1-10.『龍族』という宿命
「それにしてもお前、クラッカーの音で木刀構えるとか、どんだけビビってんだよ?」
「そうそう、普通だったら気付くだろ。あっちじゃどんな生活してたんだ?」
伯怜の入室時の行動に対して恭人と俊貴が突っ込む。
「うるせぇ。あんな環境で生活してたら、破裂音がしたらああなるわ!」
「それは、なんというか、すごい環境だったのね……」
伯怜の返答に葉月が反応する。
「……確かに命の危険があったことはあるが、俺は生きているからここにいるんだ。あと、好んで人を殺したりなんかしてないからな!」
「その言い方だとやむを得ず人を殺したように聞こえるけど……」
伯怜は過去を振り返り、思わず声を強くするが、それを聞いた俊貴はやや困惑してそう答えた。
「えっ、そんなに危ない目にあったの? 伯怜、本当に大丈夫だったの!?」
このやり取りを聞いていた愛理がとっさに割り込んで、伯怜の身に何が起こったかを問いただす。
「安心しろ、そこまで危険なことに頭を突っ込んだんじゃない。所詮は子どもの喧嘩みたいなものだ」
心配そうな表情をしている愛理に対して、伯怜は優しい口調で答え、愛理を安心させようとする。
「……相変わらず仲のいいこと」
伯怜と愛理のやり取りを見ていた彩乃と葉月は声をそろえてそう言った。
「まぁ、このことは学校でも聞かれると思うから、その時に話すとしよう」
そう言って、伯怜は話を打ち切った。
「言うのを忘れていたが、ここがどこだか分かってるよな?」
今まで沈黙を保っていた幸人が突然伯怜に語り掛ける。木刀を取り出した件についてだ。
「……悪い、つい反射的に」
伯怜も反省した態度で、幸人に謝罪する。
「……まあこの部屋ならいい。だけど、部屋の外だったらお前でも大騒動になってたかもしれないぞ」
「……今後は注意する。けど自己防衛のためであって、誰かに危害を加えるわけじゃなかったんだ。そこは勘弁してくれ」
なんというか、伯怜の歯切れが悪い。
それもそのはずである。ここは『城』の中。つまり王族が住んでいる場所である。愛理、幸人、恭人。この三人に共通する名字、『皇龍』。そう、皇龍とはこの国、白龍王国の代々続く王家の姓であり、この三人は現国王である皇龍明人の孫、更に言うと現皇太子である皇龍裕人の子どもである。
つまり、三人は白龍王国の王子と王女と、王族の身分ということになる。ちなみに、この三人は三つ子であり、上から幸人、愛理、恭人という順である。三人が生まれた際は三つ子フィーバーなんかが国内で大流行したが、そう簡単に三つ子が生まれるわけではないため、三人は国民の注目を相当浴びることとなった。
「だが、俺たちだって友人という理由だけでここに入れるわけじゃないんだ」
伯怜は突然、声を上げる。
「俺たちは『龍族』。この国の未来を担う宿命があるんだ!」
伯怜のこの言葉を聞いた全員は、少々驚いた表情をしている。
「お前、もうそんなこと考えてるんかよ」
「私は、ちょっと関係ないかもだけど、ね」
「……」
恭人は伯怜の顔を見て驚いていたが、彩乃はうまくごまかした。一方で、幸人、愛理、俊貴、葉月は顔を背けて黙り込んでしまった。
『龍族』
それはこの国の成り立ちから説明しなければならない。まだこの国が混沌とした戦乱の時代に、現れた一人の人物がいる。その名は皇龍白人。彼は数多く存在した軍閥の一人だったが、神の啓示と龍の加護を得て、大規模な軍をおこした。その際、四人の仲間を集め、皇龍白人は四人に対してそれぞれ『龍』の名を名乗る資格を与え、それぞれ軍の指揮を執らせ、天下統一を成し遂げたのである。
天下統一後、皇龍白人は自らを『白帝』と名乗り、国名も『白龍帝国』とした。白帝は国家の様々な制度を制定するにあたっても、この四人の知恵と力を結集し、現在の国家の礎を築いた。
白帝は没するにあたって、皇帝制を廃止して国王制にするようにと託し、四人もそれに従った。白帝没後、皇太子は皇帝ではなく国王となり、国名も『白龍王国』に改名された。そして紆余曲折有り、現在に至るのである。この辺はまた学校で習うことなので、今はここで筆を止めよう。
さて、重要なのは皇龍白人に従った四人である。四人は皇龍白人と同様に龍の加護を受けた身で、軍事面で絶大な権力を握った。何故龍族と呼ばれるようになったかというと、皇龍白人が四人に龍の名を名乗らせた際に四人それぞれがファーストネームに『龍』という字を使ったからだ。その後も、龍の字は使われなかったが血統は現在まで続いており、現在でも変わらず、姫宮本家で名前が挙がった『白帝軍』において絶大な権力を持っている。
それぞれの家について見ていこう。
『姫宮家』
本家でも多少説明したが、開祖の名は『姫宮天龍』。代々男性が家督を継いでおり、現在でも男系を維持している。遺伝的に髪の色が銀色なのが特徴である。
『高臣家』
開祖の名は『高臣輝龍』。女性が家督を継いだことがあったが、一時的な措置であり、男系を維持している。遺伝的に髪の色が金色なのが特徴的である。
『千条家』
開祖の名は『千条封龍』。女系を容認しており、女系で血を繋いだことがあったが、基本は男性が家督を継ぐ。遺伝的に髪の色が茶色なのが特徴的である。
『藤原家』
開祖の名は『藤原彩龍』。長子が家督を継ぐという方針であり、女性当主や女系が続いた時期がある。遺伝的に髪の色が赤色なのが特徴的である。
これら四つの氏族に加え、王族である『皇龍家』を含めた五つの氏族が、現在では龍族と呼ばれている。
はっきり言ってしまえば、龍族は特権階級である。それ故、優遇される身分であるが、同時に多くの宿命を背負っているのである。さらに言うと、龍族は龍の加護により特別な力を先天的に持っており、軍事、それも戦闘時において絶大な力を発揮することができる。しかし、伯怜たちはまだ子ども、この力を使うことができるようになるにはまだ先の話である。
少々複雑な話が続いたが、要は伯怜たちは龍族という選ばれた一族の元に生まれた身である。現在の家督は祖父たちの世代が担っているが、将来的には伯怜たちは、例外はいるが家督を継ぐ身なのである。具体的に言うと、伯怜、幸人、俊貴、そして葉月は家督を継ぐ身である。彩乃に関しては、弟の秀悟がいるため、家督を継ぐ身ではない。
特に幸人は、将来的には国王となる。一方の愛理と恭人はそこからあふれた存在である。愛理の将来は既に決まっているかもしれないが、恭人は王位に興味が無いようだ。
「……そうだな、まだ高校生だが、これからのことも考えておかないと」
重い雰囲気になった場の空気を、幸人が言葉を発して雰囲気をリセットしようとした。
「そうだよな、今する話じゃなかった。悪い……」
それを聞いた伯怜が自らの発言の内容を謝罪した。
難しい話が続いたが、これでパーティーが終わったわけではない。歓迎パーティーはまだまだ続く。
国の成り立ちや、龍族を含めた身分制度は、後に詳しく説明します。とにかく、彼らはある意味選ばれた人間である、ということです。まずはこの五つの姓を覚えていただければありがたいです。