第73話 くろえの過去、小学校
書きたかったシーンが書けて満足
小学校入学による、友人間の付き合い。
そこで初めて、仲良しグループというものの存在を知ったくろえだが、生理的に受け入れなかった。
群れを成すのは弱いから。そういった魔族の考え方が染みついているのかもしれない。
だが、笑顔で話し合った相手も見えなくなれば陰口悪口。仲良しグループは常に一緒でトイレも一緒でないとダメ。何でもお揃いで、少しでも違うところがあれば裏切り者。
そういったドロドロ加減が、好きになれなかった。折角の楽しい人間生活、余計なトラブルは起こしたくない。
結果、くろえはどの女子グループに入らず、当たり障りなく付き合うことにした。
男子は高嶺の花扱いで積極的に関わらなかった為、くろえは一人ポツンと過ごすようになった。
ただ、魔族だった時は一人行動が当たり前。学校では一人も、家に帰れば優しい父母がいるのだ。特に困ることはない。
だが、それが女子たちの反感を買ったらしい。
陰口悪口、無視に物を隠す、壊す。いわゆるイジメと呼ばれるもののターゲットになってしまった。
わざわざ離れているのに、群れで気が大きくなって攻撃してくるとは。あからさまにくすくす笑う女子たちを尻目に、くろえは冷静だった。
だからといって何も感じないわけではなく、ふつふつと沸く怒りを抑えながら後片付けをする。
口を開けば悪口しか言わない女子たちの言葉でも、魔物という単語が出ると一瞬ドキッとした。
授業で習った悪側に自分を例えているだけだとわかっていても、つい身構えてしまうのは仕方がないことだと思う。
無反応が余計に女子たちの気分を害したらしく、どんどんと子供の発想ながらも内容がエスカレートしていく。
その中で、誰かが親からでも聞いたのだろう。
「気味の悪い貴方を育てるご両親も変人ね!」
その一言は、鬱憤の溜まったくろえを行動に移すには十分だった。
言った子の胸倉を握りしめ、思い切り振り下ろす。床に叩きつけられ、状況すらわかっていない子の肩に足を乗せた。
少しずつ体重を乗せれば、痛みで涙目の子の顔がさらに歪む。
それを冷ややかな目で見降ろし、口を開く。
「それ、意味が分かって言っているのかしら?」
感情を感じられない冷たい声色に、クラス中のざわつきが一瞬止まる。しかし、今のくろえには関係ないことだった。
「私のことはいくら言っても構わない。でも、両親まで馬鹿にする権利が貴女にあると思う? あるわけないでしょ? お友達と一緒でいなければ何もできないお子ちゃまのくせに」
足元の子の涙が止まらない。痛みではなく、自分に対する恐怖の感情によるものだとくろえは察していた。
「最初の一回だもの、今回はこれで終わりにしてあげる……どういうことか、わかるわよね?」
肩を踏みつけていた足を上げ、靴先を這わせるように動かす。そして、その子の左胸で止め、にっこりとほほ笑んであげた。
二回目はない。
そのメッセージを全身で受けた子は千切れそうな程に勢いよく頭を縦に振る。それを見届けてから、ようやく足をどけてあげた。
よく見れば、その子の下腹部が濡れており、下半身に水たまりができている。あの程度で失禁したのかと、くろえは人間の弱さを再確認した。
何とも言えない空気を変えるように、教室のドアがガラッと開いた。
そのまま息の荒い担任が教室に飛びこみ、惨状を見て息を飲む。誰かが呼んだようだ。
「何があったんだ? 樫城! お前が何かしたのか!?」
正義感溢れる担任としての言葉。それを受けたくろえは小さく笑った。
「あら、先生。毎日のイジメは見て見ぬふりなのに、一回の反撃は取り締まるのですか?」
「なっ……!?」
「私を罰するのは結構ですけど、他の女子たちのイジメも露見して、先生のイメージが崩れるのでは? まぁ、お任せしますけど」
そう言ってクスクス笑うくろえ。そこには小学校低学年の女児らしからぬ妖艶さが滲み出ていた。
気が付いたのは担任だけだったが、彼の頭はこの状況をどう処理するかでいっぱいだった。
担任はこの出来事も隠蔽することを選んだらしく、それ以上大ごとにはならなかった。
正直、父母に迷惑がかかると後から気づいたくろえだったため、この対応には助かった。
女子たちのイジメは相も変わらず続いていたが、さすがに頻度は減った。
直接的に手を出そうとはせず、程度の低い悪口と物に対して何かする程度に留まっている。これに関しては、くろえ自身が許容しているので別に構わなかった。
目立った変化をしたのは、むしろ男子の方だった。
高嶺の花だったくろえによるあの出来事は、見ている方にも恐怖を与えたらしく、前よりもよそよそしく遠巻きになっている。だが、一部の男子は逆に急接近してきたのだ。
勝手に召使のように動き、とりあえずお礼を言えば狂喜乱舞。まとわりつきがわずわらしくなり、下手に言っても聞かなかった。
ついこの前のように冷たく突き放せば、これに対しても狂喜乱舞。さすがに気持ち悪かった。
家で父母に相談してみれば、スナイパーライフルを持ち出そうとする父を制止しつつ、そういう性癖の人間がいるということを母から教えてもらった。
様々な人間を見てきたと思ったが、そういう者もいるのかと鳥肌が立ったのを覚えている。
そう言った人間たちが親衛隊なるものを作り、その中に教師までいると聞いた時はさすがのくろえはドン引きするしかなかった。
そうして日々を過ごし、中学校初日。くろえは運命の出会いを果たした。
ヴィン「その子そこ変われ」
零「うわぁ……」




