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My own Sword  作者: ツツジ
本編
6/187

第6話 交流

本日2話目となります

 

 部屋の中は、簡素なものだった。

 簡易ベッドと机に椅子、壁には時計、それにトイレへ繋がる扉。中を確認すると、清潔感のある洋式トイレだった。

  机に荷物を置き、スマホを取り出しながらベッドの上に腰掛ける。それだけで、疲労感が一気に襲ってきた。

 朝からドタバタしていて、落ち着く時間がなかったからだろう。


「はぁ~」


 大きなため息をつきながら、あまり柔らかくはないシーツの感触を堪能する。時計を見れば、出港からまだ十分もたっていなかった。


 これから憧れていた学園だというのに、気分がそこまで上がっていない。


 先程の女子生徒たちとのやり取りと響の言葉が頭をよぎる。

 憧れを高く持ち過ぎていたのかもしれない。そう考える七音の手元では、スマホが断続的に振動していた。

 嫌な予感に顔をしかめつつ画面を開けば、SEINの通知が999+となっていた。


「うわぁ……」


 ドン引きしている間にも、またSEINが通知を知らせてくる。相手はマサルだった。そして、今までの通知欄を埋めた相手もマサルである。


 もはや、嫌な予感というより嫌な事実である。


 トーク画面を開けば、朝の出来事の謝罪が四割。家に戻ってきてほしいという願望が六割。

 それが連続で送られてきており、もはや何の感情も湧かず真顔だ。


『また後で連絡する。しつこいの嫌い』


 スタンプも記号も使わず、それだけの文章を送る。すぐさま既読が付き、途端にトークがピタリと止まる。

 わかりきった結果にため息をついたが、まだトークの通知があることに気付いた。その相手に、目を開いてすぐにトーク画面を開いた。


『はよっす! 七音、船乗れた? 乗れたならいいんだけど、乗ってるやつの中にあたいの従兄妹いるんだ!』

『ほら、前に話した響! あいつ! あたいの話聞いて、七音は興味あるって言うんだけどさ~。基本、あいつドライなんだよな~』

『仲いい奴以外は、どーでもいいって感じ? それか、研究対象くらいにしか思ってないんだぜ? 特に、人を見下す奴とかは大っ嫌いだと。まぁ、それはあたいも同じだけどな』

『ま、そんな感じだけど、一応悪い奴じゃないからよろしくな~』


 いくつかのスタンプと共に送られた、武蔵からメッセージ。

 マサルのどうでもいいメッセージに埋もれていた重要な内容に、思わず肩を落とす。


「情報遅いよ……」


 ぽつりと呟くが、非は自分にある。やり場のないもやもやの全てがマサルへと向かう。

 その衝動に背中を押され、七音はマサルからの通知をオフにした。とりあえず、今日一日が終わるまではこのままにしよう。


 できればこの設定のままでいたいが、完全に無視すると後で厄介なのだ。

 前に無視した時は丸一日が経った後に、マサルがあの手この手で居場所を突き止め迎えに来るという荒業を見せた。

 今回は行き先が決まっている為、どういう事が起こるか容易に想像できてしまう。



 どんどん気分が落ち込んでいく考えを、七音は首を横に振って無理矢理吹き飛ばした。これ以上、頭が痛くなる想像に費やす時間はない。

 気分を改め、七音は船内を回ることにした。お気に入りのミニバッグに財布、スマホ、ハンカチティッシュがあることを確認する。

 ふと、視界に入るのは、バッグの中に詰め込んでおいた脱臭スプレー。

 先程の女子三人組の嫌味な顔と香水の匂いを同時に思い出し、ミニバッグへと移したのだった。








 船内を回ると言っても、普通の客船とは違って生徒の個室が大半を占めている。



 余ったスペースに学園関係者用の部屋や船の設備などが詰め込まれており、残った部分としていくつかの談話室があるようだ。

 近くの談話室を覗き込めば、いくつかの椅子と数台の自販機が設置されており、新入生同士が楽しそうに話している。

 新しい友人を作るチャンスである。意気揚々と七音は部屋へと乗り込んだ。


「おはよー! あたし、七音っていうの! 一緒に座ってもいい?」


 フレンドリーに声をかければ、相手からは笑顔で了承を貰えた。


 そのままいろんな相手と会話を始めると、話題はすぐに水無月学園に対する期待や希望になる。その度に新入生同士、話が弾んだ。


 この部屋にいたのは七音のような外部入学者ばかりで、先程の香水臭い生徒のように見下す人がいないということが大きいのだろう。

 同じような目にあったらしく、そこに触れるとみんな一様に渋い顔をした。

 中等部からの進学者は何グループかに分かれ、同じように自国に寄る船に乗るようだ。

 その中でも、この船の内部進学者は噂以上にプライドが高い人ばかりらしい。

 嫌な気分になる為、その話題は速攻で捨てて別の話で盛り上がっていく。


「私、『戦艦様』に憧れているの!」

「わかる! 私もだよ!!」

「女子はそうだよな~」

「すっげー活躍してるもんな。他校のダチもファンって言ってたし」

「『戦艦様』?」


   話が最高潮に差し掛かっている中、聞きなれない単語に首を傾げる七音。

 瞬間、周りの視線が七音一点に集中する。皆の驚愕の表情が突き刺さり、少し居た堪れなくなる。


「うっそだろ……知らない奴いるのか……?」

「学園の情報とか、調べなかったの……?」

「調べた…………。うん、そういえば戦艦って書いてあった気がする……でも、船の方かと……」

「詳しく見てないってこと?」


 その通りだと、素直に頷いた。その様子に、周りは呆れたように笑った。


ストックを貯めつつ更新していますので、週二で1話ずつか週一で2話連続更新を目標にしたいです

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― 新着の感想 ―
[一言] 興味深く拝読させていただきました。 容赦なく襲い掛かる恐怖描写から、主人公の行動の動機づくりとなり、話を見事に展開されていますね。引き込まれるように読ませていただきました。 折を見て改めて拝…
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