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My own Sword  作者: ツツジ
本編
37/187

第37話 緊急事態

不穏なイケメン、何も起きないはずがなく




 三十分後。意気消沈の七音と勇人が地面に突っ伏していた。




「できにゃい」

「ナンデ?」

「二人共、スポーツドリンクですよ」

「「飲むぅ」」


 いつの間にか外に出ていた静葉が、自販機で買った飲み物を持って戻ってきた。三つあるカップのうち、差し出されたものを勇人と共に受け取り、一気に覆った。

 精神的な疲れの方が大きいが、喉が渇いていたのも事実だ。冷たい清涼飲料水が喉を通る様が心地いい。


「うめぇ!」

「美味し~!」

「根を詰め過ぎてもよくありませんからね」


 静葉は微笑むと、自分用に買ってきた飲み物を一口含む。七音も勇人もそれはわかっているが、『適合』の糸口さえ見つからない状態が焦りを加速させる。

 今までの練習が全く意味をなしていない事実と、感覚が掴めない事実。いくら悩んでも、答えが見つからなそうだ。


「静葉は『適合』できたんだよね? 何か、いい練習方法とかある?」

「………………私と適合できた人、有頂天で幹部になったと伊良さん尾名さんが話してきたんですよ……」


 そう言って目の光をなくし、虚空を見つめる静葉。

 我こそはと競うように『適合』をせがまれたものの、できたのは数人で適合率が基準以下の為に認められなかったという話だったが、下手に掘り下げない方がようだ。そう判断した七音は、気になっていることに話題を変えた。


「……ねぇ、零君から連絡あった?」

「特にないですけど……そこまで心配することないですよ。それに、七音ちゃんが止めたとしても、流華ちゃんはついていったと思いますよ? それ位、アレクさんのことが好きですからね」

「普段からは想像つかねぇな」

「アレクさんの雑誌を見る流華ちゃんが本当に可愛くてですねぇ。ロビンさんには近づくなって言われていたらしいですけど、私としては上手くいってほしいです」


 そう語る静葉は真剣で、本心だとわかる。だからこそ、七音が抱えている不信感を共有しにくい。ふと、勇人が何か気づいたようで声を上げた。


「そういやさ、アレクって誰とでも『適合』できるんだよな?」

「そういう話だけど……」

「そいつが一年間、誰とも組んでないのって変じゃないか?」

「…………気にいる人がいなかった、とか?」

「うーん?」


 勇人の素朴な疑問はもっともだ。二人揃って理由を探している時、壊れそうな勢いでドアが開いた。





「勇人達いるか!?」

「んおっ!? ヴィン!?」





 叫び、なだれ込みように入ってきたヴィン。驚きながらも名指しされた勇人が反応した。全力疾走したようで、今にも倒れそうな体で息を整えている。それも束の間、息が切れたままヴィンは口早に言葉を紡ぐ。


「やべぇーんだよ! とにかくやべぇーんだよ!」

「何がだよ!?」

「香月が、下の訓練室でなっ」


 流華が危険。名前が出た瞬間にその考えに至った七音は、何もかも捨てて走り出した。

 落下した飲み物が零れた音も、突き退かしたヴィンの声も、背後から七音を呼ぶ声もどこか遠くに聞こえる。早く流華の所に行かなくては。その考えだけが、七音を突き動かす。





 流華とアレクがどこにいるかは、一階に降りてすぐに分かった。見学窓に張り付いている女子生徒達。聞くに堪えないブーイングを垂れ流している。アレクの相手に選ばれなかった嫉妬だろうか。


「流華!」


 女子生徒達をかき分け、窓に近づく七音。押された女子生徒が悪態をつくが、今は気に掛ける暇はない。そうして窓までたどり着いて中を見た瞬間、七音は凍り付いた。



 足元まで草花が生い茂っている戦場。その中心にいる流華は、傍から見てもわかる程に酷い様だった。

 ぼろぼろになった制服、肌が見える部分には痛々しい切り傷や噛み跡が至る所にある。目に光が無く、手元にある大鎌の柄にしがみついて立っているのがやっとの様子だ。

 対して魔物は、まだまだ気力に溢れている。見えているだけで五匹。一見はドーベルマンだが、耳まで避けた口から鋭角な牙と涎を見せつけ、血のように赤い目が獲物を見定めている。


 訓練室の魔物は立体映像とはいえ、疲れや苦痛は実戦同様にその身をもって味わうことになる。そして戦闘終了後、訓練中の傷や服の損傷は入室時のまま元通りになる。

 だからといって油断はできないと、シルヴァンがはっきりと告げていた。あまりにもリアルな仮想は現実に変わる。つまり、訓練室での重傷や死亡は身体に悪影響を及ぼす可能性が高いと言う。

 最も、訓練室を使う生徒達は実力を考えて戦闘シミュレーションを選択するので、過去にそういった例はないと聞いていた。


 その状況が今、目の間で起きている。流華が危ないと、血の気が引いていく。カタカタと体は震える。


 潜んでいた一匹が流華の背後を取り、襲い掛かった。流華は気づいて避けようとしたが、一瞬遅かった。獰猛な牙が流華の肩に刺さり、そのまま一部を食い千切った。流華の悲痛な顔が目に焼き付く。


「る、流華……流華ぁ!!」


 七音は防音という事も忘れ、窓を叩きながら叫びだした。頑丈な窓はビクともしないが、ここを壊して流華の元に行くという考えしかない。

 ふいに、背後から引っ張られて窓から遠ざかった。


「こっちだ七音! って、真っ青じゃねぇか!?」

「流華が、流華が!!」

「わぁーってる! だからこっち!」


 錯乱状態の七音を、肩を抱いた勇人が歩かせる。女子生徒の波をかきわけて抜け、そのまま目的の方へと向かう。

 見えてきたのは訓練室の入り口だ。その前に人だかりがあり、声が段々と聞こえてくる。


「先生早く! ハリー!」

「分かってるけど、このコード自体が初使用なんだよ!?」

「あ、そこはこうかと」

「さすが桜小路さん!」


 壁にあるモニターに繋いだパソコンを前に悪戦苦闘な響、それを横から急かす零とアドバイスをする静葉。


「連れてきましたくろえ様、ってくろえ様は!?」

「あとはよろしくと、風浦さんと帰りましたよ!」

「畜生め!」


 くろえがいない事にショックを受けて壁を叩くヴィン。どういう経緯で集まったかよりも、流華の安否が心配だ。勇人から離れて、近くの零に詰め寄る。


「流華に何が起こったの!? ねぇ!?」

「お、落ち着いてください! 今、それを解決するべく響さんにお願いしていますので!」

「ってか、何があったんだ!?」


 混乱する七音を落ち着かせつつ、零はあったことを話し始めた。


人は錯覚で死ねると、ある心理試験で聞いた事があります

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