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闇…闇……闇………

 大きさは運動会で使われる大玉くらいだった。シゲルが地面に書いていた何かの中央に、黒い球体は鎮座していた。そこにはシゲルの持ってきた食材を並べていたはずだが、それも全て黒い球体の中に消え、今は確認できない。

 この球体は何かと考えている間にも、球体の中から聞こえてくる女性の声は数を数え続けていた。


「しーちぃ…はーちぃ…」

「これは何…?」


 マサシが怯えた様子で聞いてきたが、それに答えられる人は誰もいなかった。今までの状況から推察し、強いて答えを導き出すとしたら、それは『マカロンさん』ということになるが、ここにいる誰も『マカロンさん』を知らない時点で、それが実際に『マカロンさん』であるかどうかは分からない。


「この声は何?何を数えているの?」

「数字だろ」

「分かってるわよ、それくらい!そういうことじゃなくて、どうして数を数えているのか聞いてるの!」


 怒り狂うサッちゃんも、黒い球体に心を奪われたように目を逸らすことのなくなったシゲルも、共に冷静さを完全に失っているようだった。成人した大人なら未だしも、小学生の子供に冷静さを求める方がそもそも無謀なことかもしれない。


 この時点で誰かが神社から離れることを提案したら良かったのかもしれないが、私達四人に神社を離れる選択肢は思い浮かばなかった。

 ただし、このまま得体の知れない黒い球体の前にいても良いとは思えない。何かが起きた以上、何が起きたか知りたいと思うのが人間というものである。それは小学生である私達も同じことだった。


「取り敢えず、隠れて様子を見てみる?」


 私が思いつきで提案してみると、シゲルもサッちゃんも素直に頷いてくれた。三人がそうするのなら、自分もそうすると言い出すのがマサシであり、私達四人は近くの物陰に息を潜めることにする。

 その間にも、黒い球体から聞こえてくる女性の声は数字を増やし続けていた。


「にじゅっごぉ…にじゅっろくぅ…」

「いつまで数える気なんだろう?」

「シィッ!声を出さない!」


 耐え切れなくなったように喋ったマサシがサッちゃんに怒られている。その隣では普段から考えられないくらいにシゲルが静かになり、黒い球体をじっと見つめていた。


「ねえ、シゲル」

「何だ?」


 私が声をかけても、シゲルはこちらを少しも見ることがなかった。


「マカロンさんについて、他に知っていることはないの?」

「他にって?」

「例えば、どんな姿をしているとか」

「女の人って噂だ。黒くて長い髪が濡れたみたいにべったりと顔に張りついていて、顔は分からないらしい。服はその髪と同じくらいに黒いそうだ」


 髪で顔を隠した黒い服の女。奇しくも聞こえてくる声は女の声だが、関係があるのだろうかと思いながら、私は黒い球体に目を移した。


 それはちょうど女の声が三十を数えようとしている時だった。


「さーんじゅうぅ…」


 そう言ってから、ピタリと声が止み、しばらく周囲は静かになる。緊張したマサシの呼吸音がすぐ近くから聞こえてきた。それくらいに静かな時間がどれくらいか続き、私達は何が起きるか分からない時間を待つことになった。


 そして、その瞬間は唐突に訪れた。シャボン玉が物に触れて割れるように、唐突に黒い球体がパチンと弾けた。墨汁のように黒い液体を周囲にばら撒き、その周囲から光が消えたようにその場所が真っ黒になる。


 そこに埋もれるように何かが転がっていた。その何かはもぞもぞと動き出し、大きく身を捩らせながら、やがて身体を擡げていた。


 二メートル程だろうか。それくらいの高さがある女性が立ち上がっていた。腰ほどまで伸びた髪で顔を隠し、さっき弾けた液体で染めたように黒い服を身にまとっている。


「あれって…?」


 その姿に怯え、私がそう呟きながら、シゲルを見た瞬間、シゲルが私と同じ表情で呟いた。


「マカロンさんだ」


 その一言に私達が言葉を失う中、立ち上がったマカロンさんは、髪の隙間から一際白い歯を見せて、先ほどまで数を数えていた声で呟き始めた。


(あん)…闇……闇………」

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