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闇…闇…闇闇闇!導!

 巡回するマカロンさんが戻ってくる前に、私達は神社に到着する必要があった。確実に急ぎながらも、あくまで音を立てない慎重さを求められながら、私達は着実に神社に近づいていた。


 茂みという安全圏を抜け出した今、ここでマカロンさんに戻ってこられると私達は確実に見つかり、あの強靭な片腕に潰される。それが分かっているからこそ、私達は慎重さを要求されながらも、この状況に抑え切れない焦りを懐いていた。


 先頭を歩いていたサッちゃんが賽銭箱を越えて、拝殿の中に踏み込もうとしていた。私とマサシはそれに少し遅れながらも、同じように拝殿の中に入っていく。


 そこにはだだっ広いだけで、ほとんど物がない空間が広がっていた。そこに変わった物は見当たらず、外に出られるような場所ももちろんなく、そのヒントになりそうなものもない。


「何もないね…」


 サッちゃんが呟いた直後、私達が通ってきた場所から特徴的な声が聞こえてきた。


(あん)…闇……」


 その声に気づいたマサシが私を押したことで、私達は拝殿の奥に潜むことになった。


 マカロンさんは私達が思ったように、拝殿の中に入ってくる気配はなく、境内をうろうろしているだけだった。茂みの中にも入ってこないところを見るに、あの黒い壁の中にも安全地帯があるということかもしれない。

 この拝殿の中は安全かもしれないと思う一方で、この拝殿の中にも外に出るための何かがないことに、私達は軽い眩暈を覚えていた。


 このまま、いつ終わるのか分からないマカロンさんからのかくれんぼを続けなければいけない。改めてそう考えると、その途方もなさに絶望しか湧かない。


「もう終わりかも…」


 去っていくマカロンさんを見送りながら、マサシが恐怖に染まった顔で呟いた。諦めたくはないと思っているはずだが、この状況に諦めるしかないと思っているような声色だ。


「出られない…なら、どうして見た子がいるの…?」


 サッちゃんも絶望しているようで、小さく呟いた声は泣き声のように聞こえた。俯いていて見えないが、顔は涙で濡れているのかもしれない。


「きっとどこかから出られるんだよ。きっと見落としたんだよ」

「どこに?どこにあったって言うの?どこを探したらいいの?」


 今にも声を荒げそうな雰囲気で、サッちゃんが無理矢理に励まそうとした私を責めてきた。どこと聞かれても、私に分かるはずはなく、サッちゃんやマサシは私の無責任な言葉を責めるように、私を睨みつけてきた。


「もう終わりよ…ずっとここにいるんだわ…」


 涙目になりながら、そう呟いたサッちゃんの言葉を聞き、私は黒い球体の中でマカロンさんが数字を数えていた時のことを思い出した。


 マカロンさんの行動理念は分からないが、その概念の中に数字が入っていることは確かだ。あの開始までの猶予が存在している以上、他の部分に適応される可能性は十分にある。


「もしかしたら、どれくらいか分からないけど、しばらくこの中にいたら、解放されるのかも…?」

「この中…?」

「黒い壁の中だよ。制限時間があって、その時間が経てば終わるのかもしれない」


 それなら、安全地帯がある理由や助かった子がいる理由にも説明がつくと私は思った。ここでしばらく待っていたら、きっと助かるに違いない。


 私の思いつきにサッちゃんは少し表情を明るくしていた。


「確かに…それはあり得るかも…」

「それなら、ここにいればいいってこと…?」


 マサシも希望が湧いてきたのか、表情を明るくして、そう言っていた。拝殿の中は茂みと同じようにマカロンさんが踏み込んでこない。この場所にいたら、見つからないことは確定的であり、時間を潰すには最適と言えた。


「このまま隠れていよう」


 私がそう言った瞬間、マカロンさんが拝殿の前まで移動してきた。私達はすぐに息を潜めて、再びマカロンさんが立ち去るまで待つことにする。マカロンさんは鳥居の付近をざっと調べて、そこに私達がいないことを確認すると、すぐに移動を開始する。


 そう思っていたのだが、調べ終わった直後にマカロンさんの動きが止まった。どうしたのだろうかと思っていると、マカロンさんの呟いていた声が激しくなって聞こえてくる。


「闇…闇…闇闇闇!(どう)!」


 不意にそう叫んだかと思うと、マカロンさんが茂みの中に飛び込んだ。片腕で茂みを薙ぎ払いながら、茂みの中をどんどんと進み始めている。


「え…?何…?」


 サッちゃんが思わず呟く中、マカロンさんは茂みを一周して、そこに私達がいないことを確認していた。茂みの大半は荒らされ、既に隠れられる場所ではなくなっている。


 それから、マカロンさんは茂みのあった場所を出て、私達の隠れている拝殿を見てきた。その視線を向けられた瞬間に、私達は拝殿の奥に飛び退いた。


「え…?嘘だよね…?」


 サッちゃんの呟く声が聞こえる。


「こっちに来る…?」


 マサシが震えた声を漏らす。


「でも、さっきまで来なくて…」


 そう私は力なく呟いたが、その期待を踏み潰すように、拝殿の中に大きな影が伸びてきた。

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