第34話 異常な変化を武蔵は見た
前回。首チョンパな死体が跳ねた
「え……」
呆けた声が出る。
完全に事切れたはずの女子生徒の身体が二、三度大きく跳ねた後、逆再生のようにその場に立ち上がった。ぼこぼこと切断面が赤い泡を出す。そこから、ゴボッと大きな塊が飛び出した。
ぎょろっとした大きな目、前に長い顔、赤く濡れたカメレオンの顔だった。それは左右の目玉を不規則的に動かしながら、剣のように鋭く長い舌をずるんと出した。
魔物だ。呆気にとられる武蔵に対し、くろえは魔物を見てクスクスと笑う。
「敵本拠地に乗り込むなんて……随分強気ね」
そう言い切った瞬間、手に持った鉄扇を大きく振るう。途端、強い突風が大和を襲った。
「うわっ!?」
『なにこれ、強風~!?』
『属性の攻撃だ! 魔物の身体に風の斬撃が入ったようだが、致命傷ではない!』
目を瞑る武蔵を後目に、王夢が分析と状況説明をする。目を開ければ、魔物は自分たちから距離を取っており、そこから舌を突き出した。
猛スピードで迫ってくる舌を難なく躱し、カウンター再び鉄扇を振るうくろえ。すると、風の刃が届く前に魔物が風景に溶け込んで消えた。
「消えた!?」
「変身能力? 擬態能力? どちらにしても、厄介ね」
冷静な分析を聞きながら、武蔵は舌打ちをする。王夢と一弘の助言のもと、ライフルを背に戻して拳を握り、近接戦型へと切り替えた。
周囲の気配へと気を巡らすが、魔物の跡が掴めない。集中するも、樫城くろえがいる事実で気が散りそうだ。
何もない空間から、突如として槍のような舌が迫ってきた。紙一重で躱した武蔵は、そのまま舌を掴み上げようと手を伸ばす。だが、舌はすぐに引っ込みながら消えていった。
虚空を掴んだ手を戻す武蔵に聞こえるよう、くろえが呟く。
「面倒ね。すぐ終わらせるわ」
わざわざ喧嘩を売っているのかと、武蔵は睨みつける。だが、目の前の光景に目を丸くした。
くろえは鉄扇を広げ、その中央に舌を這わせていた。絡ませた唾液が艶めかしく光を反射する。淫靡な光景に顔を赤らめかけたが、それ以上に別の要因が武蔵の目を引いた。
舐められた箇所を起点に、鉄扇が紫色へと変わっていく。
「っ……!?」
「終わらせるわよ、璃久斗」
そう呟くと、今まで同様に鉄扇を振るうくろえ。違いはすぐ現れた。
扇がれた先、くろえから少し離れた場所に風が渦巻き始めた。小さな渦はどんどんと大きくなり、僅か数秒で人の背丈の何倍もある巨大な竜巻が形成された。
近くにいるというのに、巨大な竜巻に引き込まれる気配はない。唖然と竜巻を見ていると、視線の先から耳を劈く奇声が響いた。
竜巻の中央に、あの魔物がいる。いつの間にか巻き込んでいたようだ。逃げ道のない所で四方から襲い来る風の刃に、魔物は成す術がないようだ。
暫くして、竜巻はふっと止んだ。同時に、ズタズタに引き裂かれた魔物が落下し、二度と動く様子は見せなかった。それを見て、くろえは鉄扇を閉じて背筋を伸ばした。
「んんっ……あれを使うと、いつもより疲れるわね。他にはいないと思うけど、上に報告しておかないと」
「待て!」
魔物を倒し、踵を返そうとするくろえを武蔵が止めた。不思議そうな顔のくろえが武蔵には信じられなかった。
「お前……一体何なんだよ…………!」
声が若干震える。今の武蔵にとって、目の前の特待生はあまりにも異質な存在に見える。王夢、一弘、声に出していないが樹も同じ意見だった。
なぜ、魔物だとわかったのか。教員達に知らせなかったのか。属性の力が増したのは何だったのか。聞きたいことが山ほどあり、グルグルと頭を回る。
困惑する武蔵の顔を見つめ、くろえは静かに片目を閉じてほほ笑んだ。
「秘密よ、『戦艦様』」
バタバタと何人も駆け足で行き交う音が、七音の耳を通り抜ける。周りの喧騒より、中の二人に意識が向いていた。
何が起きたか、音がなくても十分に伝わってきた。魔物とわかった瞬間、見学者の半分以上が悲鳴を上げて逃げていった。
魔物への耐性のない一年生ばかりだ。敵が近くにいるというだけでパニックを起こしたのだ。その後、比較的まともな数人が教員を呼びに駆け出した。
その場に残り、窓越しに最後まで見届けたのは七音と流華達を含め十数人ほどだ。皆、唖然とした表情で中を見ている。改めて、『樫城くろえ』の強さを実感していた。
「特待生、強すぎだろ……」
「……うん……」
「ってか、この島に魔物が侵入ってやばくない?」
「ゲロやばじゃん……」
隣の知り合いに話している内容も、近くにいる七音達に聞こえている。七音の周りも、徐々に口を開きだしていく。
「くろえすごい。強すぎる……!」
「強すぎて危険」
「……あんな強い属性を放っても平気なんですね……」
「ダークヒーロー的なポジション? でもなぁ……」
「勇人」
「何だ?」
「くろえ様の舐める行動がエロ過ぎて俺のエクスカリバーが戦闘状態解けない」
「聖剣の名前を穢すなダガー!」
「そんなちゃちくねぇよ!」
「……そこじゃないです二人共……」
勇人とヴィンだけが通常通りのまま、議論があちこちで始まる。やがて、騒ぎを聞きつけた教員が集まり、生徒達はその場から追い出された。
戦闘を終えた武蔵にもくろえにも、七音は会うことなくその日が終わった。
ここで区切れてまた日にち飛びます。
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