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眼鏡と神様の平凡な生活  作者: 胃痛小僧
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第1話 テスト勉強めんどい

(この小説は、数年前に投稿していたものをリメイクしたものです)

里実 自宅のリビングにて



「だあぁもう、めんどくせぇ…」


私はため息混じりに嘆く。なんでって?あと1週間くらいで期末テストなんだよね。つまり現在テスト期間なんですよ。マジ面倒。


あ、いきなりだけど自己紹介しておくね。私は「岡本里実(おかもとさとみ)」。どこにでもいるような普通の高校二年生。外見についてさらっと触れておくと、髪の毛を肩まで伸ばし、眼鏡を掛けた童顔…ってところかな。


性格はめんどくさがりの引っ込み思案、かな。学校では結構大人しくしてるような陰キャタイプだよ。あと勉強と生の食べ物と虫が嫌い。


いやまあ、勉強して高い点数取らないといけないというのはわかってるよ。内申が不安だし。でもさ、高校の勉強ってやらなくても生きていけそうな範囲ばかりやらされてる気がするんだよ。世界史のローマ時代とか、数学IIの複素数とかいつ、どこで、なんの役に立つっちゅうねん。(とは言っても、私は理系を選んだので数学や理科は付き合っていくしかないけど)


もう集中力切れた。勉強に対するやる気なんて起きねえ。クーラーが絶賛活躍中のリビング部屋の中心、絨毯に倒れ込む。


ゲームしたい。ゲームが、したい。


やばい、禁断症状が出た。私にとっての三大欲求の一つ「ゲーム」が満たされないと自滅行動に走ってしまうかもしれない。最近インストールしたアプリ「食パンが天下を統一するゲーム」をやり込みたい。


もう何日ゲームや動画を見てない?テストまで2週間を切った日からだったっけ。てことは1週間?すげえ、私がここまで封印するなんて、過去の里実が見たら卒倒するよ。


ゲームのことしか考えられなくなっちゃったよ。ゲーセン行きたい…太鼓の達人やりたい…グルコスやりたい…アーケアしたい…チュウニズムしたい…


「ぬああぁぁもおおやりたくないぃぃぃ!!」

「里実どうしたの!?」


可憐な少女が私の奇声にびっくりしている。


「ああ、玲、ごめん。伸びしてたら声出た」

「思いっきり裏返ってたよ。…ふふ」

「声裏返ってたぁ?」


里田玲(さとだれい)」、家が近く、同じ高校に通い、同じ学年で同じクラス。


そして、私の親友である。


彼女は柔らかい笑みを浮かべ、多分おかしな顔をしているであろう私を見ている。その顔は聖母のように見えて、可愛らしさと美しさを両立している人の微笑みだった。


彼女は美人だ。千年に一度の逸材と呼ばれたあの女優と引けを取らないくらいの。腰を越えるほど長くて綺麗な黒髪と、ガラス玉のように透き通る目に長いまつ毛が特徴の少女。私は彼女以上に容姿が整った女の子を知らない。


「ところで小腹が空いたから勝手に煎餅(せんべい)持ってきちゃった。おやつの時間はもう過ぎてるけど、里実も休憩したいみたいだし一緒に食べない?」

「うん、助かる。ナイス。ありがとう持ってきてくれて」


うちにある物なのだが、家が近くて頻繁に互いの自宅を行き来する私たちにとっては家にあるものを勝手に触られるなど特に気にするようなことではない。今日は私の家でテスト前の勉強会だった。ようやく休憩だ!


「よっと」


私は力を入れて起き上がり、袋に入った煎餅を一枚取り出した。それをかじると、醤油の染み込んだ懐かしい味が心地よく舌を刺激する。噛むとボリボリと音がするのもASMRのようで落ち着く。


玲はニコニコして美味しそうに煎餅を食べている。その愛らしい笑顔は何者も虜にする魅力が秘められていると感じる。


彼女は学校でも人気者だ。今言った容姿のことだけではない。玲は大体なんでもできるのだ。勉強も運動も、あと料理も。見た目に違わず気遣いまで。


具体的には

・前回の中間考査では五教科それぞれ90点以上、しかも数学で100点出す

・体育の授業でバスケをやっていた時、バスケ部顔負けのフットワークを見せて翻弄させ、鮮やかなダンクをキメる

・退屈しのぎにフルコースメニューの料理(多分イタリア?)を再現する、ちなみにパスタ美味かった

・クラスメートが何も言っていないのに、油絵具を忘れたことを言い当て、予備の絵の具を貸す(その人はびっくりしていた、当然)

………などである。


ここまで来ると羨ましいとか悔しいを超えて嫉妬心も芽生えてきそうなものだが、そんなものは彼女の愛嬌があって屈託ない笑顔ですぐに泡となって消える。玲の明るく親切で優しい性格は誰からも愛されるのだ。


そしてそれを私にも向けてくれる。



私にとっての親友は玲で、玲にとっての親友は私…だと思いたい。一緒にいる時間が長いし、学校では語らないようなことも二人きりなら語り合うから。


けど、なんでそこまで仲良くなれたのかは正直言ってよく覚えてない。


見た目が地味な私と、正に高嶺の花と言える彼女。ゲームという共通の趣味があるとは言え、それ以外の何もかもが違う。レベルが、いや次元が。


最初に話しかけてきたのは彼女の方だったと思うが、なぜ私に話しかけたのか、そしてなぜ今でも私といるのかがわからない。


玲ならプライベートでもっと…例えばおしゃれな女子の真理子や加藤とファッションのお店を回るとか、それこそ彼氏でも作ってリア充出来そうなものだ。彼女からの告白となれば、断る男子はいないだろう。そうしようとしないのも不思議だ。


不思議といえば、考えれば考えるほど謎が尽きない人物ってのもそうそういない。


皆が知らないようなことを知っているだけなら単に博識な人として片付けられる。しかし、あの華奢(きゃしゃ)な体からは考えられないようなパワーがあったり、さっきまでいなかったはずの場所にいつの間にかいたり…


特に謎だと思う点は、家族について。


一度だけ家族について聞いてみたことがある。玲は1人っ子であり、高校進学を機に両親から離れ一人暮らしを始めたのだという。


が、なぜか釈然としない。おかしなことを話していないはず。気にすることのほどでもないのだけど、この言いようのない僅かに淀んだ違和感はあれから消えることはなかった。


…まあ、そういうことはテストが終わってからゆっくり考えることにしようか。今考えても意味ないし。



あれから1時間。会話はなくなり、私たちは教科書を読み漁ったり問題集で復習したりしていた。


テスト範囲はほぼ終わっている。数学の四谷先生が「時間が余ったんだしお前たち理系なんだから、範囲増やそうか」と言ったところ、クラスの皆から氷柱(つらら)のように鋭く冷たい眼差しとイヤイヤコールが大量に押し寄せられた。


なので学校行っても自習するだけになったが…正直行きたくない。


あ、いや、学校そのものが嫌なわけじゃないよ。特に際立って嫌な人や先生はいないし、むしろ楽しいが勝る。


私が嫌…てかめんどくさいのは登下校の方。家から学校まで結構距離があって、最寄りの駅まで歩いて、電車に乗って一回乗り換えて、そのあとバス。学校も辺鄙なところにあるから、そこからまた歩かなきゃいけない。


と、ここまででかなり時間がかかっている。インドアな私にとっては授業の前に疲れてしまう。…じゃあなんでこんな高校に通っているんだ、っていう言葉はNG。事情があって。


要するに登下校の時間が無駄で、学校でやらないで家で勉強する方が時間を無駄にせず、かつマイペースにできるんじゃないのかってこと。


まあ、こんなこと私のような一般生徒(モブ)が言えることじゃないんだけどねー。


明日バックれて学校休もうかな…それも内申に響きそうだからダメか。大人しく学校行くー?


どうしよーかなー…


「里実」

「へ!?は、はい!?」

「さっきから呼んでたわよ」


ま、まじか…。玲はちょっと怒ってふくれる。何この可愛い生き物。いや、じゃなくて、


「な、なんすか?」

「ずっと手が止まってるよ。わからない問題があるの?」


と私の視線の先、理科の問題集のページを覗き見ようとする。私はそっちなんて見てないんだ。違う違うと手を振ってみる。


「なんでもない。ちょっと集中力が切れてぼーっとしてただけ」

「あら、そう」


とは言うが、玲はこっちを見たままだ。これはなんでもなさそうだと気付いてそうだな。正直に言うかぁ。


「あー、あのね、明日学校行きたくないなあって」

「どうしたの?」


考えていたことを説明した。


「あー、なるほど…。たしかに私たちには波桜(なみさくら)高校は遠いもんね」

「あ、玲もそう思ってた?」


玲は学校の道のりを楽しんでそうなタイプだから、距離なんてなんとも思ってなさそうなもんだと。


「学校を休みたいけど、出席のことがあって休めない。自分が休むんじゃなくて学校側が休みになればいいのよね」

「あ、それがいいね。でも、臨時休校にする理由ってそこそこ大きくないとダメだよね。爆破予告するわけにもいかないし」

「うん。それやると威力業務妨害で捕まる」


お縄ですな。


「自分から働きかけるのは難しそうかな」


というか、なるべく平和な範囲で公的に休暇になってほしい。武力で手に入れろ?それはちょっと。


「うーん、そうだ!」

「いい方法あるの?」


現実的な方法を言うと思っている私に彼女はこう言い放った。


「神様にお願いすれば良いんじゃないかな」

「はい?」


あんた何言ってるの?と呆れた顔をしている私に、玲はこう続ける。


「だって神様ならその力で叶えてくれそうじゃない。学校を休みにするのなんて簡単だよ!」


まただ。そう、玲は美人で優秀だけど、たまーにこういう風にちょっと話から外れたようなぶっ飛んだ言動をすることがあるのだ。


とはいえ、おふざけで言っていることがほとんどなので、この時も深く考えずに彼女の冗談として乗っていた。


「本気で祈れば叶えてくれそうだけどさ、ほら、昔の儀式じゃあれあったじゃん。物騒で怖いやつ。えーと…」

「ヒトミゴクウのこと?」

「え、何それ」

人身御供(ひとみごくう)って書く、生贄のこと」

「意味的にそう言いたかった。それ差し出せって言われても死にたくないし、それで誰か殺したくないから嫌」

「簡単なお願いだから、叶った後でオレンジジュースでもお供えすればいいんじゃない?」

「草、それはあんたの好きな飲み物だろ」


突如玲は立ち上がり、家の小さな庭に続く窓を開け放った。空は雲ひとつなく晴れている。


「クーラーついてるんだけど、暑いから開けないでよ」

「天に向かってお願い事するの」

「七夕じゃないんだし。いやもうすぐだけど」

「まあまあ、言うだけ言ってみようよ。実は近くにいて願いを待ってるかもしれないよ?」

「…」


ま、言うだけだ。実際に叶うような願いでもない。


こんなこと考えたのも、めんどくさいの感情が脳の大半を一時的にとはいえ占めたからなのだ。そんなストレスは、思いっきり声を出すことで軽減される。


体力が削れていくような日差しの下、私は庭に出て空に向けてこう叫んだ。


「もし神という奴がいるんだったらー、明日の学校を休みにしてみろー!」


声は、夏のコバルトブルーの空に吸い込まれていった。

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