第8話 KRASK! 玲VS隼人
8話は、6話と7話の続きです。
なので先にその二つを読み終えてから、8話に来ることを推奨します。
前々回と前回のあらすじ
帰宅途中だった里実は赤髪の青年「村上隼人」と出会ったが、その人は玲の古くからの知り合いで同じく「神」であった。無事に彼と打ち解けることができた矢先、エクレアを巡って玲と隼人が対立。クラスクというゲームで勝敗を決めることを提案し、隼人がそれを承認。勝つのは一体どっちだ!?
では、続きをどうぞ。
里実 玲の自宅にて
「これが里実ちゃんがこの間買った『クラスク』か。ホッケーみたいな感じなんだよね?」
「あんたら、これで勝負する気?」
「そうよ」
「受けてたとう」
(な、なんか始まった!)
「クラスク」はホッケーの要領で遊ぶゲームなんだけど、違うところが何個かある。例えば(検索してもらった方が速いと思うけど)、
・台の上にはスティックとボールのほかに、小さくて白い磁石が境界線を引くように置かれている
・自分で動かすスティックが半分に割れており、磁力でくっつく(つまりスティック自体も磁石)。クラスクの台を磁力で挟んで台の下から下半分のスティックを動かす。そのため自分の手が邪魔でボールが見えないといった事態が起こらない。
・得点の獲得パターンが4つある。
・普通に「ボールが相手のゴールに入った場合」は自分の得点
・「白い磁石が相手のスティックに2個(3個の場合もある)くっつく」と自分の得点
・「自分のスティックが自分のゴールに操作ミスなどで入っちゃった場合」はオウンゴールとなり相手の得点、ボールが自分のゴールに入った場合も同様
・「自分の上半分のスティックが過度な使用で明後日の方向に飛んで操作不能となった場合」は相手の得点
思いつく限りはこんなところだ。文面だけで見ると結構複雑で難しそうな印象を受けそうだが実際は予想より5倍楽しくて白熱するので、暇な時に動画を見るか実物を買ってみてほしい。
「なるほどなるほど」
隼人くんはルール説明書を読んでいた。当然彼は初めてだけど、玲や私はまだ3回くらいしかやってない。なので初心者同然だ。
「大体わかった。やるか」
「さあ、始めるわよ。…どっちからサーブだっけ」
「クラスクは、最初のサーブは年下から。…そういやあんたたちいくつ?」
「玲と同い年だな。神年齢なら」
「うん。具体的な数字はわかんないけど億は超えてると思う」
億単位とか途方もねえな。
「あーじゃあ、表向き玲が17で隼人くんが20だから、玲から始めたら?」
「そうしよ」
「6点先取した者が、エクレアを食す権利を得ることができる。なお、自スティックには2個の白磁石がついたら相手の得点になるものとする」
玲がボールを受け取りコーナーにてサーブの準備をする。それを見て隼人くんが身構える。稲妻の如きパワーを持つ玲、未知の力を秘めるルーキー隼人。
エクレアをかけた聖戦、勝利を手にするのはどちらだ?!
「始め!」
ガッッ! カコンッ!
カコン!
「っ!?」
「…え?!」
合図をした直後にはすでに━━隼人くん側のゴールにボールがあった。ボールが穴の中でクルクルと回っているのは、勢いが余ったからだと一目見てわかった。玲は優位に立てたことを喜び、隼人にニヤリと笑みを向ける。
「先制点、取ったり」
「クラスクってこんなゲームなのか!?」
「私相手にこんなことしてこなかったような…」
隼人くんが私に聞いてきたが断じて違う。バトルじみたゲームじゃないはず。
「3回くらい里実とやっててボロ負けだったからね。そこで気づいたのよ。サービスエースを決めてしまえばいいと。その練習の実験台になってもらうわよ、隼人」
「俺初心者だよ?!容赦なさすぎ!」
サービスエース…テニス、卓球などで相手が返せない良いサーブ、それで得点を取ることを言うらしい。
(次に私とやったらあれやられるのか…あの子ガチってるじゃんヤバい)
不安である。
玲が早々に1点。点を取られたので次は隼人くんがサーブ。彼は玲のゴールをねらい定めようと、コーナーにボールを置き構える。先制点を取られた彼、早めに取り返したいところだ。
「あっ!」 スカッ
隼人くんも玲を真似して高速サーブを打とうとしたが、スティックが空振りした。その勢いで起こったささやかな風でボールがほんの少しだけ動いただけだ。
「私の技を一発で盗もうなど、マホイップくらい甘いわ」
「それ食べられないでしょ」
ちなみに私はミルキィレモン派。
「ラリーに慣れるしかないか…」 カッ
「トリックルーム使った方がいいくらい遅い玉ね」 カッッ!
「っ!あぶね!」 カッ
ギリギリでボールを止める隼人くんが劣勢になってはいるが、すぐにラリーの形になっている。私と玲が最初にやった時はまともに返球出来ずぽんぽん点が入って試合時間が短かったのに。玲は初心者から脱したからだとして、隼人くんは学習能力が高そう。あるいは動体視力が良いのか。
「隙あり!」 ガッ!
「しまっ」
隼人くんとは反対側のコーナーを狙われてゴールへ。これで玲が2点。点数状況を示す互いのディスクが段々と離れていく。x軸上を点が動くように。
「このまま負けていられないな。どうしよ」
「スピードスワップでも使うかい?」
「そんなもん必要ないな」 カッ
珍しく玲が敵に見える。最初はなんか人を小馬鹿にするけど時間が経っていくうちに主人公を認めるようになって共闘とかするツンデレ系の。
隼人くんの打ったボールが小さい磁石をゆっくりと移動させた。
「里実ー勝手にキャラ作らないでねー」
「あ、すんません」
「あっ白いやつが!」 カチャッ
油断していた玲は、自スティックの近くに白磁石があったことに気付くのが遅れ、弾けるような音を出して1個くっ付いてしまった。あ、今のは私のせいじゃないです。私に読心術やってた玲のせいだと思います。
隼人くんの口角が上がった。チャンスだと思ったんだろう。
「よし、磁石飛ばしだ!」 カッ
「それは偶然だろ!く、よりによって嫌な位置に…」 カッ
「いけっ!」 カッッ
「あー!」 カコン
「やりぃ!」
玲のゴールの近くにもう一個の磁石があり、ボールの突撃を阻止するのを躊躇ったようだ。ボールが入らないように穴に近づくと、もう一個がスティックにくっ付いてアウトになるから気持ちはわかる。
隼人くんの初得点。この1点は玲には多少なりとも響くだろうか。
「1点も取らせずに完封しようと思ったのにぃ」
玲は悔しそうな顔をする。負けが決まったわけじゃないのにって?そういう顔はするんですよ。ゲーム好きな人は。
「お前はまだそこまでに至ってないのがわかった。安心したぜ。…チャンスが出来たからな」
「もう点を取らせん!」 ガッ
勝利の女神はどちらに微笑むのか…!
…ちょっと端折って数分後。5-3で玲がリーチ。しかし、隼人くんが追い上げを見せており、彼女は2回連続で点を取られていた。
「隼人、思った以上に粘ったな。だがこれで終わりだ」 カッッ
「まだまだ食らいつくぞ。同点に持ち込むまではな。あ、ところでこのゲームってデュースあるの?」 カッ
「ないよ」
「ここで絶対に取らせるわけにはいかない!」
流れは隼人くんに傾きかけている。玲としてはここで勝利したい。彼に点を許したら止められなくなるだろう。
「くらえ!」 ガッ!
「なんの!」 コッ!
「これなら!」 カッッ!
「磁石に当たってないぞ!」 カッッ!
スタジアム内の両者は思いっきり熱狂。クラスクって最初は静かにやるのに、途中から白熱して一回一回のレシーブで叫ぶようになるんだよね。
「あ、やべ!ボールが玲のコートに!」 スカッ
隼人くんがまたしても空振り。ボールが玲の元へ。そして彼女はキメる。
「ショットオォォォォ!!」 ガッッ!
玲が放った一撃はコート中を駆け巡り壁にぶつかりながら隼人くんを翻弄させ、ピッタリと彼側のゴールに収まった。これは…
「6点先取により、玲の勝利!!」
「っしゃあい!」
WINNER IS “REI”!!
途中で調子を崩すも危なげなく勝ちました!
玲が拳を握りしめてガッツポーズ。スタジアム内の張り詰めた空間から解放され、絨毯に倒れ込んだ。玲選手にインタビューです!
「勝ったあ…。わりと大変だった…(汗)です。次はボールを影分身させるショットを磨いて反撃の隙を与えないようにしたいです」
「玲よ、あなたはこれで十分です。あなたがきっかけでクラスク人口が増えたとしても、人間卒業前提のスポーツにならないことを願いますよ」
「負けちゃったかぁ」
とつぶやく彼の表情からは、悔しさが見られない。インタビューです!
「楽しかった?」
「思ってた以上に楽しかった」
「だろうね。あんたすごいよ初めてでここまでやるって」
神だからハイスペックなのかもしれないけど。
「次は里実ちゃんと勝負だからね!」
「それは後で」
「なるほど、今の俺では里実ちゃんに完封されてしまうという警告か。なら練習するよ。ボールと白の磁石を使って惑わせてオウンゴールさせるテクニックを習得しようと思います」
「しなくていいしなくていい。私が負けるから」
世界大会でもみてみなきゃわからんが、多分クラスクはどこぞの超次元サッカーやテニヌと違ってそんなゲームじゃない。
「勝利者の玲選手には、エクレアを贈呈です!(途中忘れていた)」
「わーい!…と思ったんだけどさ、」
玲の手が止まった。
「どうしました?」
「まさかいらない?」
「違うゲームしたい気分だからさ」
「うん。」
「これ食べてゲームする!」
「結局食うんかい!」
玲はエクレアを取って食べた。
「試合後のエクレアは美味しいー♪」
「たぶんそれ言った偉人はいない」
「玲、まだ勝負は終わってないぞ」
「んー?」
「今度はスマブラだ!スマブラで決着をつけるぞ!」
玲は軽くため息をついて、
「出たよ、負けると今度は自分が勝てる勝負に持ち込もうとするんだ」
「負けず嫌いなんだね」
なんか人間臭い一面だな。
「か、勝ち逃げは許さないからな!」
「良いだろう、私は機嫌がいいからね。快く相手してやる」
「玲さん余裕すけど」
「うぅ、なんか負けた気分」
今日のやりとり見ていて思ったけど、2人は友達だけどライバルなんだろうな。
「里実ちゃんもやろうよスマブラ」
「え、私そんな強くないよ」
「別に良いじゃないか、人数いた方が楽しいって」
「里実、2人で隼人を倒しちゃおっか」
「いいねぇ」
「待って、2対1じゃ流石に勝てないからヤメテ!」
今日初対面だった人とここまで話せるようになるとは思わなかった。隼人くんと玲のおかげで賑やかな日をおくれたのだ。そのことに感謝しながら、私はスマブラに参戦した。
ここで一旦、隼人中心の回は終了です。
が、隼人はこれからもレギュラーキャラとして登場させていく予定です。