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眼鏡と神様の平凡な生活  作者: 胃痛小僧
7/17

第7話 風のコンタクト 後編

この話は、前回の6話の続きとなっております。

6話を読んでから今回を読むことを推奨します。

前回のあらすじ

帰宅途中だった里実の前に、とある芸人を彷彿させるような赤髪の男「村上隼人(むらかみはやと)」が現れた。普段出くわすことがなく慣れないタイプの人物に驚きつつも、無難なトークをすることで警戒心が薄れた。

そこに玲が稲妻の如く乱入。玲が言うに隼人とは旧知の仲だそうで、なんと彼は「風雨を司る神」とのこと。


風と雷…かの俵屋宗達が描いた絵の二神が揃いし時、世界はどうなってしまうのか?そして、里実の運命は?!


…なんて展開にもなりません。登場人物が1人増えただけです。


では、続きをどうぞ。



里実 玲の自宅にて



風神の村上さんと友達になり冷蔵庫にエクレアなどを入れた私は、玲の家に赴いて3人でお喋りしていた。まあ、私はあまり喋らないのだけど。


テーブルの席に私と玲は向かい合い、彼女の隣に村上さんが座っている。この2人は親友なのかな、昨日も会ったみたいに話してる。


「里実ちゃん、俺のことは『隼人』呼びでいいし、タメ口で話してくれた方がありがたいな」

「え、いやそうは言ってもあなただって神じゃないですか。それに人間の姿でいても年上みたいですし」


彼は短期大学に通っている20歳の学生で、都市郊外に住んでいるとか。


「いいのいいの、3歳しか変わんないじゃん。それに玲には普通に喋ってて俺には敬語って、なんか話しにくくて寂しいからさー」

「…なら、普通に喋りますよ、村上さん」

「…」

「わかったよ、隼人くん」

「うんうん」


半分冗談で敬語を突っ張ってみたが真顔になってしまったのですぐにタメ口にした。そしたらすぐに笑顔。こちらも目まぐるしく変化する表情を見ていて楽しいタイプだ。


「俺らマブダチだな!」

「その言葉古くない?」

「え、ほんと?」


と、玲が意外だというふうに聞いてきた。


「あんまり聞かないよ」


むしろ死語なんじゃないかな。というか私が小さい時もあんまり聞かなかった印象あるけど。なんで私が知っているかは…まあ、記憶の片隅にあったんだ。気にするな。


「じゃあ今はなんて言うの?ズッ友?」

「それはもっと言わないと思う」

「マジで?」


今度は隼人くんが驚いている。…言葉の変化なんて神からしたら一瞬なんだろうから知らなくてもしょうがない。


「たしか今は…なんて言うのんだろうね」

「知らないのかい」


玲が軽く私の腕を叩いた。うん、流行に疎いから知らないんだ。


「チョー友達…ベスト…あ、BFFじゃね?」


隼人くんが正解に近そうな言葉を出した。それ聞いたことあるわ。多分最近の言葉。でもなんの略だっけ?


「ベストフレンド…なんだっけ」

「foreverか」


玲、めっちゃ発音良く言ったなw


「そうそれ、思い出せた。思い出さなきゃ俺と里実ちゃんとの交流は始まらないってもんよ!」

「だめ、里実は渡さないよ」


玲が立ち上がって近づき、私の両肩に両手を乗せた。そして私の胸の前に腕を伸ばして手を組んだ。側から見ればぬいぐるみを抱いている時のそれである。


「だめだよ、俺は里実ちゃんとこれから一緒ゲームするんだから」

「やだ。私が離さない。この子は私の大切なおもちゃ…あ」

「今『おもちゃ』つったな?」

「あー聞き逃したことにしてくれるかな??本心じゃないのよ」

「別に気にしないけど」


他人にも言われたことあるしな。もちろん冗談の範疇でね。


「おもちゃ…そんなひどいことを言っていたのか!」

「いや別にひどくないよ」

「だったら俺は里実ちゃんを妹にする!」

「実の兄がいるんで」

「それは把握済み、俺はもう1人のお兄ちゃんになろうじゃないか」

「兄はこれ以上いらないんで」

「鬱陶しいから?」

「そうっすね」


よく兄妹愛をテーマにした仲良しイチャイチャ漫画やイラストがあるが、あれはほとんど、妹や兄がいない人が勝手に作った幻想だと思う。実際の兄妹なんて逆よ逆、互いが邪魔だったりもするよ(家庭によって違います)。


「ところで隼人くんさ」

「なんでしょう」

「さっき外にいたけどさ、あれ寝てたの?」


延々と「私の奪い合いお兄ちゃんお姉ちゃん宣言ごっこ」してても進展なさそうなのでね、話を変えさせてもらうよ。


「うん、里実ちゃんが来るまで壁に寄っかかって昼寝してたよ。この辺静かでいい昼寝ポイントだよね」

「本当に立ったまま寝てたんだ…(閑静な場所なのはわかる。どこでも寝れるタイプなのかな。しかも立ったまま)」

「どこでも眠れるってすごい特技と思ってるみたいだね。でも立って寝るのがデフォってわけじゃないよ」


ん、今、隼人くんに心を読まれた?


「玲と同じであんたも心読めるの?」

「そうだよ。ま、このまま直接喋り続けてくれる方が嬉しいのは玲と同じ」


やっぱり神様勢はこういう特殊能力を当たり前のように使えるっぽいな。特権だな。


「りょーかいっす」


隼人くん、人と喋るのが結構好きそう。玲は優しい雰囲気があってみんなに頼られていて(最近は私には甘えてたりちょっかいが増えたが)、彼は元からこんなふうに社交的だったというような感じがする。


彼が真の陽キャなのかも。陰気くさい私を自分のコミュニティに引き込もうとしている。真の陽キャは、仲間外れにしないものだ。まさに太陽。いや太陽神じゃないし風の神だけど。


「それとさ、髪って染めてるよね?」

「染めてるよ。正体バレを予防するために手を出したことだけど、やったら思いの外良いなって思ったんだ」


ガラス越しに入る日の光が隼人くんの紅の髪をおしゃれに輝かせている。改めて近くで見るとアイドル級だな。控えめに言ってすげぇ。


「正体バレって言ったけど、すぐに私にバラしたよね。最初からそうするつもりだったとか?」

「そうだね、玲が自分で明かしたなら俺も言おうかと」


玲が自分で正体を明かしたのは、あの雷雨の朝だ。今でも地を打ちつける雨、天照らす雷光と空気を破る轟きを昨日のように思い出すことができる。


「たしかに大事なことを言うのにあっさりだった。少しこの辺りの天気を荒らした割には」

「それって、玲が雷雨を起こして高校を休みにさせた時のことだよね?」

「そうそう」


隼人くんは「あー」と思い出したように頷いた。どうやらこの事件を知ってるっぽい。まあ少しニュースにはなったらしいからな。そんで彼は笑った。


「あははっ、あの時かあ。そんときね、あいつ何やってんだと思ったよ。止めようかと考えたんだけど、広範囲で雨降らせてる割には被害が抑えられてたからいいやってなったんだ」

「これこそ雷神(わたし)がなせる業よ」


ドヤ顔してうんうんと首を縦に振る。考えようによっては天災でもあるから状況によっちゃ、その顔はあんまりしない方が良いと思うけどね。


「何?私が天才?」

「ああ『てんさい』だね、二つの意味で」

「里実ちゃん、ここだけの話玲があそこまで大胆なことをするのは珍しいんだよ」

「へえ、意外だ」


ここだけの話と言って玲に聞こえるように話してるじゃん。


「あ、こら言わないでよ」

「それくらいは良いだろー」

「それより3時だからみんなでおやつ食べよ」


言ってほしくないことだったのかそうじゃないのか、玲は話を切り上げた。冷蔵庫から何かを取り出し、皿の上に乗せて持ってきてくれた。それは7個のエクレア…


「ってそれ私が買ったやつじゃん!」

「1人で7個食べるなんて多いじゃないの」

「一気に全部食べるわけないじゃん。また変な能力でエクレアを移動させたでしょ」


物をワープさせる能力…テレポート?アスポート?っていうのかわからないけど。


「みんなで食べた方が楽しいもんな。というわけで俺もいただいて良いかな?」

「わかってるじゃないか隼人。」

「勝手に進めるな」


苦情もむなしく、3人で食べることになりました。


ケーキやシュークリームなどの甘いものは普段そんなに食べないが、たまに手を出したくなるのがエクレア。チョコの食感と生クリームの甘さが最高で、嫌なことや辛いことを甘い優しさの魔法で忘れさせる逸品だ。


玲もエクレアを美味しそうに食べている。エクレアの名前はフランス語の「エクレール」、日本語で「稲妻」から来ているのだが、彼女がエクレア好きなのはたぶん偶然だろう。


さっきまでの騒がしさが嘘のように黙々と食べ進める三人。そして、エクレアが残り1個となったとき、


「あ」

「ん」


玲と隼人くんが同時にエクレアに手を伸ばしたのだ。これから何が始まるかは…想像に難くない。


「隼人、これは私のよ」

「いや、俺だ」

「だめよ、先に手がいったのは私だもん」

「いいやちがう。俺が先に見つけたんだ。だから俺が食べるんだよ」

「私の!」

「俺の!」


食べ物をめぐる争いが始まった。該当者は玲、隼人くんの2人。あ、私はもうエクレアは充分なんで参加しないよ。傍観します。


わりと幼稚な喧嘩…ゲフンゲフン、もしこの人たちが暴れ出したら…恐竜時代にタイムスリップしてESM!どころじゃ済まないだろう。災厄なんて面倒とかそういう次元じゃないのですぐに解決案を言ってみる。


「あのお二方、じゃんけんなさったら?」

「「すぐに終わってつまんないから却下!」」

「すぐ終わって良いだろが長引かせたいのかお前ら」

「じゃあ隼人、これで勝負しましょうか」

「これ…?あ、前に話してたあれか」

「テレパシー?使ってないで私にもわかるように説明してくださいよ」

「里実、借りるわよ」

「借りる…?」


玲が空中に手をかざすと、テーブルの上にテーブルゲーム「クラスク」が光を帯びて出現した。


「ちょっと待て!はたまた私のじゃんか!あんたは私のものを私物化しようとしてない??」

「滅相もない!」


妙に清々しい顔で大袈裟に言うな。なんか煽られてる感じがしてムカつくからー。


「里実んちには楽しくて面白いおもちゃがたくさんあるから、そのうちの一つを召喚しただけよ」

「これが里実ちゃんがこの間買った『クラスク』か。ホッケーみたいな感じなんだよね?」

「あんたら、これで勝負する気?」

「そうよ」

「受けてたとう」

(なんか始まった!)


エクレアをきっかけに勃発した戦争。もはや話し合いで決着をつけるのは不可能だ。クラスクの勝利は誰の手に?!


というわけでもうちょっとだけ話は長引くよ。

もう1話だけ続きます。

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