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My own Sword  作者: ツツジ
本編
89/187

第89話 敵地で目覚めたアレク

その頃、誘拐されたアレクは

 

 頭が痛い。体が痛い。冷たい。


 アレクが最初に認識したのは、いつもの日常からは考えられない程の不快感だ。

 意識が徐々に明瞭になっていく。最後に自分は何をしていたか。

 そうだ、仕事だ。

 学園でファンを潰し過ぎるのは危険、それでも近づくファンを潰したくて仕方ない。

 その欲求を解消できるのが、モデル業だ。凡人がこぞって褒め称え、写真を撮る。完全な作り笑顔だというのに、それに騙されて媚びる業界人やファンを見るた

 びに胸がすく。


 今回は有名なファッション誌の企画で、多くの有名モデルが集まり順に撮影をしていた。

 アレクもその中の一人だ。最初の方で撮影は終わらせていたが、複数人のショットも欲しいとのことで待機していた。

 暇を持て余し、同じ様なモデル達とくだらない話をしている最中だった。


 突然の轟音、絶叫。


 次々と床に魔法陣が現れ、魔物が出現してきた。

 今まで見て来た魔物は大抵、原形の生物に何らかの手が加えられた程度の変貌だった。

 だが、現れた魔物は全く違うタイプだった。

 昆虫を元に筋骨隆々の体つきをしており、二本足で立っていた。まるで、日曜朝のヒーロー物に出てきそうなフォルム。

 それらはスタッフを容赦なく屠っていた。殴る、蹴る、突く。それだけで、人間の身体は簡単に壊れた。


 混乱の現場の中、アレクは舌打ちをしたい気持ちを抑え、突破口を探した。他人などどうでもいい。自分が助かる道はどこにあるのか。

 だが、目の前に一匹の魔物が立ちふさがり、巨大な手をこちらに向けて近づけてくる。




 そこで、記憶が途切れている。




 重い瞼を開け、倦怠感の残る体を起こす。暗い。碌な明かりがなく、目を凝らさなければよく見えない。

 手で地面を触る。この感触から、石畳のようだ。座ったまま、辺りを見渡す。近くしか見えないが、それでもアレクの予想通りの構図がそこにはあった。


 気を失っているモデル達が転がっている。中には目を覚ましている者もおり、状況を理解できずに混乱していたり近くの仲間を起こしていたりしている。

 中にはスマホを持っている奴もいたようだが、圏外だったという話が聞こえてきた。

 目を覚ます人数が増える中、アレクは一人考える。ここに集められているのは全員、男性モデルだ。

 現場には他にも男性はいた。女性モデルもいた。だというのに、殺戮しか能のない魔物が、見目麗しい男性だけを選りすぐって連れて来たというのか。


 すぐに結論はつく。魔族とやらの命令に違いない。

 今度は魔族が何故集めたのかという疑問が出てくるが、判断材料が何一つない。

 これ以上の推測は無駄だと、アレクは作り笑顔で近くのモデルを起こしにかかった。

 わざわざ生かして、こうして一か所に置いているのだ。全員が起きれば、事が動くはず。その考えの元、一人二人と起こしていく。




 その予想が正しい事は、すぐに証明された。


「やっと目覚めたようじゃな!」


 最後の一人が身体を越した瞬間、女性の声が響く。同時に、順に灯っていく。壁に蝋燭が等間隔で置いてあるようだ。

 徐々に明るくなっていく部屋。最後に、声の方にある大きな燭台が二つ、灯った。


 石造りの部屋は、今とは違う造りだと一目でわかる。だだっ広い空間は、同じ素材でできているからか重い雰囲気を感じさせる。

 よく見れば、窓もない。ただ、大きな四角い穴が、入り口なのだろう。

 その逆、声の方を向けば、上座なのか一段二段と少し高くなっている。豪華な燭台に挟まれた玉座に、優雅に座る少女がいた。


 なかなかお目にかかれないレベルの美少女だ。

 整った顔つきは自信に満ち溢れているが、美しいというよりは可憐という言葉が合う。

 腰まで伸びる桃色の神は艶やかに美しく、宝石のついた髪飾りが彩を放つ。肩から胸を中心にフリルで飾られたドレスは可憐さに磨きをかける代物だ。

 すっと組んでいた足を解き、その場に立ち上がる少女。そのまま、よく通る声で話を始めた。


「妾を待たせるとは万死に値する無礼じゃが、此度は見逃そう。傷をつけずにつれて来ただけ、低能な魔物にしては上出来だったのう」


 アレク達を見渡しながら、少女はクスリと笑みを浮かべる。魔物という単語から、記憶を思い出したらしく何人かが叫んだ。


「魔物!? お前は何なんだ!?」

「俺達をどうする気だ!?」

「返してくれ!」


 呆気に取られる中から、勇敢な奴らが声を上げて叫ぶ。少女はにこにことそれを聞き、終わった瞬間に顔を豹変させた。




「黙れ」




 真顔でただ一言。それだけで、何十人ものモデル達は口を結んだ。本能が言葉に乗せられた圧を感じ取る。逆らってはいけない。

 一連の流れから、アレクは少女が何者か推測する。


 水無月学園を襲い、テレビ局ジャックの果てテロ行為を宣言した奴ら。『魔族』の一人だ。


 それを証明するかの如く、すっと少女の隣に魔物が現れた。スタジオを襲った魔物と同じタイプだ。怯えるモデル達を前に、少女は高らかに述べる。


「妾は魔族が一人、アイーシュじゃ! 愚かな人間を滅ぼす者! じゃが……貴様らは運がいい。妾に見初められたのじゃからな! 故に、貴様らに選択肢をやろうぞ!」


 強者の余裕を見せながら、アイーシュという魔族がニヤリと笑みを浮かべている。

 魔族という単語に、すぐにテレビジャックを思い出したのだろう。モデル達の顔色がみるみる褪せていく。

 魔物の上位、男しかいない現状。絶望感を抱かない方がおかしい。

 その様子を満足げに眺めつつ、アイーシュは続ける。


「そう怯えるでない。選択肢をやると言うたじゃろ?」

「せ、選択肢って、何なんだよ……!?」


 前方の一人が問いかけた。その発言者を見やり、アイーシュは顎で指し示す。

 途端に、直立不動だった魔物が動いた。モデル達の中に降り、すぐさま戻る。二匹に腕を捕まれ、先程の発言者らしきモデルがアイーシュの前に拘束されている。

 小さく悲鳴を上げて震えるモデル。それが微笑ましいのか、うっとりとした表情でモデルの顔を撫でる。

 ひとしきり撫で終えたアイーシュは、モデルの頬に手を置いたまま囁きかけた。


「簡単な事じゃ……妾の物になれ。さすれば、命は助けようぞ」

「な、なるっ! なるから、たっ、助けっ」

「賢明じゃ」


 答えを聞いてすぐにアイーシュは動いた。


 モデルの悲鳴も懇願も飲み込むかのように、そのまま深く口づけを交わした。驚愕に目を丸くするモデル。だが、変化はすぐに表れた。


 急に声を上げ、苦しみだす。アイーシュが顔を固定しているようで、逃げられないようだ。

 嫌な予感しかしない。アイーシュの動向に気を付けながら、注視するモデル達の間をすり抜け、入口の方へと移動する。




 予感は命中した。




 びくびくと痙攣する指先が、脚が、身体が徐々に色形を変えていく。黄色と黒の縞模様が首から顔に上っていく。

 不意に上半身が膨れ上がったと思いきや、服を破って何かが中から飛び出してきた。

 それは窮屈な場所から解放され、ゆっくりと広がっていく。

 背中には細長い二対の翅が、胸部には新たに二対の腕が生えた。骨や肉が軋む音共に顔も変形していく。

 小顔が自慢だったはずのモデルは、見る影もなくなった。眼球が飛び出て巨大化し、複眼と化している。


 アイーシュが唇を離した。名残惜しそうに糸を引く唾液は、鋭く大きい口と繋がっている。


 そこに、もうモデルはいなかった。奇声を上げる、人間の形をしたトンボの魔物。


 目の前で人間が魔物にされた。その事実に、誰もが硬直して動けない。ただ一人、アレクだけは入口付近に移動できた。

 大きな穴が逃げ道とばかりに主張している。だが、何もないはずがない。罠の可能性がある為、すぐに逃げられない。


「ふふ……美しさがより増したのう……」


 悦に浸り、魔物の出来に満足そうなアイーシュ。仲間の拘束から解かれ、魔物は自由となった身体の動きを確認している。

 それを眺めた後、アイーシュの意識が再びアレク達に向いた。

 舌なめずりし、次の獲物を見定める目で見下ろす。次は自分かもしれない。その恐怖が、モデル達を我に返した。


 一人の大絶叫を皮切りに、混乱に陥った。へたり込む者、叫ぶ者、我先にと逃げだす者。人の流れが、一つの出口へと押し寄せる。

 特に何もなく、モデル達が部屋を出ていく。罠が作動したり、魔物が襲撃したりする様子はない。

 ちらっとアイーシュを見れば、笑みを崩さずに逃げるモデル達を眺めている。

 不敵な笑みが気にはなったが、自分のみの方が大事だ。アレクはさっと人波に紛れ込み、一緒に部屋を出た。


 部屋の外は、同じ石造りの道となっていた。ぼんやりと壁に設置された灯りが薄明るく照らす。瞬時に、アレクは察してしまった。

 自分で認める下種思考かつ冷静だからこそ思いつく。これ見よがしに逃げ道を放置していた理由も、あの笑みも納得だ。




 この場所は迷宮なのだろう。




 闇雲に走っても出られず、同じ様な道で訳も分からず、体力を消耗して最後には捕まる。一瞬だけ希望を与え、絶望に叩き込む。

 アレクもよくやる。だが、それは加害側であって、被害側に回る気などさなどさらさらない。


「チッ! ぜってぇ逃げてやる……!」


 そう吐き捨て、アレクは小走りにその場から動く。これだけ大掛かりな事をしたのだ。学園側が部隊を送り込むはず。

 脱出を目指すのではなく、体力を温存して救助を待つ。他のモデル達を囮にすれば、そこそこ時間が稼げるだろう。

 自分だけでも助かってみせる。下卑た笑みを浮かべ、アレクは行く先を考え始めた。


自分1人だけでも生き延びてやる!

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