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My own Sword  作者: ツツジ
本編
32/187

第32話 武蔵の気遣いと想い

明かされる初めての出会い(武蔵視点)


 ロビンの言う通り、武蔵が使用予定の訓練場の見学窓は人でごった返していた。遅くに着た七音達は、同じくらいの時間に来た生徒達と共に後方から前列の頭を避けながら見るしかなかった。




 本来なら、其の筈だった。




「………………視線が痛い」

「でも、グッジョブ七音」

「あたしは何もしていない!」


 叫びながら目の前の窓を叩く七音。

 そう、目の前にあるのは見学用の窓ガラスだ。



 なんと、武蔵は七音の為に場所取りをしていた。それも、一番前の真ん中という、特等席。わざわざ広めにロープを張り、『七音と友人たちの場所』と手書きの札までつける徹底ぶりだ。

 遅れてきた七音達に対して、比較的仲の良い生徒達が茶化してきた時点で嫌な予感はしていたのだ。まさか、ここまで堂々と贔屓されているとは思わなかった。

 勇人や合流したヴィンは特等席に喜んでいるが、当事者の七音は手放しで喜べない。羨望、非難、その他諸々を含んだ視線が、この場にいる九割方の生徒から向けられている。

 それに気づかないほど鈍感でなく、平気なほど厚顔でもない。武蔵からの百%善意の行動だが、針の筵に近い。

 流華が優しく背中を撫で、零と後から来た静葉が心配そうに七音を見守る。早くこの場から逃げたい。武蔵の訓練を楽しみにする想いと同じくらいにそう思いながら、ひたすらに時間を待った。









 見渡す限り乾燥した地面が広がる更地。今回設定した、戦場だ。背後で扉が閉まる音を聞きながら、武蔵は砂の大地に足を踏み入れた。すでに適合を済ませており、いつでも戦闘に入れる状態だ。真剣な表情で地平線を見つめながら、まっすぐに歩みを進める。



 暫くして、甲高い機械音が響き渡る。瞬間、背のライフルを構えた。周囲に気を巡らし、耳を澄ます。



 耳障りな羽音が斜め後ろ、上空から聞こえた。ばっと振り返り、そこへ向けて引き金を引いた。予想していた通り、その方向に蠅をアドバルーンほどの大きさにした魔物。だが、斜線上から身を捩り、弾丸を回避していた。

 激しく羽を動かし、こちらに目掛けて突進してくる。巨体に似合わない速さだが、肉眼で確認できる速さだ。空中からの体当たりは横移動に弱い。瞬時に察して横に飛びよけると、再び銃を数発撃つ。だが、いずれも魔物は躱していく。


 思わず舌打ちをする武蔵。突進と遠距離射撃。互いに決定打がない。それならば、戦い方を変えればいい。


 再び突進してくる魔物。ブーツで地面を蹴り、逆に一瞬で目の前まで近づく。そして、醜悪な顔面に銃口を向けて撃った。弾は顔面から胴体まで突き抜け、魔物に綺麗な風穴を開けた。

 飛ぶ力を失った魔物はそのままのポーズで固まり、一気に落下した。その近くで着地する武蔵。


「……ふぅ」


 戦闘終了に、小さく息をつく。緊張の糸を解きながら、見学窓の穂へと視線を移す。多くの生徒が拍手や応援する姿が見受けられるが、武蔵の目当ては七音だけだ。自分が用意した場所にいるのを見つけ、一気に顔が輝く。


「やっぱり見に来てくれたんだな!」


 嬉しさでぶんぶんと手を振る武蔵。途端、見学席が更に湧き上がったように見えた。完全防音の為、音が聞こえないが反応だけでなんとなくわかった。

 その中で、七音は遠慮がちにほほ笑んで手を振り返してくれている。できれば満面の笑みが見たかったが、それだけでも十分だった。





 自分がこの場にいられるのは七音のお陰だと、武蔵は自覚している。





 七音は魔物の襲撃事件の時が初対面だと思っているだろう。だが、武蔵はその前から七音の事を知っていた。


 皇財閥の御曹司、その幼馴染というのは幼い武蔵には重い肩書だった。息子を溺愛する現当主が息子と同年代の子を対象に、自社に勤める家庭から吟味して選別したのが、武蔵、一弘、樹の三人だった。

 別にそれはいい。実際、武蔵にとって気の合う友人が一気に増えたので楽しかった。問題は、親からの干渉が酷くなった事だ。

 もっと気に入られるようにしろ、女らしくしろ、坊ちゃんに従え。武蔵を出世の道具くらいにしか考えていない両親は、毎日呪詛のようにそう言い続けた。元々、女らしい姉ばかり贔屓にしていた両親だ。溝はどんどん深まっていった。


 家に帰りたくない日々の中、唯一の安らぎが七音の笑顔を見ることだった。


 たまたま帰路の公園で見かけた、年下の女の子。ころころ変わる表情と連動する頭の双葉。特に笑顔が眩しくて、見ているだけで荒んだ心が癒されていった。

 王夢の家で遊ぶ時にも話題に出したその子を、三人が一目見てみたいというのは当然の流れだった。少し誇らしげにしながら三人を案内した。

 だが、公園はいつもと違って騒然としていた。人の流れに逆らって中を見れば、巨大な蟻があの子に迫っている所だった。恐怖で引きつった顔のあの子。すぐに助け出そうとしたが、三人によって止められた。


 無茶なのはわかっている。けど、助けたい。そう強く願った時だった。


 三人に掴まれた箇所が熱を持ち、いろいろと流れ込んでくる。初めての感覚に戸惑っている間もなく、三人が手、背中、足元でそれぞれ武器となった。

 茫然としたのは一瞬だけで、これなら助けられると武蔵は確信した。そして、地面を蹴り駆けた。





 『魔物』、『適合』、『水無月学園』など説明されたが、武蔵には難しいことはわからなかった。それよりも、あの子の名前がわかって仲良くなれそうだという期待の方に意識を向けていた。

 嬉しい出来事は続くもので、これ以降に両親から呪詛を言われることが無くなった。『水無月学園の特待生』という娘の肩書きに満足したのか、再び興味は姉へと移っていった。




 何もかもが武蔵の追い風となった。それをもたらした七音を誰よりもかわいがるのは至極当然のことだった。

 


幼なじみ選出編はどこかでかけるといいなと思います

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