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眼鏡と神様の平凡な生活  作者: 胃痛小僧
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第3話 テスト返し&放課後の日常with玲

里実 学校の2-Fの教室にて



「テスト返すぞー」

「いきなり数IIとか勘弁してぇ」

「1時間目にそれやだー!」

「やだじゃない。返すぞ」

「無理ー、悪い点数見たくないー」

「勉強した成果が出てると良いな」

「それわかってて言ってるんですかぁぁ…」


担任にして数学担当の四谷(よつや)先生が淡々と女子たちの苦情を退けながら、大きな封筒からクラスの人数全員分の答案用紙を取り出した。


憂鬱なテスト返しの時間である。科目にもよるけど。


私は岡本なので結構早く呼ばれる。ドキドキする時間が短いっていうメリットらしきものはあるけど、悪い点数をいきなり突きつけられたときの絶望感もセットになることもある…気がする。


「岡本」

「はい」



「聞いてよさっちゃん、今回も赤点回避できたし点数上がった!」

「おお、良かったじゃん真理子」


数学の授業が終わった後、解答用紙を持ちながらぴょんぴょん跳ねて私に近づいてきた人物がいた。山崎真理子(やまざきまりこ)は簡単に言うとギャル系女子。明るい茶色に染めたポニーテールのパーマスタイル。


「さっちゃん今回も教えてくれてセンキュー!」

「いえいえ。ピザトースト…よろしくね?」

「あったりまえよ!」

「あぁ〜今回も赤点だったぁぁ〜…ど〜しよ〜…」


とため息を漏らし机に突っ伏してうなだれるのは、髪の毛をツーサイドアップにした女の子、旭莉奈(あさひりな)。彼女は数学が苦手でいつも赤点スレスレか赤点。ここ一応理系クラスなんだけどな。ちなみにいきなり数学勘弁してと言っていたのは彼女。


真理子は旭の肩をぽんぽんと叩く。


「玲にマンツーマンで教えてもらってそれはないでしょー」

「玲に申し訳ないと思わない?」


真理子に続いてそう言葉を浴びせたのは玲と同じくらい背が高く、ショートカットが似合っている子の加藤渚(かとうなぎさ)だ。


「補講と追試になっちゃった〜…」


落ち込む彼女に私と玲は励ます。


「どんまい」

「大丈夫だよ、赤点回避まであと2点だったじゃない」

「玲…」


加藤はちょっと他の子に厳しい。だから、玲の甘さと旭のダメさには目を瞑ることが難しい。


「ちょっとは莉奈を叱『りな』よ」

「私の名前をかけたダジャレ?今の」

「…そんなつもりはなかった」


実は前回の中間も、この人は玲に教えてもらったのに赤点取ってきたのだ。それでも玲は怒っていない…と思うけど、仏の顔も三度までという言葉があるように、いつまでも温厚な彼女ではないだろう。


あれ?たしか正しい言葉って「仏の顔も三度」だっけ。それで意味は確か3回までなら許してもらえるんだっけ?違う、実は2回までで3回目はアウトなんだったっけ。やばいド忘れした。


「正確には『仏の顔も三度』だね。『仏の顔も三度撫ずれば腹を立つ』って使ってたのよ」

「あああぁぁごめんなさい次は気をつけます許してつかぁさい…」

「あ、あ!ごめんね、そんなつもりはなかったのよ」


私の心の中の疑問に答えたみたいだが、それは旭に向けられた言葉になっちゃってるよ玲。


「みかんホイップあげるんで…」

「いやそれうちら一緒だから。同じ条件よ」


と、真理子が手を振る。


さっきから何を話しているのかを言おうか。


真理子、旭、加藤は学校で玲とよく話す人。この4人で真理子を中心とした陽キャグループが作られている。玲はグループの中で大人しい方ではあるもののハイスペ女子のため、発言力はかなり高い。


テスト週間でこの3人は玲と私の勉強の腕に頼り、私たち2人は教師役をしていた。その報酬が私にピザトースト、玲にみかんホイップのロールサンドだったという訳である。それぞれうちらの好きな食べ物。


一応補足しておく。私は真理子グループに属していない。玲と仲が良いからという感覚で絡まれたりするだけである。でもちゃんとお返し持ってきてくれるから…だけじゃなくて意外と優しいから問題はない。




里実 ベーカリーカフェ「fresh verdure」にて



放課後、私たち2人はパン屋の「fresh verdure」、略して「フレバー」に来ていた。


「やっぱり美味しい〜」

(私はこれ一択…!)


チーズとトマトソースの味とパン生地が合わさることによる美味さがふんだんに引き出されている。中毒性が高いので、ここに来た時はいつもこれを買ってしまうのだ。チーズ&トマトソース&パン、best much!!


私が食べているのはピザトースト。チーズがとろけてトマトソースと一体化してる姿が食欲をそそる。玲のはみかんホイップのロールサンドだ。みかんとクリームがパンに挟まっていて色合いが可愛らしい。


ちなみにあの3人から買ってもらったものである。1人1個買って行ったので、つまり現状3個もらったってことだ。


そんなにいらないと言ったのだが、「バカ3人衆を教えてくれたお礼」とのことなので授業料として受け取ることにした(加藤はバカじゃないんだけどな)。


そのうちの1個を、店内で食しているというわけだ。あの3人は私たちにパンをあげた後、店に居座らず去って行った。きっと今日も良さそうな服を見に行くのだろう。


ベーカリーカフェは多くの学生で賑わっている。ここは私や玲などが通う波桜高校(なみさくらこうこう)から結構近いこともあって、放課後はよくうちの制服を着た高校生が集まる。いわゆる溜まり場だ。


「やっぱりこれがたまらんのよ〜。みか〜ん!」


玲はロールサンドを頬張ってうっとりした表情を見せる。この子はいろんな表情を見せてくれるから見ていて楽しい。


この子…というか、神様だったなそういえば。確か人間に転生したって言ってたっけ。この間は私に明かしてくれた訳だけど。


彼女が私以外に素性を明かした人間はいるのだろうか。


ブー


(携帯が振動した)


ポケットに入れてあったスマホを取り出す。玲からLINE?え、今食事中ですよ?食べながら打ったとかじゃなくて、彼女携帯なんて見てなかったですよ?


LINEには《あなた以外に『雷神』だってことを明かした人間はいないよ》とあった。あー、心読まれたんだな。


続けて《そ、ちなみに念力で文字打ってます(^^)》と。だから携帯に手を触れることなく送信してるのか。とんだ神業だな、てか神だ。


そういや、あんたが雷神ってことは他にも神がいたりするの?と、心の中で聞いてみた。私はただの人間なんでテレパシーなんて使えないけど、玲が読んでくれるはず。


《うん、神は私だけじゃないよ。どういうのがいるのか…なんてものは伏せておくけどね》

(なるほど、普通にいるんだ。でも玲がそういうならこの話はやめとく。このコミュニケーションちょー楽だな。全部これで済ませれば良いんじゃ?)

《それはだめ、本当に言いたいことは自分で言いなさいね》

(えー…言うのめんどくさい)

《えー、じゃありません》


そんなやりとりをしているうちに、ピザトーストは最後の一口。それを味わって飲み込んだ後、玲にこう声をかける。


「今日は(ゲーセン)行く?」

「行く!」


光速で答えが返ってきた。



里実 ゲームセンターにて



ここはいつもの場所、家から最寄りの駅のゲームセンター。略してゲーセン。放課後の私たちの遊び場で、休日も結構ここに来る。


ドドガガドドドドガガガガ……


玲は太鼓の達人をやっている。荒ぶるSE(効果音)からして普通の人がやるような譜面ではないし、しかもマイバチを所持している。邪魔しようものなら雷で焼き払われそうなほどのオーラを後ろ姿から放っている。


ド ドドガ カ ド ドドガ カ ド ドドガ カ……


それにしてもロール処理、上手いのはもちろんなんだけど面への入り方が綺麗だよね。あぁ、ロール処理っていうのは太鼓の達人で使われている手法の一つで、密度が高い譜面を捌くための技術…らしい。私は玲に比べるとあんまり太達上手くないから説明不足になっちゃうね。


ドドガガドガドガドン カッ カッ  フルコンボー!


そして難易度『鬼』の最高レベルの中の上位クラスに入るほどの譜面を当たり前のようにフルコンボ。そんで1000コンボ超えてるのに可の数が4個、もう太達プレイヤーの中でも達人ですよね。


「うん、上々。良かった。案外腕は落ちてなかったわ」


と、ホッとしたような声を出す。いやフルコンボしてこんなすごい成績を出したことに対してもっと喜べよ。なに「上々」で済ましてんの?


私からしたら十分すごすぎるので拍手する。


「おぉ〜」 

「久々にこの曲やってこのスコアなら満足かな。違うのやりに行こ」

「お供しまーす」


玲はマイバチをリュックにしまい、私と共に太達の筐体を後にした。


彼女は太達ガチ勢だ。新曲が来ればすかさずゲーセンに赴いてフルコンボか、(比較的簡単な譜面に関しては)全良するまで攻略する。家ではたまに自分より上手い人の手元動画を見て勉強してたりもする。ゲームのスキルも人間としての力だけで得た正当な実力のようだ。


…こんな感じで太鼓の達人における玲の腕を「普通の人」目線っぽく解説してみたけど、もう見慣れてるからか感覚が麻痺してるんだよね。だから彼女の腕は異常だってことを忘れないようにしないと。なんかしらの用事のついでにゲームセンターに寄るようなエンジョイ勢の人たちに怒られそうだから。


「ね、これやろ」


玲はとあるゲームに指さした。


「ゾンビを倒すゲームか。いいね」


ゾンビを銃で倒すシューティングゲームを2人でやることにした。音ゲー以外のゲームをゲーセンでやるのはわりと久々だ。…そうでもないかも。


まずは最初のステージ。ここはゾンビの数もそこまでではないのでダメージを負うことなくクリアできた。


次のステージは不気味な廃屋。ここを進むと地下の研究施設に繋がる道があるので、ここのゾンビを倒しながら通っていく。もちろん、ゾンビの数も増えている。


役割分担とかは特に考えておらず各々自由に狙いたい方向に撃つだけ。しかし無意識のうちに一方が撃った後、リロードする際の隙を作らないようにもう一方が発砲するという息の合ったプレイが出来ており、特に苦戦していない。


私はゾンビとハート(ライフ回復&得点源の効果)を狙いながら、なんとなく今回のテストについて考え事をしていた。


玲は数学IIと英語IIと家庭科で100点取ったらしい。数IIに関しては前回より難易度が跳ね上がった(赤点続出、42点が平均だった)とはいえ、自信があった私は91点を取ってほくほくしていたが、玲の点数を見るとそう言えなくなった。


(そういう意味じゃ、玲に負けて悔しかったかも。よし、マシンガンで一掃だ一掃!)


連続的な銃撃音を伴いながら、画面内のゾンビは私の殺意溢れる攻撃で塵と化した。ステージクリアだ。次も蹴散らしてやろう。撃てそうなものは撃っていくスタイルに変更だ。


「ここからは不用意に発砲しちゃ…って里実、それ罠だよ!」

「え?あ、あぁ!?う、嘘!ゾンビじゃん!」


何も考えずにただ撃ってたら木箱に当たった。箱なのでアイテムが入ってるかと思っていたのだが、箱にゾンビが大量に入っていたという…ここミミックだったわ今思い出した忘れてた。


(早く殲滅(せんめつ)しなきゃ…!) スチャッ

「里実撃たないで」 カチッ


玲が私を制止し、筐体の中央にある赤いボタンを押した。画面に手榴弾が出現し、群れをなすゾンビに向かって投げられ爆発した。高い威力と広範囲の爆風によりゾンビたちは蹴散らされた。


「そっか…とっておきの手榴弾があったのか。ごめん忘れてたよ」

「私たちは最初から持っている手榴弾1個、ステージクリアでもらえる手榴弾を2個持ってた。で、今1個使ったから残りは2個。ボス戦で使っていきたいから、出来るだけ今はダメージをくらわずにあまり銃弾を無駄にしないでね」

「了解っす!」


なんか玲、イケメンじゃないですか…。


玲の指示のもと、倒すべきゾンビだけ倒してついにボス戦!なんか元々人間だったとは思えないほど巨大化してるんだけど、あれ倒せるよね?


攻撃の回避は銃を後ろに引いたり、当たる部位…足で攻撃するなら足を撃つなどして止める方法があるが、なんせこいつ巨体のくせに攻撃までの隙がまるでない。あと素早いから回避にも間に合わないことも多く、私と玲はこれまで2度敗北しているのだ。


「ぐっ…」

「当たって!」


玲のレーザー銃は、威力が低めな代わりに弾速が速い。だからボスを攻撃して足止めさせやすい。すかさず私もマシンガンで応戦する。


一進一退の攻防。手榴弾も尽きて先に倒れたのは、


「あぁー!」 【YOU DEAD…】

「玲がやられた!」


1Pの玲がボスの薙ぎ払いで最大体力の体力の半分を持ってかれて死亡。残るは私だけに。


だがボスの体力も心許ない。行けるところで一気に…


「あ」


ボスゾンビに頭を捕まれ、そのまま投げられた。


「ああああぁぁ!!」


主人公の視点が揺れ地面に叩きつけられたと同時に画面いっぱいに「YOU DEAD」の文字。あれは絶対に避けなきゃいけない即死攻撃だったのに…


「ショック…」

「ま、まあ私たちにしては結構耐えた方じゃない!多分次やったら勝てるよ!」


玲が一生懸命に励ましているが、私はただ、こう叫びたかった。


「くそおおおおおぉぉぉぉぉぉ…」


声にならないような気持ちを、声に出した。私たちは三度目の正直を目前にして、呆気なく敗北したのである。

今回が長くなったので、次回は短くなります。

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