第86話 通知
ファンタジーな部屋で真剣な話って、絵面は面白い
「正直、あれは異常。こだわりと納得できる範囲でない。強迫性障害と判断されてもおかしくはない」
「きょ、きょーはく……?」
「普通の人にとってはくだらない事でも、本人は酷く不安に感じてそれを解消する為に同じ行動を繰り返す病気の一つ。ほとんどの患者はそれが異常だと思っているみたいだけど、勇人君は稀な例に当てはまるかもしれない」
「う~ん……確かにそんな感じだけど……」
「何か、ひっかかる?」
「こう……全部病気です! って言いきれないような…………何か、そうなる原因があるんじゃないのかなーって」
曖昧ながらも自分の考えを述べる。理由は単純に、勘である。だが、流華はその内容を吟味し、深く頷いた。
「その可能性は高い。ヒーローでいないとダメなんて、日常生活ではなかなか出てこない」
「自分がヒーローでないといけない。そう思うほどの『何か』があった……それなら、零君かヴィン君に聞けばわかるね!」
名案だと笑みを浮かべる七音。対して流華は、静かに首を横に振った。
「何か知ってるかと思って、すでに二人には聞いてる。でも、二人共知らないらしい。でも」
「でも?」
「三人が知り合ったのは中学からみたい。零君と勇人君は同じ小学校だけど、勇人君は小五の秋に転校してきたらしい」
「転校する前に何かあったってことかぁ……」
簡単に事は進まないようだ。転校前の学校を特定し、当時の生徒を捜し、聞き込み。どのくらい時間がかかるだろうか。もっといい方法を選びたい。
嫌な予想にしょんぼりとなる七音。ふと、流華がテーブルに身を乗り出して七音の手を掴んだ。繋がった部分が温かい。
「大丈夫。私も協力する。安心して」
「流華ぁ……!」
「ほら、しゃんとして。双葉が今にも干からびそう」
「そっちはあたしでも無理~!」
軽口が互いに笑みをもたらし、空気が変わる。
流華から軽口を振ってきたという事は、ここで話し合いは終わりいという事だろう。実際、証拠も何もない状態で推測しても意味がない。
笑い声をあげる七音に、流華がすっと手を差し出した。何かと思ってみれば、そこにはキーホルダがある。
土産物の定番品によく並ぶ四つ葉のクローバー。その中心には、青いガラス玉がはめ込まれていた。
「これは?」
「雑貨屋で見かけて、七音っぽくて買った。七音が無事でありますようにって祈ったお守り。ずっと持ってる、スマホか財布につけてほしい」
「ホント!? ありがと、流華!」
満面の笑みを浮かべてキーホルダーを受け取る七音。その様子に、流華も満足そうだ。
壊れかけていた財布のそれと交換したところで、頼んだメニューが届いた。
先程の真剣な会話は一端、頭の隅に置く。そして、目の前に広げられた色とりどりの甘味と流華とのおしゃべりに夢中になるのだった。
甘味だけではなく、軽食も美味だった。夕飯も済ませ、個室から出た時はすでに外は暗くなっていた。
時間制限ギリギリまでいたのだから、当たり前だ。
個室の最終オーダー時刻は、バスの最終時刻一時間前。その知らせを受けて部屋を出たのだから、もう夜遅い。
学園内に建てられたお洒落な電灯が等間隔に照らし、昼間とは違う雰囲気を醸し出している。
少々蒸し暑さを感じながら、校門のバス停まで流華と歩く。次のバスは五分後。
他に人影はなく、ベンチに二人で座った。七音は小さく息を吐き、スマホを取り出した。
SEINの通知数が百を超えている。ここ最近、よく見る画面だ。
原因はマサル以外にいない。既読だけつけておこうとアプリを開き、そこに表示された画面に七音は青ざめた。
トーク画面を見ると、身体から血の気が引く気がした。頭痛までする。
「……流華、これ……」
「何これ。酷いとしか言えない」
恐る恐るスマホの画面を見せると、流華は眉をしかめて即答した。
いつもは一、二件程が他の人から、それ以外の百数件はマサルからの連続メッセージになる。
だが、今日はマサルが半分、残りの半分は勇人からだった。
『まだ、流華との話終わんないのか?』
『早く練習しようぜー!』
『はーやーく!』
訓練の再開を望む声が、びっしりと埋まっている。最後の方は諦めたようで、代わりに明日はずっと訓練しようと笑顔のスタンプ付きで送られてきている。
初めて、勇人の行動力に恐怖を抱いた。
適合が成功してから、急速にヒーロー願望が膨れ上がって暴走しているように感じる。
「明日……勇人君に会いづらいなぁ……」
「七音。私と一緒にいよう? 図書館? ゲームセンター? 運動場? 好きな所に行こう?」
「いや、勇人君、追いかけてくるでしょ絶対。それに、伸ばし伸ばしにしたら反動が怖い」
「確かに怖い」
一日、それも一回は訓練したというのにこの有様だ。何が起こるか分からない。
それに、折角のパートナーだから逃げたくないという気持ちもある。だからこそ、勇人を落ち着かせなくてはならない。
うんうん唸る二人。突如、持っていたスマホが振動を始めた。
「うぇっ、えっ!?」
「大丈夫?」
「ああ、うん。マナーモードだから、何か通知が……!」
言葉が止まる。画面に通知された文章。始めてくるそれに、流華も驚いて自身のスマホを確認した。
そして、同じ文章が送られていることを確認したようだ。
『明日、午後二時。共通棟B、一階大部屋にて、季夏部隊、集合』
季夏部隊を集めるという事は、魔族絡みの事件が起きているという事だ。短いが重い文章に、七音はスマホを握る手に力を込めた。
ついに物語2章的な物が進みます!




