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My own Sword  作者: ツツジ
本編
91/187

第91話 敵地侵入

前回:空中ダイブ

 

 ぐんぐん上がる落下速度、身体負荷。長く続かないとわかっているので、恐怖は薄らいではいる。それでも、怖い。

 思わず目を瞑っていると、落下速度がゆっくりとなっていき、最終的には止まった。


「大丈夫?」

「……ちょっとちびるかと」

「……替えの下着、ある?」

「漏れてないから! 乙女の尊厳まだあるから!」


 流華に支えられながら、七音は叫んだ。漏らしていないのでセーフだ。

 目を開けて流華を見上げれば、翼を必死で動かしたからか少し苦しそうな表情になっている。

 やはり、この作戦は無理があったようだ。小型ジェット機から飛び降り、落下途中で流華がそれを引き留める。

 体格が似ているから大丈夫だと言っていたが、落下の負荷はかなり酷いようだ。


 最も、この作戦の重大な部分は成功しているようだ。


『フゥゥゥゥゥ! ヒーローっぽい! 最高!』


 剣の状態でもわかる程、勇人のテンションが上がっている。唯一の攻撃手段である勇人を元気づける、ダメ押しの一手は上手くいった。

 アイコンタクトでその旨を伝えると、流華がほっとしたように表情を和らげる。しかし、このままでいるわけにもいかない。


 予定通り、流華がゆっくりと蟷螂の卵モドキに近づかせてくれる。触れる直前辺りで流華が止めてくれてから、右手の力だけで剣を突き立てた。

 柔らかい感触と共に、剣が突き刺さる。剣先に空洞の手ごたえを感じ、そのまま大きく円を描いた。

 剣が一周すると、内側の円が中へと落ちていく。覗き見れば、石が並ぶ頑丈な床が見えた。


「流華、足着く場所あるよ」

「わかった」


 簡単な返事と共に、開けた穴へと降りていく。石でできた通路のようで、壁の灯りがあるものの薄暗い場所だ。

 浮遊感から解放され、足裏の感覚に感動が沸き上がってくる。その間に、流華は辺りを見渡し、状況を推理し始めた。


「石造りの通路……外から見た物と明らかに材質が違う…………ロビン兄さん。わかる? …………やっぱり」

「何かわかったの?」

「闘技場に組み込まれていた建築様式、材質が同じだって。でも、闘技場そのままではなく、造り替えられてる」


 流華が遠くを見ながら断言する。同じ方向を見れば、通路の先に十字路がある。直線状の通路の先は、流石に暗く遠いので把握できない。

 まるで迷路だ。少なくとも、闘技場ではないとはっきりわかる。

 薄暗い雰囲気も相まって、RPGに出てくるダンジョンにいるキャラクターだと錯覚しそうになる。

 現に、勇人がそうはしゃいでいた。


「迷路みたい……」

「闘技場を複数組み合わせて、迷宮にしているみたい。目的として考えられるのは、侵入者に対する為か、或いは」




 突然の地響き。流華の言葉は、そこで途切れた。




 あまりにも大きな揺れで、立っているのがやっとだ。遠くの方から、何からの音が不規則的に聞こえる。

 その音が真横で起きた。波打つように地面が動き、一瞬体が浮く。なんとかうまく着地で来た時には、地響きが止んでいた。


『こんな時に地震かよ!?』

「びっくりしたぁ……! ねぇ、る」


 今度は七音の言葉が止まった。


 流華がいない。


 正確には、先程まで流華がいた方向に、頑丈な石壁ができている。

 視界の情報が上手く呑み込めない。目を点にしながらゆっくりと石壁に向き合い、手で軽く叩く。

 硬く分厚い。本物の壁だ。そう認識した瞬間、即座に頭が現状を叩きだす。





 流華と分断された。




「流華ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

『ちょっ、七音!? ステイ!』


 絶叫しながらその場で剣を手放し、両手で壁を叩き出す。勇人の言葉が耳に入るが、それどころではない。

 魔族の巣らしきところへ、まともな戦力は七音のみで行く。緊張、恐怖、その他諸々を抱えないはずがない。それを押さえられていたのは、流華が隣にいたからだ。

 自分と違って戦う術はないが、ロビンがいれば逃走は可能だ。それに、自分と違って頭がいい。この救出作戦も、流華がいればきっと成功する。そう確信していた。

 そんな流華と離れ離れにされて、七音はパニックに陥った。思考がグルグルと回る中、必死に流華との繋がりを求める。

 分厚い壁の向こうに流華がいるはずだ。それだけを頼りに、どんどんと壁を叩く。


「流華ぁぁぁっ! ねぇ! 流華ってばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

『気持ちはすっげぇわかるけど! あ、スマホ! スマホあるだろ!』

「それだ! スマホスマホ……あったー! 圏外ぃー! うわぁぁぁ流華ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

『落ち着……おいっ! 後ろっ! 魔物っ!』

「ふぁあっ?」


 勇人の叫んだ単語の羅列に、何ともまぬけな声を出しながら後ろに振り替える。途端、硬直した。


 魔物が一匹、こちらを凝視している。


 人間の様に二本足で立ち、鍛え上げられた肉体。だが、背に透明な翅、腹部付近から生えた一対の腕。

 真っ黒の肌に白の斑点がぽつりぽつり点在している。何より、細長すぎる顔に横に突き出た目、針のように長い口。

 例えるなら、蚊人間といったところか。仮面レーサーシリーズでよく出てくるような怪人が、現実に、目の前にいる。おぞましさが全身を駆け巡る。


「あ…………」


 自分の方に魔物が出てくる可能性を、完全に失念していた。ちらっと足元に転がした勇人を見る。

 これを拾って構えるまでに、隙が生まれる。そこを攻撃されればアウトだ。

 迷う暇はない。ごくりと生唾を飲み込み、覚悟を決める。




 だが、魔物の動きの方が早かった。




 首を横に数回、まるで違うと言わんばかりに振ると、踵を返して歩いていく。


「………………ふぇ?」

 

魔物が襲ってこない……?

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