第46話 浮上する意識、流華の目覚め
戦闘前に、レギュラー陣1名復帰
意識がゆっくりと浮き上がる。そうして最初に感じるのは、直前の記憶。
体が重い。息が荒い。それでも、張り詰めた緊張を解くことはできない。
騙された、噂は本当だったのだ。
流華はその立場に立ってようやくわかった。
目の前にいる五匹の魔物。一匹でも、初戦闘の自分では危うい敵だとわかる。隙を見つけて倒せたと思った次の瞬間には、新たな個体が出現している。
明らかにおかしい。このシミュレーションを設定したのはアレクだ。
流れる様にパネルを操作する横顔を眺めていた流華だったが、こうなるなどと微塵も思っていなかった。
『おいおい! そーんなへなちょこで俺様を使いこなせると思ってたんか!? 甘ぇんだよ!』
悪態をつく声は紛れもなく、憧れていたアレクの声だ。武器を振るう度に飛んでくる罵詈雑言。初戦闘、強い魔物、全てが重なり、体力気力をどんどん削っていく。
アレクと適合した生徒は心を病んで島を去る。
適合を避けろという忠告と共に、ロビンに口酸っぱく言われていた噂だ。
それを流華は流していた。ただの噂だ。ほんの些細な事でもすぐに巡るこの島で、たまたま精神に異常をきたした女子生徒が直前にアレクと適合していただけ。そう思い込んでいた。
それが正しかったのだと、身をもって知った。憧れの人からこのような仕打ちを受ければ、十代後半の女子の心は簡単に砕けるだろう。
だが、流華は耐えた。もはや雑音でしかないアレクの言葉を聞き流し、目の前の敵だけに神経を注ぎ、回避に専念する。
シミュレーションとはいえ魔物に殺され、その前後で心折れて精神を病む。そう仕組んだアレクの思い通りになることだけは避けたかった。
その願いが届いたのか。急に魔物が消え、風景も消えた。シミュレーションが止まったのだろう。
緊張の糸が消えれば、残るのは大きな疲労だけ。どっと押し寄せる疲れに適合が解け、意識が薄れていく。
「チッ。可愛くねー女」
吐き捨てる様に言われた言葉。
そんなことは、自分が一番わかっている。そう返す間もなかった。
「………………華、流華!?」
「ろ、びん……にいさ…………」
呼びかけに答えるよう、ゆっくりと目を開ける。真白の天井を背景に、ロビンが覗き込んでいた。流華と目が合ったことに、ロビンはほっとした。
「よかったさぁ……! 急に魘されだした時は、どうしたもんかと……!」
「…………何日、寝てた?」
自分の身に何が起きたかはすでに分かっている。上手く動かせない身体は、一日以上は過ぎていると流華に教えていた。流華の問いに、ロビンは顔をしかめながらも答える。
「丸三日さぁ」
「…………三日…………」
「……流華。あいつとだけは適合するなって、俺っちは言ったさね?」
険しい顔つきでロビンが話しかける。目を見据えながら、流華は小さくうなだれた。それを見て、ロビンが口の端を上げる。
「まぁ、無事だったからよかったさぁ」
安堵するロビンを、流華は静かに見つめていた。ロビンの忠告を聞かなかった自分の責任なのに、ロビンは自分の所為だと思っていたのだろう。
世話焼き気質は相変わらずだ。
徐々に力が入る様になり、ベッドの柵を使って上半身を起こす。慌ててロビンがフォローしようとしたが、何とか手を借りずに済んだ。
そこで、空咳が一つ出た。水分を取っていないから、喉がカラカラだ。
「ああ、喉が渇いてるんさね? 買ってくるさぁ」
立ち始めたロビンに声をかけようとしたが、流華の口から出たのは掠れた音だった。先程、会話が成立したのは奇跡だったようだ。
ロビンの後姿と閉まるドアを、流華はただ見ていた。がらんと静寂な部屋の中、いるのは流華一人。
まるで、昔に戻ったようだ。アレクが最後に言った言葉の所為か、過去の記憶が脳裏をよぎる。
次回も流華のターンになります




