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いーちぃ…にーいぃ…

 あれは私が小学生になったばかりのことだった。当時、私が住んでいた家の近くには、その当時から古びた雰囲気の神社があり、私は友達とその境内で良く遊んでいた。


 その日も、いつものように境内に集まり、これから何をして遊ぼうかと相談していた。当時は遊び道具が少なく、自分達で遊びを考えるしかなかったからだ。鬼ごっこやかくれんぼなどの良くある子供の遊びを提案しながら、私を含めた四人は遊びを決めようとしていた。


 その最中に、友達の一人のシゲルが唐突に言い出した。


「そういえば、マカロンさんの噂は聞いたか?」


 その急な一言に私達は顔を見合わせ、不思議そうな顔でシゲルを見ていた。


 シゲルは私達四人を引っ張るリーダー的な男の子だった。興味のあることには何でも首を突っ込むタイプで、それが原因で親に怒られている姿を数え切れないくらいに私は目撃している。


 普段の遊びを決める際にも、シゲルの一言が決定に絡むことが多く、そのシゲルが言い出した『マカロンさん』に私達は興味を引かれないはずがなかった。


「マカロンさんって?」


 サッちゃんことサチコがそう聞いていた。四人の中で唯一の女の子である彼女は、当時の私達の中で唯一シゲルと対等に言い合える子だった。


「何でも決まった儀式をしたら、マカロンさんがやってきて、遊びに付き合ってくれるらしいんだよ」

「何それ?」


 サッちゃんは想像以上に掴みどころのない話に、一瞬で興味を失ったようだった。つまらなさそうに顔を歪めて、ぶんぶんとかぶりを振っている。


「そんなのどうでもいいじゃない」

「だけど、結構マカロンさんを見たって子が多いんだよ。それもそういう奴の友達は行方不明になってるとか」

「ええ…?」


 シゲルが『マカロンさん』に関する怖い話を言い出したことで、マサシが完全に怯えたようだった。マサシは四人の中では一番臆病で、普段から気が小さく、遊びを決める際にもマサシが意見している姿を私は見たことがなかった。


「なら、普通に危ないじゃない」


 サッちゃんからの全うな指摘に、シゲルは分かってないと言いたげにかぶりを振っていた。


「だからこそ、面白いんだよ」


 と、訳の分からないことを言い出すシゲルに、サッちゃんは冷めた目を向けている。


「な?コージもそう思うだろ?」


 そう言って、シゲルが私に意見を求めてきた。当時の私は流され主義だったので、心の底から嫌と思ったこと以外は受け入れることが多かった。恐らく、シゲルはそのことを理解していて、こういう場面で私に話を振ってきたのだろう。


「そうだね」


 そう答えた私にサッちゃんが睨みつけた視線を向けてきた。その視線に私は顔を強張らせながら、不意に立ち上がったシゲルを見上げる。


「ほら、コージもそう言ってることだし、試しにマカロンさんを呼んでみようぜ」

「えぇ…怖いよぉ…」


 マサシはぶんぶんと大きく首を振って、シゲルの提案を拒否しようとしていたが、それをシゲルは許さなかった。グイッとマサシの肩に腕を回し、マサシを自分に引き寄せる形で顔を近づける。


「やるよな?」


 シゲルにそう言われたら、マサシが断れるはずがなかった。マサシは小さく首を縦に振り、三対一の図式が出来上がってしまった。


「ほら、これで決まり。な?」


 シゲルにそう言われたサッちゃんが諦めるように頷き、私達は『マカロンさん』を呼び出すことで話が決まった。


 すぐにシゲルが『マカロンさん』を呼び出すために必要な物を神社に集めてくる。卵と砂糖、小麦粉に落花生と明らかに何らかのお菓子を作る材料だ。


「これで呼び出すの?」


 サッちゃんが怪訝げにシゲルに聞いていた。聞かれたシゲルは力強く頷きながら、地面に何かを書いている。それは記号のようだったが、当時の私には難しく、ちゃんと覚えていない。


「この真ん中にこれらを並べて、後は三回呪文を唱えるんだ」

「呪文?」

「マカロ、マカロ、マカロニ!」

「え?」


 冗談のようなシゲルの呪文に、私達は三人揃って固まっていた。全員がその時になって同じことを思ったはずだ。


 これは間違いなく、成功しない。


「ほら、言えよ。三回だぞ」


 絶対に成功しないと分かっていながらも、強要してくるシゲルに言い返すことはできず、私達はシゲルと一緒に呪文を唱えることにした。


「マカロ、マカロ、マカロニ!マカロ、マカロ、マカロニ!マカロ、マカロ、マカロニ!」


 そうやって三回唱えたが、やはり私達の目の前では何も起きることがなく、顔を上げたシゲルは残念そうな顔をしていた。


「何だよ。デマかよ」

「だと思った」

「仕方ない。あれも返してくるか」


 そう言って、シゲルが地面に並べていた物に手を伸ばした瞬間、その下の影が膨らむように、私達の目の前に黒い球体が現れた。


「え…?」


 私達の誰かがそう呟いた直後、その球体の中から音が聞こえてきた。


「いーちぃ…にーいぃ…」


 それは数字を数える女性のか細い声だった。

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