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My own Sword  作者: ツツジ
本編
74/187

第74話 くろえの過去、運命の出会い

くろえ、一人ぼっちからの脱出

 

 大勢の人間と同じように動くという行動が苦手だ。特に、相手が自分に敵意や変な信愛を持っているなら、余計に近づきたくない。

 卒業式は何とか耐えたが、この中学校は近くの小学校全てから入学生がいるマンモス校。

 確実に増える人数に耐えられそうになく、父母は仕事で来れない。


 出なくてもいいのでは。そう考えたくろえは、親衛隊に助力を請うた。


 先輩にあたる人物も中にいるようで、当日に屋上の鍵を手に入れることができた。

 曰く、生徒の立ち入りは原則禁止されているが、鍵を持つ教師が屋上は青春の一ページと豪語しているので、簡単に借りられるらしい。

 鍵を制服に隠し、新しいクラスに入れば中にいた生徒の視線が突き刺さる。

 同じ学校の生徒はもちろんの事、他の学校出身でも噂は聞いているのか、くろえに近づかずに遠巻きに見ていた。


 簡単なHRを行い、担任が事務的に体育館へと移動を誘導する。不自然にならないよう隙を見計らい、人の流れに逆らって階段を上っていく。

 いくつかの階を通り抜け、立ち入り禁止の立て札の奥に鍵のかかった扉がある。立て札を通り抜け、鍵で扉を開けた。


 爽やかな風と綺麗な青空がくろえを迎える。


 広い空間に端にはフェンス。今いる扉は四角く上に出っ張った構造をしているようで、中央辺りまで歩いて振り返れば貯水槽が上に設置されていた。

 そのままフェンスの傍に行けば、校庭に植えられた桜という花が見事に咲く様がはっきりと見えた。

 強めの風に花びらが舞い、ピンクの絨毯が美しい。

 うっとりとして小さく息が漏れる。

 視界を横に逸らせば、入学式が行われている体育館が映る。

 今頃、大勢の生徒が密閉した状態で長い話を聞いているのだろう。想像しただけで嫌になる。想像を振り払い、桜を満喫する。

 ふと、後ろから人の気配を感じた。振り返って見えるのは、ここへ来るための入り口。その扉の先に、誰かがいるようだ。

 それを確認した直後、ゆっくりと扉が開かれた。




 一人の男子生徒だった。


 鋭い眼光に着崩した制服と素行がいいと言えないスタイル。

 ネクタイの色がくろえのリボンと同じ色なので、同じ新入生だ。見覚えがないので、他の小学校の生徒だろう。




 男子生徒はくろえの存在に一瞬驚いたようだったが、すぐに冷静になり後ろ手で扉を閉めた。


「ここ、開いてるとは思わなかったが……あんたが開けたのか?」


 くろえに近づきながら問いかける男子生徒。向こうも同級生と判断したらしく、最初からタメ口だ。

 こうも親し気に話しかけてくる人は久しぶりだ。最近は親衛隊達の過剰な敬語ばかり聞いていたからか、新鮮だ。


「ええ。ちょっとした経路で、鍵をお借りしたの。こんなに景色がいいとは思わなかったわ」

「だな。サボりに来て景色もいいとか、最高じゃねぇか」

「……入学式、出なくていいの?」

「……そういうあんたも、ここにいるだろ?」


 思わぬ返答に目を丸くする。いつの間にか隣に来ていた男子生徒と見つめ合って数秒後、二人同時に噴き出して小さく笑う。

 こうして人と話して笑い合うなど、くろえは初めてだった。こんなにも楽しいことなんだと、改めて実感した。


「……綺麗だな」

「ええ。桜の絨毯、素敵よね」

「あ、ああ、そうだな」


 会話が少しずれている。だが、浮かれているくろえは気づかなかった。


「……俺は風浦璃久斗。あんたは?」

「私? ……樫城くろえよ」

「樫城……」


 苗字に何か引っかかりを覚えたのか、少し考えこむ。やはり、噂になっているのだろう。

 思い出したが最後、この楽しい時間は終わり。その未来に表情を暗くしていると、不意に手を握られた。

 びっくりしていると、真剣な顔をした彼が口を開いた。


「んなもん、どーでもいい。俺がどう思うか勝手だ」

「え、でも、か、風浦、君……?」

「璃久斗でいい……くろえ。またここに来ようぜ?」


 胸の奥が熱い。顔が熱い。初めての症状に困惑しながらも、くろえは首を縦に振るのだった。




 璃久斗は隣の教室だったらしく、休み時間や昼休み、放課後にはくろえの様子を見に来てくれた。




 昼休みには昼食を隣り合って食べ、放課後には屋上で校庭を見ながらいろいろと話す。

 それだけで、今までの学校生活に色が付いたように楽しくなった。

 同時にイジメが再発した。

 悪知恵も成長したようで、悪口が援助交際しているなどの事実無根な噂になり、私物破壊の様が匿名メールで送られてくる。

 面と向かってこない分、苛立ちが募る。それ以上に、親衛隊がくろえを守ると奮起するのが厄介だ。

 余計に関係を悪化させている事を、ヒーロー気取りの男子達が気づくはずがない。

 そもそも、主犯はわかっているのだ。ただ、対処の仕様がないだけだ。






「璃久斗!」


 勢いよく扉が開かれ、甲高い声が屋上に響く。中央で弁当箱を広げていたくろえと璃久斗は慣れたもので、動じていない。

 つかつかと近づいてくる女子生徒は、群青の艶やかな長髪をなびかせ、自分と同じ顔つきと璃久斗に向き合う。


「璃久斗! 何で私を残していくの!? 今日は一緒にご飯食べるって言ったじゃない!」

「お前が勝手にそう言ってただけだろ、乃絵瑠。俺は了承してねー」

「何で!? 今まではずっと一緒だったでしょ!?」

「じゃあ、ここで食うか?」


 そう問いかける璃久斗は、どこか疲れて見える。くろえが考える前に、乃絵瑠と目が合った。

 敵意に満ちた眼差しがくろえに刺さった。


「嫌よ、こんな女の傍にいるの。璃久斗を返してよ」

「俺は自分の意志でここにいる。さっさと戻れ。教室に何人か待たせてんだろ?」


 冷静に返されて、乃絵瑠は言葉を詰まらせる。頭に血が昇り顔を赤くした状態で、小走りで屋上から去っていった。

 扉が叩きつけられる音を聞き、二人はため息をついた。


「悪ーな、くろえ……」

「いいわよ。もう、慣れたわ」

「あいつ、諦め悪すぎだろ……」

「大切な家族だからじゃないの?」


 中断していた準備を進めながら、乃絵瑠についての愚痴が零れる。


 風浦乃絵瑠。璃久斗の双子の姉であり、唯一の肉親だ。


 新入生代表を任されるほどの優等生である反面、璃久斗に対してはかなり過保護だ。


 そもそも、璃久斗が入学式をサボった理由が、乃絵瑠の挨拶が自分の事で八割ほど埋められていた故の羞恥によるものだ。


 家族としては大きすぎる愛情を注ぐ相手が、自分以外の女子生徒、それもイジメと反撃の噂が他校まで流れるような女と親しいのが気にくわないようだ。


 優等生として生活する一方、人を使ってくろえへのイジメを助長させている。


 下手に止められない理由がこれだ。流石に、唯一親しい相手の姉を摘発するわけにはいかない。璃久斗が直接言っても、証拠がないとのらりくらりだそうだ。

 璃久斗を取られたという乃絵瑠の鬱憤を、イジメで解消している。そう考え、面倒だが現状維持をすると少し前に璃久斗と決めた。

 この話題は終わりだと、くろえは弁当の卵焼きを口に放り込んだ。

 

Q.毎日屋上に行くのに鍵はどうしたか

A.親衛隊化した教師の職権乱用によりスペアが渡された

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