第30話 進まぬ交流
誰もが忘れてるだろ船内会話のフラグ回収
現在時刻、三時を少し回った頃。
武蔵達の説明が終わってから、すでに一時間半程が経過している。先輩後輩という立場を忘れ、和気藹々と談笑があちこちの部屋から聞こえてくる。何人かは相手を見つけ、下の階に降りただろう。
その内の一室、七音達四人は一つのテーブルを囲んで座っていた。明らかに落ち込んでいる七音と勇人、無表情ながらも苛立ちがわかる流華、唇を尖らす零。
バラバラの反応だが、周りの人たちが距離を話しているのが原因だとハッキリと示していた。
「……つらぁ」
「……ヒーローってのはな、こう、孤独過ぎてもいけないんだ……」
「全員、見る目ない。七音、こんなにいい子なのに」
「正直、噂のことがここまで影響しているとは……ヴィン君がいないから大丈夫かと、高を括っていました」
無意味に手元を遊ばせながら、零が小さく呟く。それに心の中で同意しつつ、七音は何度目かわからないため息をついた。
武蔵達が部屋を出た後、他の生徒もぞろぞろと後に続いた。邪険された好日花達を尻目に、七音も部屋を出た。
出てすぐに流華、静葉と合流できたものの、伊良と尾名が詰めかけてきた。静葉と適合を試したい信者達が大勢いるので、ぜひともという誘いだ。
困惑気味に七音達と二人を見比べる静葉の背を、流華と共に押した。適合を試したいという相手がいるなら、やらなければ勿体ない。自分や流華はいつも一緒にいるから、たまには別行動でもいい。
そう言えば静葉は安堵の笑みを浮かべ、別れを述べてから二人に着いて行った。先に流華からこの展開があると言われていたので、冷静に見送ることができた。
静葉を見送ってから辺りを見渡し、勇人と零とも合流した。
ヴィンがいない事にツッコめば、なんとも言えない表情になる二人に七音と流華はまたかと呆れた。くろえ以外に使われる気はないと迷言を残し、同じ様な主張の数人と共にくろえを追いかけていったそうだ。
それでもヴィンの行動は予想できていた為、そこまで驚くものではない。
流華の予想通り四人になりながら、交流しようと三階の部屋へと上がった。
だがしかし、それから今に至るまでまともに交流ができていない。ちらちらとこちらを見ているが、話しかけると顔を引きつらせてうまく言い訳をしては別の所へ向かう。酷い場合、小さな声を上げて逃げる様に去って行った。
他の一年生とは違い、明らかに避けられている状況。思い当たる節がなく頭を抱えていると、流華と零が原因に気付いたのだ。
初日に流れた噂の所為だ。同級生は七音と勇人を主観的な目で、そこまで警戒する相手ではないと判断している。だが、上級生が知っているのは噂のみで、二人の人間性は何も知らない。
結果、七音は『危険な特待生と仲がいい』。勇人は『危険な特待生に喧嘩を売った』。その情報だけが先走り、巻き込まれないために七音達を避けているのだ。
説明されて理解した七音と勇人は落ち込むしかなかった。七音の落ち込み具合を表すように、頭の双葉が垂れ下がっている。そんな七音を慰めつつ、そういう状況を作った上級生たちにふくれっ面で悪態をつく流華。零は三人を落ち着かせながら、これからの行動を考えていた。
「周りの楽しそうな声が……羨ましいです……!」
「わかる……!」
「よしよし」
「しかし……初日の同級生と同じ状態ですと、最初の一人が話かけてくるまで二週間程でした。それよりも遥かに接する時間が短いことを考えると……」
「……一か月くらい?」
「その位はかかるかもしれませんね。自分的には上級生との繋がりがある方が楽だと思いますが、時間がかかるならそれを飛ばして僕たちで『適合』を試してしまうのも手かと」
「でもよぉ、零言ってたじゃん? 『適合』除いても、仲良くしといて損はないって」
「そうですよ」
あっけらかんと零が頷く。三年間と長いようで短い時間を有効に使うには、兎にも角にも情報が必要になるらしい。その為、上級生との交流はしておいた方がいいとのことだ。
だが、現状は悲惨である。勇人達と『適合』を試すという話は前から決めていたことではあるものの、わざわざ初日に試すものではない。
どうしようもない状況の打破を考えていたからか、そういう人物がいないとあきらめていたからか、真っすぐに近づいてくる人物に気づかなかった。
「大変さねぇ、流華」
「ぴゃっ!」
頭上から声がかけられると同時に、流華が可愛らしい悲鳴を上げた。
驚く流華の背後に、見たことがない人物が立っている。流華の頬近くに缶ジュースを浮かせ、ニヤッと笑っている。
どこか影のある雰囲気を持った男子生徒で、ヨーロ語が主流な地域によく見られる顔立ちをしている。オレンジのバンダナから茶色の髪を出しており、白い棒状を咥えている。何より特徴的なのは、顔や伸ばした手に描かれたタトゥーだろう。
日ノ国でタトゥーは裏社会というイメージが強く、七音は身構えた。しかし、振り返ってその人物を見た流華は表情を柔らかくした。
「ロビン兄さん!」
「「「お兄さん!?」」」
アンニュイ系イケメンもありだと思うこの頃




