうような美しい銀色の髪が特徴的である。




「ねぇ兄さん、これからどうするの?」

「お兄ちゃん、飛行機の中でずっと座ってたから疲れた。早く家に帰ってのんびりしたいよ。それに人がたくさんいてなんだか嫌な感覚がするし……」

 伯怜より少し幼く見え、髪の色も少し灰がかった少年と、眼鏡とヘッドホンを厳重に装着しており、短めのツーサイドアップの白髪碧眼の少女がそれぞれ伯怜に問いを投げる。

「まぁ、とりあえず家に帰ろう。父さんと母さんたちに顔を見せるのが最初にすることだ。その後はあのジジイのところに行って報告しないとな」

 初めのうちは普通の口調だったが、後半はものすごく乗り気でないといった伯怜の言葉だった。




 最初に伯怜に問いを投げかけたのは伯怜の1つ違いの弟の姫宮怜嗣(ひめみやれいじ)。そしてもうひとりの少女は伯怜の2つ違いの妹の姫宮美怜(ひめみやみれい)である。二人とも伯怜とともに異国へ渡り、修行してきた身である。




「まだ10時、中途半端な時間だな。こっから家まで電車で30分。徒歩で10分ちょい。家に帰れば飯は食えるだろう。問題はそれからだろうからな」

「えー、車じゃないのー?」

「俺たちはまだ子どもなんだ。そんな贅沢は言ってられないさ。荷物がちょっと多くて大変かもしれないけど、俺が手伝うから、美怜は無理する必要は無いよ」

 ごねる美怜に対し、伯怜は美怜の頭をなでながら優しく諭した。美怜の機嫌は悪かったが、兄の言うことにはちゃんと従う。美怜は多少わがままでブラコン気味の妹といったところである。

「じゃあ兄さんの分は僕が……」

「おいおい、それじゃ意味がないだろ」

 兄を思っての提案だったが、兄の言うことが正しいので怜嗣は思わず「そうだね……」と返すにとどまった。兄の背中を必死で追いかける、そんな日々をこの2年間送ってきたので、怜嗣は兄想いの優しい弟に育った。


「じゃあ早速駅に向かうとするか」

 しばらく空港で休息をとった三人は、伯怜の言葉で動き出す。目指すは自宅、2年ぶりの帰宅である。




 電車、徒歩と交通手段を使い分け、三人は自宅に着いた。伯怜は特に疲れた様子を見せないが、美怜はどうも調子が悪そうだ。

「おかえりなさい、三人とも。ずいぶんたくましくなったわね」

 家に入ると早々、三人の母親が出迎え、我が子たちの2年間の変化っぷりを驚いた。

「お母さん、ただいまー!」

 今まで気分が優れなかった美怜も、一安心したようで、すぐさま母親の元へ駆け寄った。伯怜と怜嗣は荷物を玄関に運び入れ、こちらも一息つく。

「ただいま、母さん」

 伯怜は母の顔を見て、自分にかかっていた重しが外れたような感覚がした。

「2年間、あっちでの生活はどうだったの?」

「いやー、色々ありすぎて、ここじゃ話きれないよ」

 伯怜の表情は複雑だった。そう、色々あり過ぎたから……。


「父さんは?」

 伯怜たちの会話に割って入るかのように、怜嗣が質問を母に投げかける。

「今日も仕事よ。ほら、今は新しい子たちがいっぱい入ってくる時期だから」

「そうか、軍人ってやっぱり忙しいんだよな」

 伯怜が思わずつぶやくと、

「それでも、伯怜は軍人になりたいんでしょ?そのためにお父さんやおじい様たちの提案に反対しなかったんだから」

「そう言われれば、そうだな……」

 母の説明に対して、伯怜は思わず今回の修行の意味を思い出す。


「今は難しい話はなし。お昼ご飯までまだ時間があるから、ゆっくりするといいわ」

 母親の言葉に対し、

「そうさせてもらうよ」

「そうだね、でも最低限の荷物は出しておかないと」

「お母さん、お昼ご飯は何?」

 と、三兄妹の反応は三者三様といったところだ。




 昼食を食べ終えた三人は、久々の自宅の感覚を思い出しつつ、終始落ち着いた雰囲気だった。しかし、母の一言で伯怜の気分は一変した。


「三人とも、これから本家のおじい様の所へ挨拶に行ってきなさい」

「ちっ、やっぱり行かないといけないのかよ、あのジジイの所に……」

「こら、おじい様のことをそんな風に言わない!」

 態度を悪くした伯怜に対し母は叱責する。

「さっきも言ったけど、おじい様の提案を受けたのは伯怜なんだから」

「それは分かっているけど、俺はジ、おじい様のために軍人になりたいわけじゃない」

 ジジイと言いかけた伯怜だったが、叱責を受けたあとだったため、さすがに言葉を控える。伯怜にも考えはあるようだ。

「まったく、昔はそんなに反抗的じゃなかったのに、何かあったの?」

「今は話したくない。俺だけの問題じゃないから」

 伯怜の心境は複雑である。そう、様々なことを経験してきたのだから、素直になれないのは当然である。

「とにかく、ちょっと休んだらちゃんと行くこと! 分かったわね?」

「分かってるよ」

 伯怜はようやく観念した模様で、祖父に対して何を話せばいいかを考え始めた。


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