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龍と姫の協奏曲~銀の剣は天空を舞う~  作者: 佐倉松寿
第一章 帰国、そして再会
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1-12.模擬戦

 恭人の一言により歓迎パーティーは一変、武芸の披露会となった。恭人の指示により龍公御所の広い庭に集まった一同。その中心には恭人と伯怜が見合っている。恭人は持参した木刀を持っているが、伯怜はまだ丸腰である。


「どうしたんだ? 早くさっきみたいに構えろよ!」

 恭人はそう伯怜に告げるも、伯怜は当初はやる気だったが、場を考えて少々困惑していた。

「なぁ、幸人。いいのか?」

「構わん、さっさとやれ」

 幸人も伯怜の腕が気になるようで、パーティーの最中の武器の扱いに関しての注意を気にしない素振りでそう伝えた。

「じゃあ、遠慮なく」

 伯怜はそういうと、いつも通り何もない空間から木刀を取り出し、剣道でいう中段の構えをとる。

「お前、そんなの、どうやって覚えたんだ? というか、それ、魔術だよな?」

「なに、これくらいは大丈夫だろ。なぁ、幸人?」

 俊貴は伯怜が木刀を取り出した一連の行動に驚いたが、伯怜は動じず、逆に幸人に聞き返す。

「日常で役に立つ魔術なら、そこまでうるさく言われないさ」

 幸人も幸人で、事務的な答えにとどまった。


「……お前から来い、恭人」

「いいんかよ? 後悔すんなよ」

 伯怜と恭人は軽くやり取りを済ませると、恭人は木刀を左手一本で構える。恭人は左利きである。




「ふっ!」

 恭人は力強く踏み込み、伯怜に突撃し、左上から斬りかかる。伯怜は両手で木刀を握り、恭人の剣筋を受け止める。伯怜が振り払うと、再び恭人が斬りかかる。そしてそれを伯怜が受け止める。この流れが十数回続いた。


「どうした伯怜、防御しか教わんなかったんか!?」

 恭人は伯怜にそう語りかけるも、伯怜は何も答えず、ただ受け止め続けた。

 伯怜に攻め手が無いわけではない。何をしているのかというと、相手の動きを観察しているのである。恭人の剣筋、立ち回り、足の運び、癖、それらを見極めている。

(成程、癖は変わらないが、恭人も強くなっている。だが!)

 恭人の木刀を振り払うと、伯怜は若干距離を取り、構えを緩くした。それを見た恭人はチャンスと思い、一気に伯怜に接近し、両手で木刀を握り、上段の構えから斬りかかる。それを見た伯怜は、体をひらりと左に翻し、左脚を軸に一回転し、右手一本で木刀を振り、恭人の首元に軽く木刀を当てた。一瞬の出来事だった。


「……」

 恭人は言葉が出なかった。自分が攻めていたはずなのに、気付いたら後ろをとられ、首を押さえられていたからである。


「……俺の勝ち、ということでいいんだな?」

 伯怜は静かにそう問いかける。


「……俺の負けだ……」

 恭人は認めたくなかったものの、状況が状況なだけに、負けを認めるしかなかった。




「なかなか面白いものを見せてもらった。次は俺と頼む」

 二人の模擬戦を見ていた幸人が、自分も刺激を受けたのか、伯怜に対して自分も模擬戦に参加する旨を伝えた。

「別に構わないが、勝てる算段はあるのか?」

 伯怜は勝利に酔うことなく、そう幸人に聞き返す。

「やってみなければ分からないだろう」

 幸人の表情は真剣である。目つきもより鋭くなった。

「分かった」

 伯怜はそう答える。幸人は恭人から木刀を受け取り、構える。


 すると伯怜は、今度は中段の構えではなく、右利きであるにもかかわらず、左手一本で木刀の柄の一番根本を逆手で握り、やや前に構えるという、変わった姿勢をとった。


「……なんの真似だ?」

 幸人が不審に問いかけるも、伯怜は無言だった。埒が明かないと感じた幸人は、すぐさま伯怜に斬りかかった。


(速い!)

 伯怜はそう感じながらも、構えを変えず片腕で受け止める。さらに、伯怜が予想していたよりも速く幸人の追撃が飛んできた。伯怜は防戦一方になりつつあった。


 別に幸人が強い、恭人が弱い、ということはない。二人とも国を背負う身、伯怜と同じく、幼少から剣の鍛錬はしてきた。今は参加していないが、俊貴も同じである。この四人の実力に差はほとんどないようなものであるが、今回に限っては幸人がやけに意気込んでいるように見られた。


(手ごわい、油断したらやられる。一瞬も気を抜けない)

 伯怜もそう感じながら、幸人の剣筋をさばいていた。幸人は木刀を両手で握ったり、片手で振り回したりと、伯怜を自分の懐に入れようとしない。

 すると伯怜は、恭人戦と同じように少し距離を取り、構えと姿勢を整えた。幸人は何かしてくると感じながらも、伯怜に斬りかかった。伯怜はそれを見て、左腕を腰付近まで下ろし、右手を柄に添え、左手で柄を話すと同時に右手で握り直し、居合切りのような体制で幸人の胴付近を狙った。これに対し、幸人は右上からの袈裟斬り。二人の木刀は互いに胴付近をかすめたが、ほんの少し伯怜の剣筋の方が早かったように見えた。幸いにも体に当たることはなく、大事には至らなかった。




「……」


「……」


 伯怜と幸人、お互い無言のまま、しばらく動かなかった。というより動けなかった。お互い、これが真剣だったら深手を負っていたと感じたからである。いや、その場にいた全員が同じような感じだった。


「そこまで! 二人とも、熱くなり過ぎだ!」

 俊貴の一言によって緊張が解けたのか、ようやく二人とも楽な姿勢になる。大きな深呼吸をすると、

「伯怜、お前、どんな修羅場をくぐってきたんだ?」

「お前こそ、動き速すぎだろ」

 と、健闘を称えあったのか、はたまた腕の上達に驚嘆していたのか、短い言葉を交わすにとどまった。


「二人とも、怪我してないわよね?」

 と、不安そうに愛理が二人の元へやってくる。

「安心しろ愛理、そんなに深手じゃない」

「そうだ、別に……」

 伯怜と幸人が愛理を落ち着かせようとするものの、

「そういう問題じゃないよ。もう……」

 と、愛理は不満げにつぶやくのだった。




「いやー、面白いものを見させてもらったよ」

 突然、威厳を感じ、なおかつ優しさも感じる男性が伯怜たちに近づいてきた。

「裕人さん!?」

「父上!?」

「お父様!?」

「親父!?」

 伯怜、幸人、愛理、そして恭人が驚いて男性の方を見る。四人の言葉から分かる通り、この男性は幸人たちの父であり、白龍王国の現皇太子、皇龍裕人(こうりゅうひろと)である。


「あ、あのですね、これはその、なんというか、恭人がけしかけてきたからであって……」

「そうそう、恭人だ。恭人が悪いんです、父上!」

「ちょっ、俺のせいにすんな! 熱くなってたのはお前らの方だろ!」

 三人はそれぞれ言い訳をするが、


「ははっ、怒ってなんかいないさ。俺だって昔はお前らみたいだったからな。それにしても伯怜、ずいぶん面白い戦いぶりだったな」

 と、怒るどころかむしろ感心していた。

「向こうで何か型でも教わってきたのか? それとも自分で編み出したのか?」

 裕人は子たちの成長は身近で見てきたものの、伯怜の戦いぶりを久々に見たため、そちらに興味があるようだ。

「これは、その、守りの体制からすぐに攻撃に入るために自分で考えました」

 伯怜も親しいとはいえ、やや控えめに話す。

「まあそう固くなるな。お前はまだ俺の息子じゃないんだから」

「……」

 「まだ」という言葉が気になった伯怜だが、深く追及することはしないことにした。愛理がまたどうなるか分からないし。確認のため伯怜は愛理をちらっと見るが、愛理はきょとんとしている。言葉の意味を理解できなかったのだろうか。

「安心しろ伯怜。愛理だって弓の稽古、毎日欠かさずこなしていたんだから」

「……それはさぞかし頼もしく思います」

「ははっ。愛理、お前からも説明しとけ」




 愛理はただの恋する乙女ではない。龍族の娘、いや、王女として生まれたわけであるから、武芸の腕を磨いておくべきだというのが掟である。そこで愛理が選んだのは『弓術』だった。中学から始めたが、やはり生まれつきの才能というものか、腕はぐんぐんと伸びていき、高校に入ってからは全国大会で2年連続入賞という輝かしい記録がある、ということを伯怜は聞いた。それを聞いた伯怜は、

「すごいじゃないか愛理」

 と、愛理を褒める。

「そこまでじゃないよ。私だって伯怜に追いつきたかったし……」

 愛理も謙遜気味に答えるが、やはりうれしそうだ。その光景を見ていた裕人は、穏やかに微笑むのだった。




「改めてだが、2年間お疲れさん、伯怜。これからもよろしく頼むぞ」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 裕人の言葉には何か裏がありそうだったが、伯怜は構わずに深々と礼をして挨拶とした。

「さぁ、今日はもうお開きでいいんじゃないか? どうせまた学校で会えるんだ。その時に順を追って話すといい」

「はい」

 裕人さんの合図を聞いた一同は、きちんと裕人さんの方を見てそう返事をした。これにて伯怜の歓迎パーティーはお開きである。




「またね、伯怜」

「……多分またすぐに会うことになりそうだが……」

 伯怜の心配、というより不安をよそに、愛理は優しく微笑む。




 帰国してから3日、長く、そして濃い3日間がようやく終わる。


 筆者は剣道についてはサッパリです。と言うよりスポーツ全般がよく分かっていないような……。一番詳しいスポーツは相撲です。今後、相撲を基とした表現が登場するかもしれません。

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