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My own Sword  作者: ツツジ
本編
83/187

第83話 大胆な布告

日常が戻る

 

 入学式にも使われたホールは、七音達が着いた時点で六割ほど埋まっていた。運よく、今いる六人と後から来る予定の二人が座れる列があった。

 どこかに武蔵達がいるのかと見渡したが、人が多すぎてわからなかった。それが、自由席にした理由の一つなのだろう。

 決められた席順にすれば、空席が今回の被害者なのだとはっきり伝わってしまう。死者が見知った人だという実感に、急に混乱するのを防ぐ為だろう。


 開始まで時間がある。ガヤガヤと騒がしい中、七音も皆との話に夢中になっていた。


 零とヴィンはギリギリ間に合った。璃久斗を見つけた瞬間に噛みつこうとするヴィンを抑え、一番端の席に座らせる。その隣に零が座った辺りで、ホールの灯りが弱まっていった。

 暗くなる客席と反するように明るくなる舞台。そこに用意された教壇で、学園長が立つ。




 挨拶は簡素に纏められていた。


 魔物の上の存在が学園に侵入、死傷者を出したことへの謝罪、黙祷。死者の想いを受け継ぎ、これからも戦う意思表示。

 長いようで短い、それでも想いが込められた話に拍手が送られた。

 次に、新教員の紹介が入った。マサルの事だ。余計な事を言わないかと冷や汗が出たが、前日にSEINで念押しした甲斐あってまともだった。

 まともすぎて、女生徒の黄色い声があちこちから上がった。中身を知らなければ絶世の美形なのだから、仕方ないだろう。




 そうして式典が終わり、普段の日常が戻ってくる。そのはずだったのだ。




 学園長の締めの挨拶の途中に、異変が起きた。舞台の半分もある大型のスクリーンが、降りてきたのだ。

 教員の慌て具合から、それが意図的でないことがわかる。

 プロジェクターが勝手に動き、映像が映し出される。そこには、予想外の物が映った。




『レディース、アーンド、ジェントルマァーン! スバラシイショーの幕開けでゴザイマァァァァス!』




 忘れもしないこの口調と姿。スクリーンに映ったのは、フェーゴだ。

 突然の事に、周りがざわめく。くろえが殺気立つ。七音も、呆気に取られながらも警戒して画面を凝視した。


『エー、現在、水無月学園及び各国のトップにワタクシ様が届いていると思われマッス☆ このテレビ局……ナンデシタッケ? YTヴィジョン? ああ、そんな名前デシタネ! そこを占拠して、独占ショータイムデスヨ! うぅ~ん、VIP席! アメージング!』


 突然の宣言に、さらにざわめきが強くなる。YTヴィジョンといえば、世界最大の放送局だ。

 そこが占拠されたとなれば、ただでは済まない。その上、画面にはフェーゴしか映っていないが、誰かと話している様子が見られる。仲間も画面外にいるのだろう。

 教員がすぐに部隊への出撃指示を飛ばす。だが、それをあざ笑うかのようにフェーゴが話す。


『言っておきマスガァ? ショーの邪魔は許しマセンヨ? ……最も、今更来ても間に合いマセンカラネ』


 そう言って画面が動く。フェーゴ以外に映された光景に、悲鳴が上がった。




 画面越しに映し出される赤、赤、赤。放送スタジオだったのだろう場所は、赤色で塗りたくられていた。

 それが塗料でない事は、天井に向けて走る飛沫や至る所にある人だったものが物語っている。

 そのまま、スタジオの中央を映して画面は止まった。画面には、フェーゴと椅子に縛られた一人の男性がいる。

 高価な服を着た身なりのいい中年の男性は、口に詰め物をされながらも懸命に助けを求めている。

 男性の肩に手を置き、フェーゴは楽しそうに語る。


『ここで生きている人間は、この人しかイマセン! 確か、トップの人デシタッケ? こうなってしまえば、地位なんて関係ゴザイマセンガネ! ……早く本題に入れ? ンンー! 兄弟達はショーの醍醐味がわかってイマセンネェ?』


 やれやれと肩を竦めるフェーゴ。わざとらしく咳払いすると、改めて画面に向けて宣言した。




『まずは自己紹介ヲバ。ワタクシ様達は魔族。魔物を統べる者でゴザイマァス☆ 今まで、適当に魔物へ指示して後は放置、勝手にショータイムをしてもらってイマシタ。 ガ! 今後は裏方からサブへジョブチェェェンジ! マァ、メインキャストではないので、残念ながら大暴れは致しマセン。魔物の数を増やして、一部にワタクシ様達が直接関わる位デス、ハイ』




 明らかな宣戦布告だ。リヴィアの様に直接的ではないとはいえ、今後は自分達も侵攻するという。今の状況が不利になるのは明確だ。

 ざわつきが止まらない中、画面の中でフェーゴは男性の頭を掴んで固定した。


『お伝えすることは以上デス☆ サァ、ショーの開幕を合図する花火を上げマショウ!』


 にこやかに告げると、フェーゴは男性の耳元で大きく口を開く。


 変化はすぐに起きた。


 ボコ、ボコと男性の肌に気泡が立つ。それは徐々に大きく、速くなり、全身に伝わっていく。

 沸騰した湯の様の皮膚を凸凹に膨らませ、耐え切れずに男性が白目をむく。

 次の瞬間、男性の身体が破裂した。飛び散った血塗れの肉片がカメラに張り付き、アップで映し出される。

 あちこちから絶叫が轟いた。画面越しだというのに、逃げる為に席を立って走る生徒。泣きわめく生徒。耐え切れなかったのだろう、嫌な臭いが漂ってくる。


『それでは皆様! 今回のショーは閉幕でゴザイマァス! 次の機会をお待ちしてクダサイナ☆ アァ、戦艦様! ワタクシ様はいつでも貴女様を受け入れマスヨ☆』


 そこで映像が途切れた。周りの騒ぎが、どこか遠くに感じる。それ程までに、七音は真っ暗になったスクリーンを凝視し続けていた。

 どこからか凄まじい怒気を感じたが、恐らく王夢だと気にしなかった。

 結局、混乱する現場を宥めるのに時間がかり、学園再開初日は式典のみで幕を閉じた。






 フェーゴの大々的な宣戦布告から早十日。暦も七月に入り、どんどん夏らしくなっていく。

 そんな中、あの宣言が本気だという事を水無月の教員達、部隊員達は身をもって感じていた。


 魔物の出現回数、数が一気に増えたのだ。


 慌ただしく指示を飛ばす司令部、出撃していく部隊。司令部以外も、教員達が駆けまわっている。

 表向きは普通の部隊に所属している武蔵とくろえも、ひっきりなしに魔物退治へと繰り出している。おかげでこの一週間、二人とまともに話せていない。


 それでも『季夏』としての指令はまだ来ておらず、七音達は他の生徒と同様に過ごしていた。

 

はずだった

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