やっぱり、出られないんだ…
サッちゃんやマサシと合流することには成功したが、私達の問題は何も解決していなかった。目の前には鳥居があるのだが、黒い壁が遮っているためにそこを通ることはできそうになく、助けを呼ぶことは不可能だ。
何より、私達三人が逃げ出すこともできない。このままだとシゲルを助ける前に、全員が捕まって終わりだ。
そう考えたことで、私とマサシは酷い絶望感に襲われていた。ここで死ぬことを受け入れるしかないのかと思った子供の絶望感は、大人の感じるものの比ではない。
「逃げ出せないはずがないよ…」
絶望する私とマサシの前で、不意にサッちゃんがそう言った。私とマサシはそれがただの強がりだと思い、表情を絶望で埋めつくしたまま変えることがなかったが、サッちゃんの言葉は確かな根拠のあるものだった。
「だって、シゲルが言ってたじゃない。マカロンさんを見たって子がいるって」
その言葉からマカロンさんを呼び出す前にシゲルが言っていたことを思い出した。確かにマカロンさんを見たという子がいて、そういう子達の友達が行方不明になっていると話していた。
あれが実際にマカロンさんに逢った子達だと考えると、マカロンさんから逃げ切れたということになるはずだ。
「どこかに逃げる手段があるんだよ。それを探そう」
サッちゃんがそう言って動き出そうとした瞬間、移動していたマカロンさんが鳥居の近くまで戻ってきた。私達を探しているようであり、私達は見つからないように必死で息を潜めた。
マカロンさんの行動は最初よりも素早く見えた。周囲の偵察をすぐに終えると、マカロンさんは再び移動を開始する。
それを見送ってから、私達はどこかに抜け道がないか探すことにした。黒い壁が神社の周辺を覆っているが、それも全てを覆っていると決まったわけではない。
マカロンさんに見つからないように茂みの中を移動しながら、私達は神社から出られる穴が黒い壁にないか、必死に探し始めた。
しかし、途中ですれ違うマカロンさんに息を潜めながら、神社の中を一周して鳥居の前まで戻ってきても、黒い壁に出られそうな場所は見つからなかった。
「やっぱり、出られないんだ…」
再び訪れた絶望に潰されそうな顔をしながら、マサシがそう弱音を零していた。サッちゃんが指摘したように、シゲルが言っていた内容から、ここから出られないはずはないと私も思っていた。
しかし、周囲の黒い壁に出られそうな場所はなく、そこから出ることが不可能となると、他に出口があると考えるしかない。ここまで一周してくる間に、ある程度の場所はチェックしたが、そこに出られそうな場所がなかったとなると、まだ見ていない場所に出口があるのかもしれない。
そう考えている時に再びマカロンさんが近づいてきた。私達は茂みの中に身を潜めながら、マカロンさんが立ち去るまで待つことにする。
マカロンさんは鳥居の前まで移動してきて、周囲を見回してから、再び神社の裏手の方に移動していく。やはり、移動速度は上がっているようで、シゲルがいる時とは比べ物にならない頻度で、マカロンさんとすれ違っていた。
そのマカロンさんの動きを冷静に観察していたサッちゃんが疑問に思ったらしく、不意に呟いた。
「どうして、神社の中は調べないんだろう?」
「え?」
「あそこに私達が隠れてたら、ずっと見つからないよね?ここにいるって気づいてないみたいだし、場所が分かっている風でもないのに、どうして神社の中にはいないって思っているんだろう?」
そう言われて、確かにさっきからマカロンさんが神社の境内の中しか移動していないことに気づいた。
もしかしたら、神社の中に入れないのかと思ったところで、一周してくる中で調べていない場所がそこにあったことに私は気づいた。
「もしかしたら、あの中に出口があるのかも?」
そう考えた私の一言を聞き、誰よりもマサシが明るい表情をしていた。
「え?本当に?」
「そうかもしれないっていうだけだけど、あそこだけまだ見てないって思って」
「それなら、見に行った方がいいよね」
そう言ったサッちゃんを先頭に私達は神社に近づいていった。