2-3.ようやく自己紹介
土日をはさみ、4月5日、ついに始業式を迎える。伯怜と怜嗣は身だしなみを整える。一方、美怜は入学式が翌日の4月6日なので、特にすることがない。伯怜は勉強しておくようにと告げ、怜嗣とともに学校へ向かう。
ようやく皆と再会できる、新しいクラスメイトに会える、と思っていたが、またしても足止めを食らう。そう、再び別室行きである。
「またかよ……」
伯怜も肩透かしを食らって不機嫌だったが、担任は、
「まあ始業式の話は興味ないだろ? だから出なくていいぞ。それに、皆に顔を見せるのは教室の方がいいだろう。ほい、これが名簿だ」
と、伯怜の機嫌をとるためか、クラス名簿を渡した。
「おっと、これも渡しておかないとな。忘れるところだった」
そう言って取り出したのは、顔写真がしっかり写っている生徒証だ。
「そんな大事な物、よく忘れてましたね」
伯怜はやや呆れ気味に反応する。
「いやー、本来なら始業式後に全員に配布するからな。君には先に渡した、ってことで」
「……ならば構いませんが」
そう言い終わると、担任は教室へ向かうのだった。
廊下が騒がしくなる、恐らく講堂にて始業式が始まるのだろう。そんなことを考えながら、担任から受け取った生徒証を見てみる。
3年1組 姫宮伯怜 出席番号26 生徒番号××××××
「まあ当然の結果か」
一番上のクラス、1組に入ったことに対する感想だ。龍族なので不自然ではない。
次はクラス名簿を見ることにした。人数は32名。
「あいつらも、当然の如くいるな」
あいつらとは、歓迎パーティー及び勉強会をした仲間たちのことである。当然だ、龍族なのだから。幸人、愛理、恭人、三つ子が同じクラスでいいのかという感覚はあるが、今までもそうだったため、特に違和感はない。
「おっ、こいつらもいるな。懐かしい顔ぶれだ」
中学まで一緒だったクラスメイトのことだ。そんな風に感じながら見ていたら、とある人物の名前が目に入った。
「姫宮……時子?」
伯怜と同じく姫宮の姓を名乗っている女子生徒。伯怜は首をかしげる。
「姫宮……、俺以外にもいたのか? 高校からの外部受験者か?」
伯怜の興味はそちらへ移ってしまった。一体どんな人物なのか、生まれ、系図はどのあたりなのか、謎が深まるが、教室で会えば分かることだろうと考え、名簿を閉じた。
「あとは席順がどうなるかだな」
無理やり考えを変えた。顔見知りは多いが、誰の隣になるのかはやはり気になるところだ。伯怜としては愛理の隣が一番だと思いつつも。
またしても廊下が騒がしくなる。始業式が終わったのだろう。それからしばらくして、担任とは別の教師がやって来た。教室まで案内するとのことだ。
(さて、お目見えか。……緊張してきたぞ)
突然の緊張に伯怜は驚く。どうやって教室に入ればいいのか、挨拶はどうすればいいか、みんなの反応は……、伯怜らしからぬ動揺である。
なんだかんだで教室前に着いてしまった。ここまで来たら腹をくくるしかない、そう考え、教室内から声がかかる。「入ってくるように」と。
ガラッ
伯怜は動揺からか、結構勢いをつけて扉を開けてしまった。それに対して周囲は驚く。伯怜は表情を変えずに教室の前まで歩く。黒板に自分の名前を書き、そして皆の方を向く。なんというか、一つ一つの動作には無駄にキレがあった。
「姫宮伯怜です。2年間の修ぎょ、……留学から帰ってきました。初めての方もいるかと思いますが、皆さん、よろしくお願いします」
途中危なっかしい所もあったが、鬼門である挨拶はしっかりできた。そして頭を下げる。
教室からは拍手が起こる。中には「待ってたぞ!」とか「おかえり」なんていう声も聞かれた。伯怜は教室全体を見渡した。中でもやはり愛理が一番喜んでいた。
「これから何て呼べばいいのかな、姫宮君?」
担任が皆に分かる声量で伯怜にそう尋ねた。
「……伯怜でいいです」
「そうか。じゃあよろしくな、伯怜君」
担任とのやり取りが終わると、再び歓声が上がる。中には伯怜と早速呼び捨てにする者もいた。一番目立っていたのは恭人だったが。
「それじゃあ席だけど、どこか希望はあるかい?」
担任は再び伯怜に尋ねる。それもわざとらしく。何故なら、空いている席は愛理の隣しかなかったからだ。それも教室のほぼ中央だ。不自然にもほどがある。
「これ、仕組みました?」
伯怜は疑惑の目で担任をにらむ。
「いや、これは皆で話し合って決めたんだぞ。そうしたら、みんなが愛理さんの隣しかないって言うから」
「……」
伯怜の表情がまた厳しくなる。周りからは「お似合いだぞ」とか「よっ、仲良し夫婦」なんて声も聞かれた。これを聞いた愛理は取り乱すのかと思った伯怜だったが、意外にも軽く微笑むだけで済んでいる。
(いつもだったらもっと喜ぶはずなのに……)
伯怜は疑問に思いながらも、担任に席につくように言われたので、大人しく愛理の隣の席に行き、席につく。
「よろしくな、愛理」
「ふふっ、こちらこそ。よろしくね、伯怜」
軽く言葉を交わした伯怜と愛理だったが、とにかく周りからの野次がうるさい。主に中学時代のクラスメイトからだ。お互いの関係を知っているため、自然とこうなる。まあ伯怜にとってはこれとない状態なのだが。
色々とあったが、ようやく伯怜の高校生活が始まる。担任の長い話を聞きながら、伯怜も配られたプリントや資料に目を通す。しかし、伯怜はどうも気になっていることがある。それは、窓際の後ろの席の方から感じた、とある女子生徒の視線であった。
私は転校を経験したことがないので、うまく書く方法が分かりませんでしたが、こんな感じなのでしょうか。