2-2.始業式に向けて
翌日、伯怜たちは再び学校へ向かう。今日から母は抜きだ。ガイダンスが始まるためである。伯怜もようやく元クラスメイトに再会できるのかと思っていたら、またしても別の部屋に通された。それも、三人バラバラである。ガイダンスは学年ごとに区切って講堂で行われる。そこにいきなり自分たち、姫宮家の人間が混ざるのは混乱でも生むのか、なんて伯怜は考えた。
(愛理の制服姿、見たかったんだけどな……)
伯怜はそんなことも考えていた。彩乃の制服姿は再会時や勉強会で何度も見ているが、愛理のはまだ見ていない。やっぱり気になるものである。
話の内容はガイダンスで行われるものと一緒だと言われた。だったらと思う伯怜だったが、そこはこらえた。学校側の配慮だと考えよう。そう切り替えた。
その後、しばらく学校生活に関する話をし、結構な時間を食ってしまった。ガイダンスの方は既に終わっており、現在は生徒証用の写真撮影が行われているようだ。そこへ一人の男性教師がやって来た。伯怜の担任教師であり、あちらから自己紹介をしてきた。伯怜も丁寧に自己紹介と、これまでの経緯を説明した。担任の方も伯怜の事をよく分かっている雰囲気である。それもそのはず、この担任教師は伯怜の父と同級生だという。なので龍族のこともしっかり理解しているし、留学の真の目的は修行だったことも知っている。伯怜も安心し、1年限りですがよろしくお願いしますと握手を交わした。
そこへ別の教師が現れ、他の生徒の写真撮影が終わったので次は伯怜たちの番だと言ってきた。伯怜は改めて身だしなみを整えた。念のため、タイピンも外しておくことにした。
写真撮影は特に緊張すること無くすんなりと終わった。伯怜と怜嗣は。美怜はやはり眼鏡とヘッドホンが無いのが気になっているのか、緊張した雰囲気だったが、伯怜が説得したこともあって特にトラブルもなく終了した。どうやら今日はこれまでのようで、もう帰っていいと言われた。伯怜もそれを聞き、素直に直帰することにした。
一方、校内ではちょっとした騒ぎになっていた。
「姫宮家の三兄妹が帰ってきたらしいぞ」
「姫宮君、どう変わったんだろう?」
「あいつ、どんだけ強くなったんだか」
「私、勇気出して告白しようかな……」
そんな話で盛り上がっていた。それは3年1組の教室でも同じだった。
「いやー、伯怜はやっぱり注目の的ねぇー」
彩乃たちは集まってそんなことを話していた。
「なあ、みんな。伯怜とはもう会ったんだろ。どんな感じだったんだよ?」
まだ伯怜の顔をしっかり見ていない元クラスメイトが彩乃たちに話しかける。
「まあ、普通に私たちと同じってところよ」
「いくらかたくましくなった、そんな感じはしたな」
「えー、ちゃんとかっこよくなったよ!」
葉月、俊貴、愛理がそれぞれの感想を述べる。
「愛理の言い方、なんかあったみたいに聞こえるんだけどー」
愛理の態度に女子生徒数名が愛理を茶化す。
「……別にこれといったことはなかったわよ」
愛理は取り乱すかと思われたが、軽く笑って普通に答えた。
「いずれにしても始業式になれば分かるさ」
そう幸人が簡潔に述べると、皆も納得して散らばる。
一方で、高校から白帝学院に入学した生徒たちは、姫宮伯怜はどんな人物なのかが気になっていた。噂じゃ剣の腕がとても凄いと聞いていたが、どのくらいなのか、あるいはどれくらいイケメンなのか、考えは人それぞれである。ただし、好きな女性のタイプを考える者はいなかった。
しかし、一人だけ、椅子に座ったまま神妙な面持ちで考え事をしている女子生徒がいた。よく見ると、やや黒みががった銀髪である。
「姫宮伯怜……」
その女子生徒は小さな声でその名をつぶやくと、外の風景を見るのだった。
伯怜たちは自宅に着くと、母だけでなく父からも出迎えらえた。仕事はどうしたのか聞いた伯怜だが、今日はそこまで忙しくないという理由でさっさと帰ってきたという答えが返ってきた。母は三人の高校入学を祝して家族で写真撮影をしようと言い、これに父も賛同していたようである。伯怜は美怜の入学式の時でいいのではと反論したが、それはそれ、これはこれとあっさり却下された。別に写真に残るのが嫌というわけではないが、まずは腹が減ったということなので、自宅で昼食を済ませることにした。
その後、長い付き合いの写真館へ家族全員で訪れる。七五三も小学校、中学校の入学の時もここで写真を撮ったなんてことを伯怜は思い出しながら、カメラマンの指示通りに皆で並び、何枚か撮影された。両親と写真館の主も旧知の仲のようで、現像が終わるまで長々と話し込んでいたが、伯怜たちにはあまり縁のない内容だったので、ただただ暇な時間であった。かといって、携帯を取り出していじるのもマナー違反だし、伯怜はとりあえず適当に物思いにふけりながら、美怜の話し相手もしていた。
現像された写真は家族の元へ渡されたが、主は写真館に飾っても良いかと尋ねてきた。まあ、龍族一家の家族写真だ。かなりの価値があるだろう。あちらも商売抜きでの頼みだ。誰も反対しなかったので、写真館の入り口に飾られることとなった。
帰宅後は着替えてから祝いということで外食することになった。伯怜はまたしても美怜の入学式の時でいいのではと言ったが、またしても速攻で却下された。何が食べたいかを聞かれたが、あまりぜいたくを言うのも何なので、和風のファミリーレストランでいいと答えた。だが、結果的に飛躍しすぎて寿司屋に行くことになってしまった。まあおいしいものを食べられるならいいと割り切り、家族で向かう。伯怜たちはなるべく安いものを選びつつ、寿司を食べるのであった。
土日をはさんだら、ようやく始業式である。美怜の入学式はその翌日だが、伯怜は改めて充実した1年間を過ごすことを心に刻み、寝ることにした。
なんの前触れもなく和風という言葉を使いましたが、ちゃんと由来はあります。続きを読んでいけば分かるでしょう。