第33話 武蔵のファン
少しグロ注意
『武蔵ぃ~?』
昔を思い出して口角を上げる武蔵に対し、問い詰めるような一弘の声が響いた。瞬間、一弘が言わんとすることを察して身体が強張る。
確実に怒られる。そう判断した武蔵は聞こえないフリをした。何度呼ばれても素知らぬ顔。だが、今は適合中だ。
適合している間、男性は話すことができない。その代わり、適合相手の女性とは念話という手段で意思疎通はできる。脳内に直接声が響くのだ。聴覚はあるので、周りの音は拾える。
耳を塞ごうが聞こえる声を無視とするという事が無謀なのだ。
『むぅ、さぁ、しぃ?』
「……………………ハイ」
区切りが短く、間延びも短く、語尾は上がる。この口調の一弘をこれ以上刺激してはいけない。長年の付き合いからわかってしまう武蔵は返事をした。
『今日のぉ、練習のぉ、目的はぁ、覚えてるぅ?』
「…………遠距離における、お前の命中率を上げることです」
『そうだよぉ? それでぇ、今の戦闘はぁ?』
「…………なかなか当たらないので、樹で距離縮めて零距離射撃しました」
『それぇ、練習になってないよねぇ?』
「…………ごめんなさい」
はた目から見れば武蔵一人が突っ立っているだけだが、脳内イメージでは仁王立ちの一弘の前で武蔵が正座している状態だ。誤魔化さず、正直に答える武蔵に一弘が大きく息を吐いた。
『わかってるならいいや~。でも、次はちゃんと練習しないとね~』
「あっ、はい」
『安心しろ一弘。武蔵は小生が慰める』
「止めろ」
『そういう問題いじゃないんだよね~』
「『戦艦様』!」
会話が和やかになった時、女子の声で呼びかけられた。振り返れば、一人の女子生徒が同じ部屋の中にいた。その状況に武蔵は首を傾げる。
訓練室の立ち入りは基本的に、予約した人達しかしない。訓練中は扉にロックがかかり、入れなくなる。確かに今は訓練後で出入りは可能だが、そこは暗黙の了解というものだ。ガイダンスでも、そこは注意点として説明されているはず。
『誰、あの子~?』
『知らねぇ。そもそも、七音の周り位しか新顔覚えてない』
『だよね~』
目の前で念話を利用したひそひそ話。不審がる武蔵の顔など気にならないのか、女子生徒はもじもじと手を遊ばせながら真っ赤になって話しかけてきた。
「あ、あの、私…………ファンでして………………! その……見てたら、いてもたってもいられなくて…………!」
「そういうもんなのか?」
「そう! なんです…………!」
どことなく、嘘臭い。目の前の女子生徒を、武蔵は一目でそう判断した。王夢や一弘からも、同様の意見が出ている。疑惑の女子生徒はおずおずと手を差し出してきた。その手には、何もない。
「あのっ! あ、握手を……!」
「握手?」
聞き返すと、千切れそうな勢いで首を振る女子生徒。それと手を見て、武蔵は少し悩む。しかし、握手位なら問題はないだろう。そう思い、手を握り返そうと女子生徒に近づく。
「甘いわよ、『戦艦様』」
瞬間、女子生徒の首が飛んだ。何が起こったのか理解できない。ころりと首が地面に転がると、忘れたかのように切断面から血が噴き出す。ゆっくりと倒れる女子生徒の胴体。体越しに、別の少女が立っていた。
ゴスロリの服に水色を基調とした美しい鉄扇。冷たい笑みを浮かべた樫城くろえだった。
「か……樫城ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
全てを理解した武蔵が、怒りのままに叫びライフルを構える。銃口を向けられても、くろえは平然としている。
引き金を引く瞬間、視界の下で胴体が大きく跳ねた。
くろえは躊躇とかないです




