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眼鏡と神様の平凡な生活  作者: 胃痛小僧
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第6話 風のコンタクト 前編

いきなりですが新キャラ登場です。が、あっさりしてます。

里実 近所の住宅街にて



私の家はこの閑静な住宅街の中にある。この辺は駅に近い割には結構静かだ。車はあまり通らないし、外で聞こえるとしたら風の音くらいか。


静かなのは良いけど、暑いし眩しいからさっさと帰るに限るな…


暑い中なぜ外に出ていたのかと言うと用事があったから。美容院で前髪カットと後ろの毛を整えてもらった。


最近ゲームする時に伸びていた前髪が邪魔だったし、毛の量が多くてはねることもあったから面倒だったのだ。自分で切ったこともあったが、必ずめちゃくちゃになってしまうので家から出なければならなかった。


ただ、この茹で上がるような暑さと日の眩しさで無防備に外に出ると倒れて遭難しそうになるので、日傘を持ってきた。日焼けを気にしているんじゃない。眩しいのが苦手なんだ。


私には似合わないゴシックで大人っぽいタイプの黒い日傘、もちろん元々私のじゃなくて家にあったのを持ってきた。古そうだから多分祖母のだったのだろう。許可なく人のを勝手に持ち出すなってのはわかってるが、ここまで気温や日差しが強いとは外に出るまでわからなかったんだ。だからとっさに。


とりま早く帰りたい。理由の大半は「涼しい部屋に引きこもりたい」で、あとの残りは…


(早く冷蔵庫に入れなきゃ)


7個入りのエクレアは私が右手に持つビニール袋の中、ガリガリ君と共に入っている。別にコンビニから近いのでそこまで急がなくても大丈夫だとは思うが、まあ一応ね。


ヒュオォォ…


「う、今日は風がちょっと強いなあ」


正面から風が吹いて面積の大きい日傘と整えてもらったばかりの前髪に当たる。それにしても前髪、なんだか切りすぎた感が否めない。


ゲームするのに邪魔だから、しばらく生えてきても大丈夫なようにといつもより短く注文したけど、眉毛より上になっちゃったのはこれはこれで恥ずかしい。できれば1週間くらいこの姿で人に会いたくないのだが…母さんや玲には確実に会いそうだ。


ここを右に曲がればすぐ私の家だ…ん?ん?


(え、待って、誰かいる?)


私は電柱に身を隠して日傘を閉じ、壁にもたれかかっている人物を観察する。道のど真ん中に立ったままなのは、露骨にガン見してるって感じでなんかイヤ。


背の高い男性だ。髪が赤い、染めてるのか。耳にピアスのようなものをつけてて、迷彩柄の半袖ポロシャツにジーパン、黒いリュックを前にかけている。この出立ち…


(なんか見た目がチャラくないかこいつ?!)


ヒキニートが普段見ないタイプをこの辺で見かけることになるとは。逆に興味が…湧いてはこないが新鮮だったのでもうちょっと見てみることにした。


全体ばかり見ていたから顔をよく見よう。え、よく見たらかっこよくない?めっちゃイケメンじゃん。目鼻立ちの整った顔…1人でもアイドルグループにいたら人気出るでしょ。高身長にスタイル良きに顔面偏差値の高さ…二次元男性派の私でも、これは逸材と思えるわ。


ちょっと気になることを除けばだけど…あの人さっきから壁に寄っかかったまま目を閉じていて動かないんだよね。当然スマホをいじっているわけでもないし。


まさか寝てる?え、立ったまま寝る人って本当にいるの?仮にそうだとして寝たままだったら普通倒れない?あ、カッコつけてるのか?


(ま、まあいいや…でもどうしたものか…あの赤髪の男、家のすぐ近くにいるんだよな)


家に着くにはあの青年の前を通らなければならない。起こさないように静かに歩けば良い話ってのはわかってる。ただアイスが溶けるから早足で帰りたい。でもそうすると足音立てちゃうから起こしちゃうかも…。


いや、そんなん考えてたら溶ける。普通に横歩いて突破だ突破!


ビュウウッ


「うお!?」


電柱から身を出したらいきなり突風が襲ってきた。天気予報で地府テレビのお姉さんが突風がどうたら言ってた気がするな。ただこれ以上風はやめてほしいかな。切りすぎた前髪+ボサボサになる髪型はますます見られたくないからね。


「ねぇ、君が里実ちゃんかな?」

「え?」


話しかけられた。気づけば目の前に、あの赤髪の青年が立っていた。


(え、ええぇぇ!?起きてたの!?てかあれ、なんで私の名前知ってんの?!)


驚きと焦りが渋滞して声が出ない。側から見ると口をパクパク動かしている鯉さん状態だ。


(て、てか近くないですかね?!)


彼の赤髪が日に当たってさらに赤く見える。近くに立たれると私と男性の身長の差がよくわかる。この人身長180cmくらいありそう。


挙動不審になっている私を見て、青年はすぐにこう言った。


「俺さ、玲の知り合いなんだ」

「え…玲って…」

「うん、里田玲の友達」

「あ、そ、そうなんですか…」


男性は安心させるようにニコッと笑う。その笑みがなんとなく緊張をほぐしてくれた。玲に似た笑い方だなあ。


この男は玲の友人らしい。でも彼女からこんな見た目の知り合いがいるなんて聞いたことないし…いや、苗字も知っている辺りやっぱ関係あるのか。


落ち着いてきたところで普通に喋ってみる。


「それで、この辺りに何か用事があったのですか?」

「あのね、君と友達になりに来たんだ」

「ん?え!?」


玲関連ではない…だと。てかいきなり友達になりたいって何?


「私と…ですか?」

「驚いた?でも本当だよー」


慌てふためく私を見ていたずらっぽく笑う彼。なんだ、これが大人の余裕ってものなのか…?


「玲がいつも君のことを楽しそうに話すから、俺も一度話してみたかったんだ」

「そ、そうでございましたか(玲と目の前の人はどんな関係なの?)」

「そうだ。自己紹介がまだだったね。俺は村上隼人(むらかみはやと)って言うんだ」

「あ、岡本里実と申します」

「よろしくな、里実ちゃん」


村上さんが私と握手しようと手を差し出してきた。私がその手を握ると、ほんの少し強く握り返してくれた。にしても、大人の男性の手ってやっぱ大きいな…ちょっとビビる。


私は握手していた右手を離し、村上さんにお辞儀をした。見た目的に私より年上っぽいので敬語は必須だろう。


「よろしくお願いします」

「そんなに硬くならなくて良いよ。そうそう、君に言っておくことが━━━」

「ちょっと待ちやがれゴルアァァァ!!」


メガホンを使ったかのような大きく響く声、と同時に


「里実から離れろ飛び膝蹴りぃ!」


と、村上さんに神速で飛びかかるのは玲の姿。


「うわっ!ちょ、ちょっと待てって!」

「雷鳴蹴り!」

「ぐはっっ!」


次の瞬間には、玲の飛び膝蹴りを間一髪で回避するも立て続けに回転蹴りを決められうずくまった村上さんがいた。結構深いところに入ったらしい。痛そう。


「ぐっふ」

「ちょ…玲なんで」

「なぜ里実と話している?私が良いって言うまで話しかけるなって言ったよな?」

「ひっ」


玲が…男口調で話してる…しかもいつもより低めの声で。え、これ怒ってる?めっちゃ怒ってる?…怖くね?


意外とすぐに村上さんは起き上がった。


「ぐふ、玲、口調、里実ちゃんが」

「あ。あーごめんね里実!これは癖なの!たまにこういうことになっちゃうの!だから怒ってないのよ!別にそんなに怒ってないのよ!だからそんな怯えたハムスターみたいな目しないで!ね!ね!」


玲がいつもの高い声に戻って高速早口謝罪を行う。勢いありすぎて今度はちょっと…引いてしまうが。


「あ、あー…大丈夫。それよりも、いきなり飛び蹴りって何事?」

「隼人のことは後できちんと私が連れてきて里実に紹介するつもりだったのに、なに勝手に接触してるって感じよ!」


玲と村上さんが知り合いなのは事実っぽいな。飛び蹴りかましてはいるけど、玲が紹介するつもりだったなら仲はそんなに悪くは…なさ、そう?


「だってさ、いきなり知らない人から話しかけられるのと、これこれこういう人がいるよっていう事前情報を知った状態で話すのとではどっちがいいか。無論里実は後者でしょ?なのにあいつ突撃しちゃって」

「あー、あれは普通にびっくりしたけど、なんとなくそっち系のヤバい人じゃなさそうかなって。だから大丈夫」

「確かに隼人は嫌なやつじゃなーいけーどさー」


と、手をぶらんぶらんさせながら段々と力が抜けた感じで喋る。しかしちょっとだけ真面目な顔になってボソボソと何か独り言を言う。


「でも、里実が許容するのは珍しい。隼人だからか、それともやっぱり里実に…」

「玲さーん?」

「おっと、失礼」

「玲ー、俺はただこの子とただ喋りたかっただけなんだぜ?」


村上さんはちょっと拗ねる。もう痛み引いたのか。


「蹴られたことに文句はないんですね」

「確かに俺が悪いから文句はないけど結構痛い」

「玲は村上さんにタメ口だね。幼馴染みたいなもんなの?」


神に幼馴染ってのも変な気がするが。そう聞くと玲ではなく村上さんの方が不敵な笑みを浮かべた。


「はっはっは、よくぞ聞いてくれた。俺の正体を教えてあげるよ。俺はな━━━」

「隼人は風神だ」

「ずいぶんあっさり!」

「勝手に言うなー!」


村上さんこと風神と、玲こと雷神がなんか言い合ってる。仲良いなお前ら。


風の神…か。あ、これペアになってますね。風神雷神図屏風のあれ。ゲームでもそこそこみる組み合わせ。というかそこまで驚いてない自分が怖い。なんでだ?


・玲の幼馴染

・蹴られても平気そうにしてる

・顔面偏差値


あー、これなんとなく自分でも気づいてたかもな。


というかなんで神は美男美女なんだよ!くっそ羨ましい!そのまま人間なら勝ち組じゃん!神話の世界観由来の素材の奴等には勝てっこないってことかちくしょう…争うつもりもないが…


「里実里実、なに一人でイライラしてるの?」

「羨ましいんじゃよ!」

「えーと、玲からフライングカミングアウトがあったけど、俺は風を司る神様なんだ。そしてこんなふうに風を寄せることもできるよ」


彼が手を軽くあげると、どこからか涼しめな風が舞い込んできた。


「あ、ほんとだ」 


興奮や焦りや怒りを落ち着かせる効果、さわーっと吹いてくる穏やかな風だった。


「隼人には風や雨を起こしたり降らせる力があるの」

「雨って、玲とかぶってない?」

「まあ風雷コンビだし?」

「別にいいんじゃね?」

「適and当じゃん」


神の管轄とか規律とか色々ありそうなもんだと思ってたけど、意外とゆるいのか…?


「隼人ー、ところでこの後何する?」

「特に決めてない」

「じゃあまた私んち来る?」

「そうするわ」

「私はアイスとエクレアを冷蔵庫にしまうわ」


忘れていたわけじゃないけど、早くしまわないとそろそろやばい気がするからね。


「あ、じゃあそしたら里実も来てよ」

「いいの?村上さんが気にしなければ…」

「にこにこ」

「(うん、気にしなさそうだね)行くよ」

「やたー!」

「わーい!」


ユルい絵柄の漫画のキャラみたいにニコニコだったな。まだ私と話したそうにしているみたいだ。私も彼のことは色々気になるし、話してみようかな。


「私もあなたに聞きたいことがありますからね」

「なんでも聞いちゃってー」

「では一旦失礼!」


私は一度家に帰りアイスを冷凍スペース、エクレアを冷蔵スペースに入れた。あ、物が増えてる。母さんが仕事の合間に買い物行ってきてくれたみたい。仕事中で忙しいのに私の好きなもの買ってきてくれるの嬉しい。


この後は玲の家に向かった。彼との交流は、もうちょっと続くよ。

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