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My own Sword  作者: ツツジ
本編
7/187

第7話 特待生

ちょっとした事実判明

 

「マジか~。全然知らないって、逆にすげぇよ」

「テレビの特集はお兄さんに邪魔されてたんだっけ?」

「そう! 録画もできないようにしたよ~って、ほんっと酷いよね!?」

「そこまでするって……怖っ」

「それに、友達はみんな興味ないから、そういう話もできなかったんだよね~」

「あー。中には嫌なやつとかいるもんな」


 一人の言葉に全員頷く。水無月の魔物退治の生々しさを受け入れがたいという人は少なくない。

 特に、うら若き男女たちが戦いの場に立つという点が、平和な日ノ国の人をさらに遠ざける要因となっていた。


 華ノ国や利ノ国といった大国では銃の携帯が許可されており、そういった生々しい事件は身近でも起こるものだと考えてられている。

 それ以外の小国では戦争や内地反乱などが起きている国が多い。

 日ノ国はそういった事に縁遠く、水無月への進学も各国の中でも少ない方だ。



 実際、この場にいる他の生徒は日ノ国の近隣の国々出身で、殆どが友人と共に進学するようだ。

 船内から見ていたが、日ノ国から乗った生徒は七音を含め十人ほどだったらしい。



「でも、『戦艦様』は日ノ国出身なんだよ! 羨ましい!」

「んん? ってことは、誰かのあだ名みたいなもの?」

「そう! 特待生の先輩だぜ!」






 水無月学園の特待生制度は他の学校と異なる。学力、財力も関係ない。






 その条件とは、『既に適合、および戦闘が可能な男女』である。






 水無月学園高等部で授業は受けるものの、適合は男女間の遺伝子相性と本人たちの感覚に頼らざるを得ない。

 うまく適合できたとしても、適合率が低い可能性がある。


 三年間の学園生活の中で、適合相手を見つけて適合率を上昇させる。

 これが水無月学園の大まかな目的である。


 だが、入学前に大前提である適合ができる男女が稀にいる。大きな戦力になるペアを、水無月学園としては逃すわけにはいかない。

 学費免除、その他諸々の好待遇を見返りに、学園に招き入れて戦力になってもらう。これが、特待生制度である。





 数少ない特待生の一人が、『戦艦様』らしい。





 通常、適合は女側一人に対して男側一人が基本形である。

 男側を増やすことは可能だが、女側の負担が増え、適合の質が落ちやすい。その為、多くても二人が今までの限度だった。



 その常識をひっくり返したのが『戦艦様』だと、周りの生徒が鼻息荒く語る。



 十代後半が最も適していると言われる適合を幼少期に成功させ、その場で魔物を一体退治。類稀なる戦闘センスに加え、彼女の適合相手は三人だという。

 貴重なケースに、水無月学園は全力を挙げ彼女のサポートに徹した。


 地元を離れることを嫌がった彼女の為に、小、中学校で通信機の携帯と魔物との戦闘許可をもらい、有事の際は現場に赴いてもらった。

 近隣に魔物が出現した場合のみだったが、それでもその戦闘力をいかんなく発揮し、戦績を伸ばしていった。


 今は水無月学園高等部に在籍中で、今まで同様に現場に向かうことが多い。

 迷いのない動き、的確に魔物を屠っていくその姿からついたあだ名が『戦艦様』。


「『戦艦様』すごーい!」

「でしょー!?」

「しかも、日ノ国出身だぜ?それであの活躍っぷり……ほんとすげぇよ!」


 生徒の口から飛び出すいくつもの武勇伝に、七音は目を輝かせた。

『戦艦様』は七音が目指す理想像そのものだった。憧れが重なり、『戦艦様』のイメージ図が武蔵の姿で想像される。


「武蔵さんみたい!」


 ぽろっと口から出た言葉に、周りがぽかーとんと口を開いた。それを見て七音はハッとする。

 ここにいる皆は『戦艦様』を憧れているというのに、他の人と似ているとなんて言われたら侮辱と思われるだろう。

 どう言いつくろうか迷う七音に、皆がひそひそ話を始めてしまった。きっと悪口だろうと、少し気持ちが下がってしまう。


「ねぇ、今、武蔵って……」

「別の人じゃねぇの?」

「でも、よくある名前じゃないでしょ」

「それにほら、確かに妹みたいな人がいるとかいう話だぜ? 詳しくは知らんが」


 皆の視線が突き刺さってくる。どうにもできずにいるところで、飲み物を買いに出かけていた一人が戻ってきた。

 異様な雰囲気を感じ取ったらしく、首を傾げている。


「どーした?」

「いや、特待生の話になってな? それで」

「特待生……今年の奴?」


 瞬間、先程までの熱気が嘘のように場が冷えた。


「ばっか! てめぇ! 今いう事じゃねぇだろ!!」

「そ、そうよ! 全く!」

「えぇ!?」

「罰としてこの場の全員にジュースね」

「ちょ、勘弁してくれぇ~」


 コントのようなやり取りで、周りが笑い溢れる。七音も笑みを零して、時間を確認した。

 楽しい時間はあっという間に過ぎるというが、その通りだった。一時間ほど過ぎている。名残惜しいが、他の談話室にも行ってみたい。


「ごめん、私、そろそろ抜けるね」

「え? なんかあるん?」

「ううん。他の部屋にも行ってみたいの! みんな、色々教えてくれてありがとう!」

「こっちこそ楽しかったよー! またね、七音ちゃん!」


 笑顔で手を振ってくれた皆に手を振り返し、七音は部屋を出た。



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