マ…!
「導!」
その叫びと共にマカロンさんが振り下ろした両腕は、その辺り一帯の茂みを平らに潰していた。その光景を反対側の茂みの中から目撃した私達は見事に言葉を失っていた。
潰れた茂みの中に何もいないことを確認すると、マカロンさんはゆっくりと身体を起こし、再び移動を始めている。
「今の動き…」
私達の後ろで怯えた様子のマサシが呟いた。そこまでしか言葉は出ていなかったが、何を言いたいのかはすぐに分かった。
さっきの茂みに近づいたマカロンさんの動きは、私達の目で捉えられないほどに速かった。仮に瞬間移動したと言われても、私達の誰も不思議に思わない速度だったが、地面に残った黒い跡が瞬間移動ではないことを私達に教えてくる。
「もし見つかったら、逃げるとか無理よ」
サッちゃんがシゲルに言い聞かせるように言った。シゲルもそれは理解したようだが、このまま隠れていても埒が明かないとも思っているようだ。
「なら、どうするんだよ!」
半ば怒り気味にそう言ってきて、私は慌ててシゲルの口を塞いだ。さっきの物音は反対側の私達に聞こえるくらいに大きかった。あそこまでの物音を立てないとマカロンさんは反応することがないと分かったが、逆に言ってしまうと大きな音を出した途端に、マカロンさんに見つかるということだ。
私はシゲルの口を押さえたまま、茂みの外に目をやって、マカロンさんが近づいていないことを確認した。
「見つかるから大きな声はやめて」
「それは悪かった」
私がゆっくりと手を放すと、シゲルは素直に謝罪してくれた。
「取り敢えず、あの茂みが潰れるくらいの力だ。見つかったら、確実に殺される。それは間違いない」
「やっぱり、隠れてマカロンさんがいなくなるまで待とうよ」
マサシは怯えた声で提案してきたが、それはこれからの行動として微妙としか言いようがなかった。マサシは恐らく、これからの展開で起こり得る悪い可能性に気づいていない。
「ここに隠れていても、ここをマカロンさんが探し始める可能性はあるし、それにずっと隠れていたら、マカロンさんがここからいなくなるかは分からない。マカロンさんがいなくなる前に、お腹が空いたりして倒れてしまったら終わりだよ?」
私の指摘に想像してしまったのか、マサシが顔を真っ青にして、座り込んでしまっていた。
「やっぱり、行くしかないな」
そう言って、シゲルが鳥居の方を見た時、ちょうど鳥居の周辺からマカロンさんがいなくなっていた。それを見たシゲルの目が輝いたところを見るに、今が好機と思ったのだろう。
「今の内に外に出て、助けを呼んでくる」
そう言いながら、シゲルが腰を上げかけた瞬間、私達の後ろにいたマサシが移動してきて、シゲルの服を急に掴んでいた。
「ちょっと待って!一人で逃げないでよ!」
「なっ!?馬鹿!?やめろ!?」
「置いていかないで!」
今にも走り出そうとしていたシゲルをマサシは必死に止め始め、シゲルはそれに何とか抵抗しようとしていたが、私はシゲルが行くかどうかよりも、もっと大きな問題が気になって仕方がなかった。
「二人共、声が大きい…!」
私は小声で何とか注意しようとしたが、その間にも二人の声は大きくなり、特にマサシの声が周囲に響き渡っていた。それでも、何とか止めようと私は試みたのだが、もう既に遅かったのだろう。
気づいた時には、茂みの向こうに大きな影が立っていた。
「シゲル!マサシ!」
私が叫んだことで、シゲルとマサシが自分達を上から見下ろすマカロンさんの存在に気づいたようだ。共に怯えた顔でマカロンさんを見上げ、その視線の先ではマカロンさんが腕を上げていた。
その姿に気づいたシゲルは動こうとしているようだったが、マサシは泣いているばかりで動き出す気配がなかった。
「マ…!」
シゲルが何かを言いかける声が聞こえたが、それも途中までだった。
「導!」
その声が聞こえた瞬間には、私達の目の前にマカロンさんの腕が振り下ろされていた。