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My own Sword  作者: ツツジ
本編
85/187

第85話 夢の部屋

夢かわな回

 

 淡いピンクの壁、所々に飾られた造花、フリルのついたカーテンにテーブルクロス。

 ハートや星の形をした可愛らしいクッションやぬいぐるみが長ソファの上に鎮座しており、部屋中にバラの香りが薄く広がっている。


 女性なら一度は考えたことがあるような、夢に溢れた部屋。

 目の前に広がる光景に、七音は目を輝かせ頬が緩んでいく。テンションがだだ上がりだ。


「可愛い、かわいい、かっ、わっ、いぃー!」

「喜んでくれて私も嬉しい」


 流華がはにかむ。なかなか拝めない流華の笑顔もしっかり見つつ、部屋のあちこちを見て楽しむ七音。


 勇人は来なかった。流石に、年頃の男子がこの部屋には来にくいだろう。それを見越して、流華はこの部屋を選んだのかもしれない。

 流華に促され、気分が高揚したまま椅子に座る。ふわふわの座り心地に頬がより緩んでいく。


 更にメニューを見て再び気分が急上昇した。


 部屋のコンセプトに沿ったオリジナルメニューばかりで、どれもこれも可愛らしく美味しそうだ。

 妖精や人魚、ユニコーンなど空想上の生物をモチーフにしているようで、見ているだけで心弾む。

 開いた口も閉じずに目移りしている七音だったが、ある点に目を向けた瞬間、一気に現実に引き戻された。


「ま……魔法付きお値段……!」


 総じて高い金額設定だった。学生の財布には厳しい値段に、夢うつつではいられない。

 財布の中身と視界のメニューを見合わせていると、流華が救いの手を出した。


「大丈夫。お金の心配はいらない」

「え? でも」

「ここの会計、全部マサルさん持ち。七音と重要な話がしたいって相談したら、この部屋予約してくれた。午後のフリータイムで取ったから、時間も気にしなくていいって」

「おにいナイス! よーし、全部制覇するぞ~!」


 身内、それもマサルの会計なら遠慮する必要などない。時間も気にしなくいいなら、ゆっくり寛いで沢山食べられる。こういう時のマサルは頼りになる。

 気を遣う流華を唆して好きな物を選び、頼んだメニュー第一陣が暫くして届いた。どれも非常に美味で、蕩けてしまう。


「美味しぃ~♪」

「うん、美味しい」

「今度は皆で来たいね! 女子会ってやつ!」

「事態が落ち着くまでは無理だと思う。鞍馬さんと樫城さんは魔物退治にあちこち駆けまわってる。静葉も、同じみたい」

「静葉自身が?」


 目の前の甘味を口に運びながら、七音は首をひねる。七音の記憶が正しければ、静葉が前線に立つ必要はない。

 それに対し、同じく甘味を堪能しながら、流華が答える。


「被害地域で安全誘導や炊き出しに力を入れてるみたい」

「静葉らしい……!」

「逆に、静葉以外だったら難しいと思う」

「そうだね~。司令部と開発部を兼業して、『神無月』の象徴だとか。すごいよねー」

「『神無月』に関しては困ってた。でも、今の活動に役立つって喜んでた」

「まぁ、最強のボディーガードだね、うん」


 二人して頷く。静葉が司令部と開発部、二部署に所属すると発表されたのは、宣戦布告の二日後だ。

 どちらも魅力的だと悩んでいた静葉を、奇しくもあの映像が後押しする形になった。


『魔族との戦いでは多くの人が傷つくことが予想できます。その中で、私は自分にできる最大限を持って、皆さんを助けたいです!』


 発表と同時に公開された動画には、文章だけでは伝わらない覚悟が映し出されていた。

 あの映像を乗せれば、反対する生徒は少なくなるという教師たちの考えだとマサルから教えられた。


 予想通り、反対意見は出てこなかった。

 それどころか、静葉の宣言に信者になっている生徒は天を仰いて噎び泣き、好印象を持っていた生徒は信者へとなり果てた。

 それは生徒に止まらず、教師、部隊員までもが同じ現象になったらしい。特に、静葉と面識のある一、二年上の中等部進学者の部隊員と開発部の面々。

 あまりにも絶大な影響力を上層部は利用することにしたようだ。



 一部署に静葉を置き、そこの所属部隊を信者達で構成したのだ。



 大々的な人事異動に、話を聞いていた七音や勇人達は開いた口が塞がらなかったものだ。それが、『神無月』である。

 『神無月』を選んだ理由は信者の教師曰く、『静葉様以外の神はいないから』とのことだ。

 七音の理解を超えていたので詳しく考えることは止めた。心なしか、静葉の顔も死んでいた気がする。

 戦闘力もさることながら、静葉の為ならそれこそ死ねる精神の集まりだ。静葉の手伝いの座を争って勝ち取る様がありありと思いつく。


「人気があるのも困りものだね~」

「静葉が特別なだけ。そうそうない」

「それもそっか!」


 納得して再び甘味を食す。そうして第一陣のメニューがなくなるまで、流華と他愛のない話で盛り上がった。

 食べきって少しの間は飲み物で休憩し、ほどほどの腹具合で次の甘味を選ぶ。先程とはすべて違うものを選び、注文を確定する。

 待ち時間に今度は何を話すか。話題を想い選ぶ七音に、流華が真剣な面持ちで話しかけてきた。


「七音」

「あー……重要な話ってやつ?」


 こくんと頷く流華に、七音も気を引き締めた。恐らくだが、見当はつく。


「……勇人君の事、でしょ?」

「そう。何でわかった?」

「わざわざ個室、それもこんなに可愛い部屋を用意したあたりねー」

「なら、話す内容も予想つく?」


 流華の問いに、七音ははっきりと告げる。


「勇人君のヒーロー願望について」

「当たり。七音は優しいから気づかないと思ってた」

「流石に一週間ほぼ一緒に居たら気づくよ」


 言いながらこの一週間を思い返し、ため息が漏れる。


 


 ヒーローでなければならないのでは。前にそう考えたことがあったが、それが正しいと七音は確信していた。そうでなければ、ヒーローへの執着に説明がつかないのだ。

 適合できるようになってから、ヒーローであることの執着が激しさを増している。毎日、連戦に次ぐ連戦。


 多すぎるのではと伝えれば、ヒーロー足るもの練習は必要と自信満々に告げられた。


 疲れたから休もうと伝えれば、どんな状況でも対応できるのがヒーローだと笑顔で告げられた。


 他の用事を優先したいと伝えれば、まだ必殺技も決めポーズもできてないからそっちが優先だとムッとした表情で告げられた。



 これで気づくなという方が無理だろう。近くで見ていた流華も気づいたからこそ、この場を設けてくれたのだろう。

 苦虫を嚙み潰したような顔で流華は話し始めた。


夢かわな部屋。SNS映えするけどお値段は高め。なお、写真だけで棄てるという行為をした場合、食堂全使用禁止になるハイリスクつき

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