第82話 心機一転
ほのぼの回
勉強よりも運動。じっとするより動く方。そういう人が長時間、椅子に座って重い話を聞き続けていたらどうなるか。
七音は今、身をもって知った。
「全っ! 身っ! 超痛い!!」
「大丈夫?」
流華の言葉に軽く返しながら、七音は懸命に身体をひねる。その度に、パキポキと骨が鳴る。
それを心配そうに見守るのは、流華と静葉、それにくろえだった。
会議の翌日、学校の再開日。いつも通り三人でバスに乗ろうとする所に、くろえが駆け寄ってきたのだ。
何か用事かと構えていると、くろえは一言。
「七音、香月さん、桜小路さん……その、おはよう……。一緒に行っても、いいかしら?」
もじもじと照れながら言ってきた台詞のギャップに、七音は思わず胸を抑えながら即座に了承した。流華と静葉も、先日の話でくろえに対する敵意などは消えている。
他の女生徒からの視線は、もはや四人には慣れっこなので気にならなかった。むしろ、くろえから近づいて来てくれたことの方が嬉しい。
そうしてバスで移動して来て、門を通り過ぎたところで限界が来た。
元々、朝から身体の節々が痛かった。そこにバスで座って移動したことで、さらに痛みが増した気がする。
この後、再校式典がホールで行われるのだ。悪化する気しかない。
至る場所から骨を鳴らす七音に、見守っていた静葉が口を挟む。
「七音ちゃん、背伸びもしましょう。こう、手を組んで……上に向かって、ん~!」
「わかった。お、おお~!」
「気持ちよさそうね。私もやってみるわ。んっ」
静葉の真似をして、組んだ手を上に上げて背伸びをする。背中と肩が引っ張られて気持ちがいい。
それを見たくろえも同じことをして、四人中三人が背伸びしている妙な状態になった。
何故か、野太い感嘆の声が聞こえてくる。同時に、流華の顔から表情が一瞬で消えた。気づいた七音は思わず二度見した。
「流華ぁ!? どうしたの!?」
「何でもない。ちょっと六つの山に殺意を覚えただけ」
「山?」
「殺意って、穏やかじゃないわよ……?」
「なら、流華ちゃんも背伸びしてリラックスしましょう?」
「死刑宣告?」
「「何で!?」」
急な変化に戸惑いを隠せない七音と静葉。周りから聞こえてくる、驚異の脅威やら驚異の格差社会やらの知らない単語が原因なのだろうか。
そのまま、辺りを見渡す。視界に映る生徒達の姿に、七音はほっとした。
一週間ぶりに見た当たり前の光景が、懐かしく思えた。先日、しんと静まり返った学園を見たからか、余計にそう感じる。
そこへ、人波をかき分けて勇人が現れ、こちらに近づいてきた。その後ろから、璃久斗も追いかけてくる。
「おっす七音~流華~静葉~樫城~」
「勇人君おはよう! 風浦君も!」
「……はよ。くろえ、上手くいっったぽいな。良かったぜ」
「ええ、アドバイスありがとう、璃久斗」
七音に一言だけ告げ、すぐさまくろえの前に陣取る璃久斗。比べなくともわかる程、素っ気ない態度だ。
くろえは今までと違って交流を図ろうとしているが、璃久斗にその気は全くないようだ。
ある意味、璃久斗の方が面倒な性格をしている。くろえだけを視界に入れ話す璃久斗を見ながら、七音は違和感を覚えた。
何かが足りない。こういう時、何かが起こったはず。その答えはすぐ、静葉によってもたらされた。
「あれ? ヴィンさんが来ないですね?」
「変。いつもなら、突撃して自滅している」
「ああ!」
二人の言葉に納得がいった。周りを気にせず、くろえまっしぐらなヴィンがいないのだ。それを窘める常識人、零もいない。
女子三人の視線が勇人に向かう。勇人は言いづらそうに、璃久斗の方をちらちら見ながら口を開く。
「……風浦がな、そのな、すごかった」
「凄いって何が?」
「…………ヴィンを一発KO」
「「「え!?」」」
驚く三人に、遠い目をしながら勇人は語った。
朝、バスを待つ三人に璃久斗が話しかけたことから始まった。
理由は簡単。くろえが七音達と登校すると意気込んでいたので、勇人達と行動すれば早く合流できると考えたからだ。
勇人と零はそういう思惑があろうとなかろうと、仲良くなるきっかけになると快く受け入れた。
だが、ヴィンは違った。元々、くろえのパートナーであり恋人でもある璃久斗が気に入らないと、不機嫌を隠さずに不満を矢継ぎ早に言い放ったらしい。
単なる言いがかりなので、璃久斗は無視していた。状況が変わったのは、ヴィンの一言だ。
「お前にくろえ様は釣り合わない! 俺が貰う!」
そう宣言した次の瞬間、璃久斗が動いた。
目にもとまらぬ速さで動くと同時に、ヴィンに向けてラリアットをくらわしたという。
轟音を立ててその場に叩きつけられたヴィンを、璃久斗は冷たく見下ろしていたという。完全に殺意があったと、勇人は怯えた。
脈を確認した零はホッとしたようだが、気を失っていたらしい。
その為、零と勇人は別行動となったようだ。勇人と璃久斗は先に学園へ向かい、七音達と合流。零はギリギリまでヴィンの回復を待つことにしたようだ。
式典の自由席の為、皆が集まって座れるようにと余裕を持ってバスを選んだ甲斐があったようだ。
「……ラリアットって……あんな音出るんだなぁ…………」
乾いた笑いをしながら勇人が呟く。七音達はそれを聞きながら、璃久斗の方へと振り返る。
それも気にせず、璃久斗はまだ、くろえと甘い談笑をしている。今の様子から出は想像できないほど、互いへの執着は重いようだ。
気分を変えるべく頭を振り、ホールに向かうべく皆を説得する七音だった。
戻ってきた日常パート




