第10話 里実と小さな女の子
なんとか間に合いました。
里実 フラット公園にて
昨日の夜に雨が降ったからか、水溜まりを数個見つけた。からりと晴れ太陽の光が水溜まりを反射して鏡のように青空を映している。そこまで地面が湿っているわけではないから、水溜まりを避ければ普通に歩ける。
ベンチも少し湿っていたけど気にするほどでもないから、普通に座って休んでいる。いつものように駅近の施設で遊んだ帰りさ。無論玲もついて。
湿った空気が充満している。蒸し暑いなぁ…ハット取りたい。取ろう。
「あー、汗かいた。ベトベト嫌ー。ふこー」
「夏ねぇ…」
玲は目を閉じて何か感じてるのだろうか。風情か。
被っていたハットを取ると目に鋭く光が刺さる。だからあまり晴れた日に外に出るの好きじゃないんだ。
ちなみに今日も玲に連れ出された。ビタミンD生成委員会活動、らしい。
「あー眩しい。玲、雲作って太陽だけ隠してよ」
「ちゃんと日光浴してください」
「眩しいのが軽減される厚さでいいんで。てか隠れてても光当たるんだから良いでしょ」
雲で覆われていてなおかつ雨が降らない日は、私が外で元気に動ける日だ。眩しさ気にせず、荷物になる傘も持って行かなくて良い素晴らしい日。「曇り」という天気の事象を生み出してくれた神に感謝だ。…あれ、それって玲と隼人くんか。
「ハットがあるでしょ?ちゃんと汗拭いてからまた被ってください」
「無闇に天気変えちゃいけない決まりでもあるの?」
「特にない。私の気分で変えない。今日は日の光を浴びるの」
神の御身分っていいですわね。
「女王様やん。まあぽんぽん変えられても困るが」
「私が絶対なのだー」
「天気を操る人、ほかに隼人くんがいるよね?」
「実力でねじ伏せれば良いので問題ないですね」
「神様社会って実力重視??」
「んなこたぁない」
ガサガサ
草をかきわける音がした。
「ん?」
「後ろからね」
ひょこっ
「ん!?」
「!」
「にひひっ」
突然、ベンチの後ろ側の草木から女の子が飛び出してきた。え、気づかなかったんだけど。
「玲、気づいてた?」
「うん」
「ああそう」
「…」
女の子は私たちを、いや目線的に私か?じっと見つめてきてる。私の顔になにかついてますかね。
「…」
そんであんたはなんで何も言わないのよ。しかも私とあの女の子見比べたりなんかして何してるんすか。
「この子…結構可愛いわね」
「いやそっちかい。いやまあ可愛いけどね。短いツインテとか」
あと白ベースの青いチェックが入ったワンピースとかね。
「さっきから里実を見てるけど、知り合いじゃないよね?」
「私にこんな小さい知り合いはいませんよ」
私は年下に縁がないことに定評がある。弟妹なんていないし、いとこも年上含めて一人もいない。最近になってやっと学校で同じ同好会の一年生に関わるようになったくらいだ。
「あそぼ!」
と女の子が手を広げた。
「は?」
「良かったじゃない里実」
「いやいやいや、あそぼじゃないでしょ。だって、お母さん探さないと。いや、そもそも何をしてたのかを聞くのが先かな?」
さっきから私は女の子に聞こえないように玲に耳打ちして話している。私、この17年間で年下とあんまり関わってこなかったから、どう接して良いかわからなくて…正直苦手なんだよね。
「ね、君は何してたの?」
玲は女の子に合わせて、声色を幼く聞こえるようにほんの少し明るくした。
「ママをまってるあいだに、くさにかくれてあそんでた」
何でそんなことを…
「玲、この子の考えてることわかる?」
「具体的に考えて行動するってことをあんましないから、読み取れる言葉がそんなにないのよね。だから幼い子供には読心術ってそんなに効果がなくて、読めて現在の感情くらいなのよ」
「そんなぁ」
何を考えているのか、どんな言葉で言えばわかってもらえるか、自分がどのくらい目線を下げればいいのかとか色んなことがわからなすぎて目の前の女の子が、何をするかわからない年下の子供が不気味で怖い。
「このくらいの年の子供は好奇心旺盛だから、どんなものでも遊びになるのよ」
(考えてることがわかれば子供の扱いももうちょっと簡単になるのに…!)
「あそぼー」
女の子が私に寄ってくる。うぐ、そんな純粋な目で見ないでくれ。性格が汚れた私といても良いことなんてないぞ。とは言えないので目を逸らして、
「私トイレ行ってくるから、そこのお姉ちゃんと遊んでてね〜」
玲の背中を押してトイレへ…ではなくその近くの木の後ろ側で2人の様子を見ることにしよう。玲からすれば、私もあの女の子も年齢的には変わらないからきっと年下の扱いも慣れてる。うん。
「あぁ、やっと出た…ん?」
「え」
目と目が合う♪…じゃなくて、この女の人どこから出てきたの?!あ、トイレか…
「え…えと…」
この人多分私を怪しんでるよね…木の影に隠れてるってかくれんぼしてるんじゃないんだから、不審者って思われそう。と、とりあえず…挨拶しとく?怪しさ度下げるために?
「こ、こんにちは…」
言っちゃった…。
「こんにちは、もしかして娘と遊んでくれてるの?かくれんぼ?」
「え、娘?あ、あぁ、かくれんぼっすよ」
「ママきたー!」
「おまたせあかりー」
「ママ?」
これあれか?女の子の母親だったのかあの人。よし、そのままこの場を立ち去って…
「さ、と、み?」
「れ、玲!また後ろに来るんじゃないよ…」
またテレポートで回り込まれてました。
「ふふふ…里実みぃつけた」
すいません、玲が私の手首握って離してくれません。ほどけません。なんなら少し力強いです。
玲は手首を握ったまま女の子の母親に挨拶した。
「こんにちは、あなたがお母さんだったんですね」
「こんにちは、あかりと遊んでくれてありがとうね」
女の子の名前は「あかり」、母親は「光」という名前らしい。
この親子をパッと見た感じ、髪色は茶色で同じで眉毛が薄いのも似てるな。目元はそんなでもない印象。あかりちゃんが元気なぱっちりお目目なら、光さんはおっとり垂れ目だな。
てか光さん、背高くない?玲よりも高いってなかなかだよ?
玲と光さんは打ち解けたのか普通に会話している。この人当たりの良さ、私にはないからうらやま。
「お手洗いに行ってたんですか?」
「急にお腹が痛くなっちゃって…あかりには公園の中で待ってるように伝えてたの」
「なるほど、そうだったんですか。それにしてもあんなに走り回って、元気なお子さんですね」
あかりちゃんはゆらゆらと羽ばたく蝶を走って追いかけたり触ろうとしている。子供が遊んでるのを見るだけなら和むなあ。
「うん。外で遊びたがってたけど仕事もあってしばらく家で遊んでたから、ひと段落して今日やっと公園に行けたの」
「大変ですねー」
「さとみ、あそぼ!」
あかりちゃんが再び私の服を掴む。
「え(ま、またか!)」
「あかりちゃんが遊びたがってるわよ」
えー、どんだけ遊びたいのよ。
「あら、里実ちゃんにずいぶん懐いてるね」
「な、なんでかわからないんですけどね…」
「里実ちゃんってなんだか優しそう、それわかったのかな?」
いや待てそれはないでしょ。さっきまでの私の態度見てた?イヤイヤ感満載だけど?表にはちょっと出てそうだし、親子揃って鈍感なのか。
「里実、遊んであげなよ。あなただっていつか母親になるかもしれないのよ」
今度は玲が耳打ちしてきた。こんだけせがまれてるならいい加減遊んであげようかなあ。それと、私が結婚することはないと思うんで。
「わ、わかったあかりちゃん。あ、遊ぼうかー!」
「わーい!」
承諾したら喜んでくれた。
「何して遊びたい?」
「かくれんぼ!」
「じゃあ里実を鬼にしようか」
「おい勝手に決めるな」
「じゃあ私たち三人が逃げるから、30秒数えててね」
「は、はい(光さんも参加するんかい)」
私は目を閉じて数字を数え始めた。
「いーち、にー、さーん…」
「にげろー!」
「わー!」
「ふふふ」
各々声が聞こえてくる。
「29、30!」
近くに彼女たちの気配はしない。が、一応お約束のあれを聞いてみる。
「もーいーかい?」
「「「まーだだよ」」」
「もーいーかい?」
「「「もーいーよー!」」」
「よしきた。さぁ探すぞー」
懐かしいなあ。小学校のころ、学校近くの公園で学年関係なくはちゃめちゃに遊んでたっけ。そんな時にトリップしたかのような心地がほんの少しする。
さあ覚悟しろ。私が隅々まで探し回ってやる。私の目から逃れられると思うなよー?なんつって。さて、どこから探そうかな。
ガサガサッ
「ん?」
草をかき分ける音。ぼうぼうに伸びた草を注視してみると、はわはわした短い髪の毛が一瞬だけ見えて「にひひっ」という笑い声が聞こえた。
すぐ見つかっちゃうのも可哀想だと思ったので、あえてそこはスルーした。そしてさっきから存在感を中途半端に隠せていない奴のもとに向かう。
「…あんたそんなところで何やってんの?」
「み、見つかったですって?!」
「自分の体を変な術で幽霊っぽく透明にしても、隠れる場所が滑り台の下なら隠れられてないじゃん。てか、かえって気になるわ」
滑り台の下に玲は隠れていた。幅が狭いから大人がはみ出さずに隠れるのは普通に無理だ。
「保護色にした方が良かったかしら?」
「虫か」
「ふふ。にしても里実、やっぱり優しいじゃない。真っ先にあかりちゃんを見つけても捕まえない辺り」
「始まってすぐに捕まったら悲しいでしょ」
「…なるほど、小学生の頃の鬼ごっこ」
「それ以上言ったら殴る。とにかく玲、みっけ。次は光さん探す」
「ブランコで遊んでよーっと」
「光さん、見つけましたよ」
「あー見つかっちゃったぁ」
光さんはドームの形をした遊具の中にいた。
「なんでこんなところに?」
「ここ暗くて狭いから好きなんだよねー」
猫かな?
「よいしょっと。ここ出るのもちょっと苦労するわ。昔はなんなく出入りできたのに」
「大きくなるとなかなかねぇ、身長いくつなんですか?けっこう大きいですよね?」
「170cmくらいかな」
「いいなあ…」
「さぁ残りはあかりちゃんだけだ!あかりちゃんはどこかなー?」
私はあかりちゃんに聞こえるように声を出した。もそもそと小さいものが動いてるのが見える。
「里実なんだかんだ乗ってきてるじゃない」
「ん、ちょっと日が暮れてきて暑さが和らいだから元気が出ただけだよ」
スルーし続けてきた茂みにようやく入り込む。右側からまた「にひひっ」という笑い声。
「声が聞こえるぞー?こっちかなー?あ!」
あかりちゃんが木の裏に隠れようとしてるのが見えた。
「あかりちゃーん?」
早歩きで木の裏に向かう。あかりちゃんは私の視界に入らないように走り回っている。そうこうしているうちに私とあかりちゃんが木の周りをぐるぐる回るようになった。
「ここかな?!」
「へへっ」
「みーつけた!」
「みつかっちゃったー」
反時計回りに歩くとしっかり彼女の姿を捉えることができた。みつかっちゃって笑みを隠せない顔が可愛らしい。
これでかくれんぼは終了である。意外なほど楽しかったな。
「もー、見つかってるのに走り回ってー。往生際が悪子さんだなーw」
「さとみってたのしいんだもーん」
「あ、あとできれば私のこと『里実お姉ちゃん』って呼んで欲しいな」
「さとみ!」
しっかり私の目を見て満面の笑みで思いっきり呼び捨てにしてきた。
「oh…」
「ね、ね、あかりちゃん、私は?」
「れいねえちゃん!」
「きゃー可愛いー!」
こっちは普通に姉ちゃんって呼んでるのに…
「(一体なぜ…)」
「里実は童顔だから…」
「まさか同年代だと思われてないだろうな?」
「どうでしょうね」
童顔ってここまで影響出るのか?これなら二十歳になっても酒飲ませてもらえないかも。
「ごめんね…私から言っておくから」
光さんは申し訳なさそうに頭を下げた。
「ああいや、光さんは全く悪くないですよ。まあ、呼び方なんて私だとわかれば自由でいいし」
「じゃあさとみ!にひひー」
うん、これは呼称固定されたな。でも可愛いから許そう。
もっと遊ぼうとあかりちゃんは駄々をこねたけど、日も沈みかけていたので私たちはこれで別れることにした。あかりちゃんは自分のお家に向かいながら、ちらちらと私を見ていた。
小さい子と一緒に遊ぶのって、結構張り切っちゃって体力を使うものなんだな。それでも童心に帰れて楽しかった。
それで思い出したことがある。おばあちゃんも私や兄と遊んでてこんな気持ちになったのだろうか。かくれんぼで私がドームの遊具に入って見つかってあかりちゃんみたいに笑って…おばあちゃんが私みたいに全力で遊んで…
オレンジに染まる空の下、もう戻れない昔を思い出してノスタルジーに浸った。
あと一つ書いたら、書き溜め期間に入ろうと思います。




