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My own Sword  作者: ツツジ
本編
36/187

第36話 笑顔の仮面

前回。イケメンモデルが現れた!


「初めまして。貴女が『戦艦様』や『特待生』と噂になっている双葉さんですね?」

「双葉じゃなくて七音です」

「ああ、それはすみません」


 すまなそうに眉を顰める姿も絵になるのは、さすが現役モデルだなと感心する。ただ、七音としては目の前のアレクよりもドアの方が気になる。ドアから中をうかがっているファン達の視線に、今にも射殺されそうだ。

 よく見れば、例の三人組もいる。つくづく嫌な縁があると心の中でしかめっ面になった。沈黙を謝罪の受け取りと捉えたらしいアレクは表情を戻して話を続ける。


「噂はかねがね聞いています。貴女ならと思い、こうしてこの島に戻りました。是非とも、僕と『適合』を試していただきたいのですよ」


 にっこりと笑みを浮かべて手を差し出すアレク。一際大きな声が室内に木霊する。

 勇人も静葉達も見守る中、七音は差し出された手を見つめていた。この手を取るのに、躊躇がある。




 実際目の前で見て、はっきりとわかった。モデルの時も、雑誌のインタビューの時も、今のような優しい笑みだった。

 だが、似たような笑みを七音は身近で何度も見たことがある。マサルがよく見せていた笑顔だ。



 同級生や両親の知り合いなど、付きまとってくるが簡単に関わりを切れない相手に見せていた表情。



 前に家に来ていたマサルの友人が、笑顔の仮面だと笑いの種にしていた。本心を隠して円滑な関係を保つ為の演技、どうでもいい相手を適当にあしらう上手い方法。

 トイレに行く途中で会った七音にそう熱弁していた友人は、気が付いたら背後にいたマサルにゲンコツを入れられて部屋の中に戻されていった。それ以降、七音がその友人に会う時には必ずマサルが傍にいる様になった。





 その笑顔の仮面を、アレクはずっとつけている。アレクが何を考えているか、何一つ分からない。くろえよりも恐ろしい存在に思える。






 強張った表情でどう断ろうか迷っていると、腕をグイっと引かれた。


「わりぃな先輩! 七音は今、オレと練習中なんだ!」


 そう言ってにかっと笑う勇人。七音の腕を、勇人がしっかりと握っている。その温かさに頬が緩みそうになりながら、七音はアレクに見据えた。


「そうなんです! なので、お誘いは嬉しいのですが……!」


 失礼にならないよう、誘いへの礼も述べる。ドアの方から鶏を絞めたような怒声が聞こえてきたが、気の所為だろう。だが、断った瞬間にアレクの表情が変わった。

 不快さを露わにした形相。それに恐怖する前に、アレクは笑顔のまま口を開いた。


「相手がいるのなら仕方ないですね」


 声色も、表情も、先程までと同じだ。むしろ、一瞬だけ見せた表情が七音の見間違いかと思うレベルだ。

 だが、これでアレクは他の相手を探しに行くだろう。ほっとしたのも束の間。立ち上がったアレクはさらに奥に歩を進め、手を差し出した。


「では、隠れているお嬢さんはどうですか?」

「ひゃいっ!?」


 いつの間にか、静葉の後ろにいる流華を見つけていたようだ。先程まで鈍器代わりにしようとした鞄は放り投げたようで、壁際にべちゃっと落ちていた。

 真っ赤な顔で身を乗り出した流華が、おずおずとアレクの手を取る。濁音交じりの悲鳴と静葉や零の喜ぶ声が耳に響く。


「流華っ、待っ……!」

「七音、ありがとう。行ってくる」


 危険だと伝える前に、顔を綻ばせた流華が嬉しそうに話す。自分に回す為に断ったのだと流華は考えているのかもしれない。そんな嬉しさ全開の流華を、止めることなど七音にはできない。

 流華は七音達に手を振った後、アレクにエスコートされて部屋を出ていった。その後を追ったファンの声が聞こえなくなってから、七音は唇を噛み締めて床を叩いた。



「止められないよあんなの!!」



「あんな嬉しそうな流華、見たことないもんな。でも、大丈夫なのか? 七音的には敵なんだろ?」

「敵ってわけじゃないけど、あんまりいい人っぽくないかな~。って、勇人君に話してないよね? なんでわかったの?」


 七音の疑問に、勇人はキョトンとした顔のままごく普通に答えた。


「さっきの七音の態度。アレクの誘いに困ってるみたいだったし」


 あっけらかんと言っているが、先程の行動は七音を守る為の行動だったと同時に言っているようなものだ。それがわからない訳がなく、かぁっと頬が一気に熱くなる。胸が少しドキドキする。

 七音の変化に勇人はわからず首をひねった。その時、ごほんと空咳が主張するように聞こえた。


「自分的に、いちゃこらぁ……は部屋でじっくりねっとりしていただければと」

「ダメですよ零君。勇人君、そういうのでなくただ単に守るというヒーロー的行動しただけみたいです」

「戦隊系のレッドポジション並みの無自覚たらしですね」

「オレ、レッド!? よっしゃ!」


 静葉と零の会話も、自分の興味ある分野しか拾わないようだ。そんな勇人に少しもやっとしながらも、の方を見る。流華は大丈夫なのだろうか。けど、自分が行ってどうなるのだろうか。

 考えこむ七音の前に、手が差し出される。見れば、勇人が立ち上がって七音をまっすぐに見つめていた。


「ごちゃごちゃ考えても仕方ねえよ。とりあえず、オレたちはできることやろうぜ!」

「気になるのなら、私が流華ちゃん達の様子を見てましょうか?」

「自分的には、前に適合された静葉さんが七音さん達を見てた方がいいですよ。自分が行ってきます!」


 零が敬礼をして部屋を出ていく。それを見送った七音は、少し気持ちが楽になった。そして、勇人の言葉に手を握り返して答えた。



ドキッて回で青春してる気がします。

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