第43話 心配と信頼
日にちが進みます
心身ともに消耗しきった状態。
初めての適合でたまに起こす人がいる症状。
回復しきるまで眠り続けるが、数日後には何事もなかったように目が覚めるだろう。
養護教員の言葉に、七音は大きく安堵した。一緒にいた勇人達も同じような反応をしていた。
運ぶ際中、ピクリとも動かない流華に最悪の結果が頭に浮かび、生きた心地がしなかったのだ。
寮に戻るよりもここの方がいいだろうと、医務室のベッドに流華を横たわらせてからもう三日目だ。
授業の時に隣の空席ばかり気になって、いつも以上に集中できない。
本日最後の座学が終わり、保健室へ寄ろうと速攻で荷物を片付ける七音達。そこへ、どうでもいい人達の聞き捨てらならない会話が聞こえてきた。
「まだぶっ倒れてるの、ダッサー!」
「てゆ~か~、アレクさんのチョー失礼じゃね?」
「ホントそれぇ! あり得な~い!」
あざ笑うような暴言に、七音は手を止めて声の主を睨みつけた。いつものキラキラネーム三人組だ。
視線に気づいた後も、馬鹿にするようにけらけら笑ってる。
「やだー! 図星だからって睨むとかマジないわー!」
「コワッ」
「きもぉ~」
「気にすんな七音。悪の戯言を聞いてたら脳みそ腐るぞ」
「自分的には、『偉いあたち達を無視してアレクさんと適合したのズルいでちゅー』っていう意味だと思いますよ」
「あのモデル、それから他の奴と適合したって話聞かねーしな。ざまぁ」
「そうですよ。そんなことより、早く流華ちゃんの所に行きましょ?」
「「「んだとゴラァ!?」」」
煽られ慣れてないのだろう。こちらの反応に簡単に激怒する三人組に、少しスッとした気分になる。
だが、流華を馬鹿にするのは許さない。
三人に見える様に掲げるのは、脱臭スプレー。それも、携帯サイズではなく家庭用の大容量だ。
噴射口を向ければ、数か月前の出来事を思い出したようで顔色を変えた。学校が始まってから毎日、鞄に入れておいてよかった。
静かになった三人をよそに、医務室を目指す。
医務室がある棟は病院レベルの設備を取り揃えてある医学棟で、訓練棟と一年が使う校舎の道のり上にある。
そこを目指して歩いていると、不意にスマホを取り出して確認した零が足を止めた。
「あ、皆さんストップです!」
「正義は急には止まれない!」
「勇人自身は止まれるだろ!?」
「そうだった!」
「どうかしました?」
「SEINにロビンさんからの連絡がありまして」
そう言いながら、零が内容を口にする。数日前からのシルヴァンの体調不良がまだ治らず、二年生は座学が一時間休校になったようだ。
そのままの足で、ロビンは医務室に向かったらしい。まだ流華が目覚める様子がなく、このまま自分が傍にいるから、やりたいことをした方がいいとのことだ。
きょとんとして七音は皆と顔を見合わせた。
確かにこの二日間は、座学終了からバスの最終発車まで流華に付き添っていた。だが、純粋に心配だからであって、別に苦でも何でもない。
その考えを読み取ったのか、零が言葉を付け加えた。
「多分というか確定ですが、ロビンさんは心配してるのかと。前線で活躍する人たちというのは、多くが一年生の前半にパートナーを見つけて適合率を上げることに集中しますからね」
「つまり、くろえ様と組むのは早い方がいいんだな!」
「それ以前に、彼女はもう相手が」
零が言い終わる前に、ヴィンはくろえの名を叫んで走り出した。徐々に小さくなる叫びに、もはや笑いも出ない。
空気を変えるかのように静葉が小さく手を叩いて、にっこりと自分の考えを話した。
「そういうお話なら、お言葉に甘えないと失礼になってしまいますね。今日はロビンさんにお任せしましょう」
「静葉、でも……」
「七音ちゃん。流華ちゃんが心配なのは分かりますが、ロビンさんの気遣いが無駄になってしまいます。それに、ロビンさんを信用していないという事にもなってしまいますよ」
「…………わかった」
ここまで丁寧に説明されて、理解できない七音ではない。無理やり気持ちを切り替えている七音に、静葉がそのまま話を続けた。
「実を言うと…………急ではないものの用事が何件かありまして、もし可能ならそれを片付けたいのです」
「お? 教団の集会?」
「教祖の演説?」
「だから宗教ではないですってば、もう!」
慌てて否定する静葉に、ニヤニヤと笑う七音と勇人。よく見る光景の為、零はただ見ているだけだ。
そのまま静葉もこの場から去っていき、残されたのは七音、勇人、零の三人だった。
「それにしても、どうすっかな?」
「流華のお見舞いしか考えてなかったから、何も思いつかない」
「おや? お二人は適合の訓練の時間と考えればいいのでは?」
零がそう提案した瞬間、二人がその場で崩れ落ちた。慌てふためく零に対し、脱力しながらも答える。
「……………………できねぇんだよ」
「……………………なんでぇなのぉ?」
零やヴィン、静葉に性格が似ていると言われた七音と勇人。初日に二人で思い付く限りの方法をいろいろと試してみたが、適合のコツを欠片も見出させていない。
元々、頭を使うよりも身体を動かすタイプの二人だ。そこでネタは尽きており、いわゆる行き詰まり状態だ。
言い分を聞いた零はこめかみを抑えながら、確認をする。
「えっと……二人が試した方法って、フォーメーションだと言ってポーズをつけたり、決め台詞だと掛け合いをしながら触れたりでしたよね?」
「そうだよぉ」
「ヒーローっぽいだろ?」
「…………それを数時間で、ネタ切れですか?」
「何かいい方法あるん?」
零が大きくため息をついた。それを聞いて起き上がる二人。
「何だ今のため息!?」
「どういう意味?」
「いや……その…………特撮とは違うのですから、変身ポーズもフレーズも必要ないですよ?」
「それは勇人君が」
「あった方が気分違うだろ?」
「根本が間違っていますよ。そうですねぇ……自分的には、煮詰まった状態で試すより、カフェテリアでも訓練場の三階でもいいですから、もっと話し合って考えを合わせていくのがいいかと」
その提案に、二人は目から鱗でも落としたと言わんばかりの顔になった。また一つ、零の口からため息が漏れる。
運動>>>勉強な七音と勇人




